会話
隣のブランコで同じように空を眺めている彼の横顔を、そっと見つめた。
無数の星の瞬きと、彼の瞳が目と目で会話をしているみたい。
「何の話しを、してるんですか?」
そう見えたから、自然と出た言葉だった。
「え? そう見える?」
尋ねた彼の、驚いたような表情に、あたしは黙って頷いた。
「そうだね。確かに俺は、星と話してるのかもしれないな…」
呟くように、彼は話してくれた。
彼にとって七夕は、『特別な日』だった。
「俺の父さん、今日が命日なんだ。俺が小さい頃に交通事故で、亡くなったんだよ…」
そのことは、風の噂で聞いている。
今朝の会話に出て来た、歳の離れた妹は、お母さんの再婚相手との間に出来た子供で、彼とは異父兄妹だということも。
父親が、この世にいない。
そのことを説明しても理解できない歳だった彼に、母親は言う。
「父さんは、この空のお星様になったんだよ、って」
「………」
「だからかな?
毎年この日は、父さんに話しかけてしまうんだよ」
一年に一度だけ、自分に逢いに来てくれる気がするんだ…。
そう言った、彼の瞳は今にも泣き出しそうに見えて、あたしの胸はチクリと痛んだ。
「お父さんの星にはかなわないかもしれないですけど…。
あたしでよかったら、彰先輩の……」
『話し相手になりますよ』
そう続けようとして、言葉に詰まった。
それってちょっと、偉そうだよね!?
だけど、その後に続くいい言葉が思い浮かばなくて、俯いてしまう。
励ましたいのに、言葉が出て来ない。
しばし沈黙…。
ヤバイ。気まずい。
何か言わなくちゃ。
顔を上げると、彼と目が合った。
「…って、あたしじゃ、お父さんの代わりはできないですよね!?」
変なことを言ってしまった。
照れ隠しに、笑ってごまかしてみせたけれど、彼は真剣そのものの瞳で、あたしを見つめている。
「えっと…」
何か言わなくちゃ。
焦るあたしに、彼は言う。
「うれしいよ。
美月ちゃんには色々と、話したいことがあったから」
『聞いてくれる?』
そう彼が尋ねるから。
「はい。喜んで」
あたしも笑顔で、そう答えた。
と、彼は立ち上がると、今度は近くのベンチに座って、
「美月ちゃんも座って」
と言う。
ブランコよりも、近い距離にドキドキしてしまう。
遠慮がちに、少し離れた場所に座ると、
「警戒しなくても大丈夫だよ。
美月ちゃんのこと、襲ったりしないから」
笑いながら言う彼の言葉に、
「…そんなコト、思ってませんよ!!」
本気で反応してしまう、あたし。
「じゃあ、もっと側に来て?」
冗談か本気か分からない彼の言葉に、顔が熱くなる。
優しく促されて、あたしは彼の近くに座り直した。
彼の吐息を感じる距離に。