表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

会話

隣のブランコで同じように空を眺めている彼の横顔を、そっと見つめた。


無数の星の瞬きと、彼の瞳が目と目で会話をしているみたい。


「何の話しを、してるんですか?」


そう見えたから、自然と出た言葉だった。


「え? そう見える?」


尋ねた彼の、驚いたような表情に、あたしは黙って頷いた。


「そうだね。確かに俺は、星と話してるのかもしれないな…」


呟くように、彼は話してくれた。


彼にとって七夕は、『特別な日』だった。


「俺の父さん、今日が命日なんだ。俺が小さい頃に交通事故で、亡くなったんだよ…」


そのことは、風の噂で聞いている。


今朝の会話に出て来た、歳の離れた妹は、お母さんの再婚相手との間に出来た子供で、彼とは異父兄妹だということも。


父親が、この世にいない。


そのことを説明しても理解できない歳だった彼に、母親は言う。


「父さんは、この空のお星様になったんだよ、って」


「………」


「だからかな?

毎年この日は、父さんに話しかけてしまうんだよ」


一年に一度だけ、自分に逢いに来てくれる気がするんだ…。


そう言った、彼の瞳は今にも泣き出しそうに見えて、あたしの胸はチクリと痛んだ。


「お父さんの星にはかなわないかもしれないですけど…。

あたしでよかったら、彰先輩の……」


『話し相手になりますよ』


そう続けようとして、言葉に詰まった。


それってちょっと、偉そうだよね!?


だけど、その後に続くいい言葉が思い浮かばなくて、俯いてしまう。


励ましたいのに、言葉が出て来ない。


しばし沈黙…。

ヤバイ。気まずい。

何か言わなくちゃ。


顔を上げると、彼と目が合った。


「…って、あたしじゃ、お父さんの代わりはできないですよね!?」


変なことを言ってしまった。

照れ隠しに、笑ってごまかしてみせたけれど、彼は真剣そのものの瞳で、あたしを見つめている。


「えっと…」


何か言わなくちゃ。

焦るあたしに、彼は言う。


「うれしいよ。

美月ちゃんには色々と、話したいことがあったから」


『聞いてくれる?』

そう彼が尋ねるから。


「はい。喜んで」


あたしも笑顔で、そう答えた。


と、彼は立ち上がると、今度は近くのベンチに座って、


「美月ちゃんも座って」


と言う。


ブランコよりも、近い距離にドキドキしてしまう。


遠慮がちに、少し離れた場所に座ると、


「警戒しなくても大丈夫だよ。

美月ちゃんのこと、襲ったりしないから」


笑いながら言う彼の言葉に、


「…そんなコト、思ってませんよ!!」


本気で反応してしまう、あたし。


「じゃあ、もっと側に来て?」


冗談か本気か分からない彼の言葉に、顔が熱くなる。


優しく促されて、あたしは彼の近くに座り直した。


彼の吐息を感じる距離に。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ