星空
部活帰り、いつもは自転車で帰るところだけれど、今日は歩いて。
星空でも眺めながら、ゆっくり歩いて帰るのも気持ちいいだろうな…。
などと思っていたら、『俺達も一緒に帰るから』って、彼の同級生で、あたしにとっては部活の先輩でもあるカップルも急遽仲間入り。
4人で帰ることとなった。
二人は最近付き合い始めたばかりだけれど、ずっと仲のいい友達だった二人の会話は、息の合った夫婦漫才のようで、そのやり取りを聞いているあたしは、笑いが止まらなくなるくらい、お腹を抱えて笑った。
彼と二人きりだと、こうはいかない。
普段からあまり会話のないあたし達だから、沈黙してしまうこともしばしば。
気まずい雰囲気だけは嫌だと思っていたから、4人で帰るのも悪くない。
楽しい時間はあっという間で、電車はまたたく間にあたしの住む駅へと着いてしまう。
「じゃあね!」
と手を振る二人に別れを告げて、あたし達は駅を後にした。
二人きりになると、急に別れが惜しくなる。
『もっと一緒にいたい…』
たくさんの星々に、願いをかけてみる。
七夕の今日なら、あたしの願いが彼に届く気がして。
「美月ちゃん。
ちょっと寄り道して帰りたいんだけど。
いいかな?」
案の定、あたしの願いを聞き届けたかのような彼の一言に、あたしは嬉しくなってしまう。
「はい。大丈夫です!」
寄り道。
とは言っても、辺りは暗闇に街灯の明かりだけ。
…どこに行くんだろう?
と思いながら、後をついていく。
彼は駅のすぐ近くにある小さな公園の中に入ると、ブランコに腰掛けた。
「美月ちゃんも座って?」
言われるままに、隣のブランコに腰を落とす。
子供の頃に戻った気分で、ユラユラしながら、天を見上げた。
そこには、無限にちりばめられた宝石が瞬いているかのような、星空が広がっていた。
宝石箱をひっくり返したかのようなその星空に、放り出されたかのような、吸い込まれるような気分で、全身で星を感じる。
「何年ぶりかなあ?
こんな風に誰かと星を一緒に見るなんて」
同じように空を見上げた彼の呟きに、
「あたしは、こうして星を見ることが久しぶりです」
ひとつひとつの星の輝きを目に焼き付けようと、見つめる瞳がその輝きで潤む。
会話は要らない。
そんな風に思えるくらいに、一瞬の煌めきに目を奪われる。
この星々の中、どこかで出会っているかもしれない織り姫と彦星に思いを馳せ、天の川を見つめた。
白く輝く星の川。
二人を隔てるこの川を越えて、一年に一度限りの逢瀬。
それはすごくロマンチックだけれど、逢えない日々を思うと切なくて、淋しい…。
潤んだ瞳に、星が溢れた。