願い
家を出て、ふたり並んで歩く。
歩き慣れたこの道も、隣に彼がいるだけで、違う場所にいるみたい。
なんだかくすぐったいような、変な気分。
「美月ちゃんの家って、みんな仲良しなんだね」
「そんなことないです。
妹とは、しょっちゅうケンカしてますよ」
…それに。
姉なのに、妹にからかわれるし。バカにもされるし。
「けど、そういうの、羨ましいよ。俺は」
「ええっ? なんでですか!?」
「アニキとはあんまり話さないし。
妹とは歳が離れてるから、ケンカにもならないし。
美月ちゃん家みたいな、和気あいあい的な雰囲気が、俺ん家にはないんだよねぇ…」
そう言うと彼は、少し淋しそうな表情を浮かべた。
いつもは明るく、元気な彼の影の部分を見てしまった。
見てはいけないものを見た気がして、あたしは、かける言葉に悩んでしまう。
何か気の利いた一言でも、言えたらいいのに…。
「ごめんね。朝からこんな、暗い話」
「いえ。そんなことないです」
俯きがちに、答えてしまう。
「ほら。美月ちゃんも、そんな顔しないで!」
あたしの肩にポンっと手を置いて、彼は言う。
いつも陸上部の練習中に、そうやって励まされている。
多分、彼からの言葉にならないメッセージ。
『がんばろう!』
あたしの肩に彼の手が触れると、不思議と力が沸いて来て、本当にがんばれるんだよね。
「今度、家に遊びに来たらいいですよ。
家の妹でよければ、ケンカの相手くらいにはなれますから」
彼から貰った勇気で、あたしも何か励ましたくて出た言葉だった。
冷静になって考えると、彼を自分の家に誘うなんて、それこそ彼氏・彼女みたいじゃない。
そのことに気がついたあたしは、また顔を真っ赤にさせて、すぐに後悔。
だけど、彼は本当に嬉しそうに『ありがとう』と笑ってくれた。
その笑顔につられて、あたしも笑顔になってしまう。
…最悪…。
そう思えた一日が、彼の笑顔ひとつで最高の一日になる。
それが、『恋』の力なのかな?
あたしは、その日一日を、本当に最高の気分で過ごすことができた。
歩いて登校したあたし達のことは、ちょっとばかし話題にもなったみたいで、『付き合ってるの?』って、今日一日よく質問された。
本当は『そうだよ』って答えたいところだけど。
「違うよ。
そうなったらいいな…。
とは思ってるけど」
いまさら隠すことなんてない、自分の正直な気持ち。
7月7日。
彼との未来を、声に出して願ってみた。