約束
この小説は、『七夕小説企画・星に願いを』参加作品です。
「明日は、星がキレイな夜になりそうですね」
部活が終わって、星の広がる空を見上げて何気なくつぶやいたあたしの一言に、
「じゃあ、明日は電車通学しようか?」
隣にいた彼、沢崎 彰 が、そう言った。
あたし達は、陸上部の先輩・後輩で、彼に一目惚れをしたあたしは、陸上部への入部を決意。
単純な理由で入部を決めても、いわゆる名門と言われているこの部についていくのは大変で、毎日自転車通学をして、足腰を鍛えているあたし。
(といっても、部員のほとんどが自転車通学しているから、差を縮めるのは難しいけれど。)
そのことを知った彼が、あたしに付き合って一緒に登下校してくれている。
だけど、あたし達は恋人同士ではない。
彼がどんな気持ちで、あたしに付き合ってくれているのか、本心はよくわからない。
「たまには、歩いて帰るのもいいんじゃない?」
あたしを見つめて、彼はニッコリと微笑んだ。
その笑顔にドキリとさせられて、彼の気持ちとか、どうでもよくなってしまう。
嬉しい。
それだけで、充分幸せだから。
ドキドキしながらも、平静を装って『はい』。
短く、そう答えた。
「じゃあ俺、美月ちゃん家まで迎えに行くよ?」
「え?」
あたしと彼の家までは、駅で数えると三つ分くらいは離れている。
「でも…」
と戸惑うあたしに、
「家から学校まで通うと思えば、美月ちゃんの家までは楽勝・楽勝」
と言って、その場で素早い足踏みをして見せた。
「プッ」
思わず吹き出しててしまったあたしに、彼も照れ臭そうな笑顔になる。
「じゃあ、決定ね!」
「はい。お願いします」
ペコリと頭を下げて、明日の約束を交わす。
だけど…、ふと思う。
付き合ってるわけじゃない、この微妙な関係を思うと、少しばかり切なくもなる。
この関係がいつまでも続いて欲しい。
もっと進展したらいいのに…そう願いながらも、想いを伝えることで関係が壊れてしまうことを恐れている、あたし。
彼もあの笑顔の裏に、同じ気持ちを抱いてるのかな?
彼の背中を見つめて、心の中問い掛ける。
大きな背中。
たくましい身体。
長い手足。
柔らかな栗色の髪も。
全部。
大好きな、彼。
すごく近い場所にいるのに。
『スキ』
その一言は、遠すぎて。
なかなか言い出せない。