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魔法学園自体に入学するのは簡単だった。魔法が少しでも使えたら入れるようで、俺は難なくクリアできた。でも、魔法学園の入学金で俺の持っていた金はあらかた尽きた。何とかして稼ぎ口を見つけないといけなかったので、魔法学園のある都市「マルホーズ」で臨時の仕事をすることにした。働くことにしたのは、どこにでもある大衆食堂「道の果て」というところで、唯一の特徴は魔法学園に一番近い店ということだけだった。でも、魔法学園はそれ自体で完成された代物で、学園内でなんでも買えるため、学園外に買い物に来る人は少なかった。俺も、学園内にある寮に住んでいて-何しろ家賃が安いー食堂で働いているのは7時から、寮の門限である12時までの間だった。
そして、魔法学園にはある一つの決まりごとがあった。
-神の奇跡に触れるもの皆平等であれ-
要するにこれは生徒はみんな学園外のことは関係なく平等だ、ということだ。
そのため、この学園の7割以上を占める貴族にも、俺たち平民はへこへこしなくていいってことだ。これに関しては否定的な貴族が多く、結局俺たち平民は肩苦しい思いをしている。
そして学校に入学してから一週間が経った。
俺が入学した当初、周りからは騒がれたものだった。曰く、
-美少女現る!
-しかも俺っ子!
ーさらに貧乏!
ーどこぞのご令嬢だ?
全く困ったものだ。俺は平民の中の平民。ご令嬢じゃねーよ。
しかも、俺の姿形は入れ替わった体の持ち主-ミナ・アナスタシア-のものだから余計たちが悪い。はぁ、可愛い女の子はこんなにも苦労するのか。これから廊下で可愛い子を見かけても振り返らないようにしよう。そう心に決める。多分無理だけど。
なんとも苦労した1週間だった。
静かな廊下に声が響く。
「クロス…、不安じゃないの?」
大人しそうな雰囲気をした彼女が言う。彼女は俺と寮の部屋が隣で仲良くしている。いつもはラミという女の子も一緒だけど。女の姿をしている以上女と仲良くしなきゃな。べ、別に下心なんてないぞ。断じてないからな。
「まあ、不安ちゃ不安だよ。だけどさ、楽しみじゃん!入学してから1週間ずっと講義だけだったじゃん。ハナは不安なの?」
「う、うん。わたしあんまり実技得意じゃないの。」
「大丈夫だって。俺なんてまだ火がちょっと出るくらいだよ。」
すると、ハナはすごく驚いたような顔をして言う。
「よ、よく入れたね。この学園に。それに、火だけって、適正審査受けなかったの?」
「適正審査?あの杖持たされたやつ?」
そういや入学の時に魔法の試験の後、杖を持たされたような…。あん時確か、ほのかに光りながら、杖が伸びたんだよな。
「んで、なんだったの?適正審査って。」
「あ、あれはね…。どの分野の魔法が得意なのかを知るためのものなの。あの時どうなった。」
「杖が伸びた。あと、少し光った。」
「じゃあ、クロスは水魔法が得意なんだよ。次に光。」
へぇー、そんな便利なものなのか。道理でおれの炎魔法は上達しないわけだ。毎日練習してたのに。
俺とハナが喋りながら歩いていると目的地に着いた。そこはとてもでかいホールだった。
「おー、でっけぇ。これが、演習場全学ホールかー。」
「あ、みんなもういるよ。クロス、私たちもいこ。」
視線の先には俺と同じクラスの人たちがいた。
この学園には入学の決まった時期はなく、いつでも入ることができる。クラスは主に同じ年齢で分けられる。俺はこの体の正確な年齢はわからないけど、多分14歳だ、ということにしておいた。クラスは、ラミ、ハナ、ルスト、オズワール、ジン、そして俺の6人で構成されている。多分この中で古参組はラミ、ルスト、オズワールで比較的新しい組は俺、ハナ、ジンだと思う。
それにしてもなぜ魔法を使える子がこんなにいるのか?この学園だけでも総勢100はいるはずだ。俺の時代には人が魔法を使うのは滅多になかった。というかほぼゼロだった。俺が見たことあるのは『人類の英知』の奴らだけだ。それがどうしてこの時代にはこんなにも魔法が一般的なのか。俺は魔法学園の存在を知った時から、考えていた。結論は出ている。あの時、俺が捕まっていた時、赤いロープの奴らは言っていた。魔法は…遺伝的だと…。多分俺が子供を産んだら、その子は魔法が使えるんだろう。魔法がこれほど広まっているなら、いったいどれほどの人数が俺と同じような目にあったのか。俺はそのことを思うと、余計一層、奴らが憎くなった。
1組の面々と合流すると、ちょうどミリア先生が演習場に入ってきた。俺たちは整列して待つ。
「今日はトーナメント方式で実技を行う。」
ミリア先生は俺たちの前に来ると大きな声でそう言った。
さすがに驚く俺たち。入学して1度も実習はなかったのに、いきなり1対1の勝負なんて言われたら、そりゃ驚くだろう。
「センセー、急すぎませんかー?僕たちこれが初めての実習ですよ。」
ジン・ド・アンブルが批判する。俺はジンとは仲がいい。あいつや、ラミは身分に関してあまり関心を払っていないから、俺やハナとも普通に接して来るからだ。ちなみに俺、ハナは平民、ラミ、ジン、オズワールは貴族、ルストは王族だ。
ミリア先生はジンの批判など気にもせず言う。
「これは決まっていることだ。今から10分後に開始する。組み合わせはその時発表する。」
そう言い放って先生はベンチの方へ行ってしまった。
ラミとハナが話しかけて来る。
「クロス…。」
「どうすんの、クロス。」
「うっ、俺にそんな頼られても…。まあ、するしかないんじゃないか。」
「そうね。じゃあ、10分間の準備時間を有効に使いましょう。」
「う、うん。そうだね。」
と言うことで、俺たちは準備運動し始めた。
水魔法や光魔法も少し練習してみたが、炎魔法より楽に使うことができた。といっても、今の俺じゃ光魔法は目くらまし程度にしかできないけど。
そして時間はたち、ついに組み合わせが発表された。
第1試合ーハナ対オズワール
第2試合ーラミ対ジン
そして第3試合はルストとオレだった。