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「ねぇ、ハナ。今日、中央街行かない?」
ハナと呼ばれた少女は戸惑いながら答える。
「ラミ…さん。私と一緒にいたら…周りに色々言われるんじゃ…。」
「もー。さんはいらないっていっつも言ってるじゃない」
「うぅ。で、でも…。あなたは…貴族だし…。」
その答えにラミは少し怒る。
「この学園ではそんなこと関係ないじゃない。学則でもそうきめられているじゃない。どう思う、クロス?」
「うーん、俺に言われても…」
クロスは困った顔をして続ける。
「俺まだここにきたばっかだしな…。」
「んもー。」
ここ、魔法学園に来たのは1週間前のことだった。そして俺があの部屋を出ることができたのは、2ヶ月前だった…。
ドォーーーーン。
大きな音がする。この部屋が外部からの影響を受けるのは初めてだ。多分この部屋には魔法がかかっていて、外部とこの部屋を隔絶していた、と思われる。確証はない…が、この部屋の扉や壁に傷が全くつかないことから、なんとなく当たっているとは思う。
にしても…、さっきのはなんだったんだろう。
例の力ー魔法ーが関係しているのだろうか。考える時間だけはたくさんあった。魔法の力について考えた。でも、使うことができなかった。この部屋のせいなのか、それとも、俺のせいか。そして、多分あれから500年くらいだった。100年をすぎた時から数えるのをやめたから、誤差はあるだろうが。
そうやって思考を飛ばしていると、また音が聞こえる。そして部屋が揺れ始めた。揺れはどんどん大きくなっていき、立っていることすらできなくなる。音がする、音じゃない、声が。脳に直接響く。
…オモイダセ、チノイミヲ…
…ジブントハダレカ…
…ソシテ…
…モクテキヲ…
目…的?目的ってなんだよ?頭が割れるようだ。
「う、うあ、あ、うあああああー。」
そして俺は意識を失った。
朝の光が眩しい。いつもと違う柔らかい暖かさもある。…光?あの牢のような部屋は窓一つなかったような…。そこまで考えて、俺は飛び起きた。
俺が起きたのは大きなベッドの上だった。
「なんだよ、ここは」
「ここはこの町の当主様の家の一室でございます。」
独り言を呟いたつもりだったが返事が来る。驚いて辺りを見回すと、入り口の近くに、メイドらしき女がいた。疑問に思ったことを尋ねる。
「どうして、俺はここに?」
メイドはその問いには答えず。当主を呼んで参ります。と言って部屋から出て言った。
数分後、恰幅のいい豪華な格好をした男がやってきた。見るからにお金持ちだ。
「ふぉふぉふぉっ、お嬢さん、調子はどうかね?彼女がね、君が道端で倒れているのを発見して介抱してくれたんだよ。」
と男はメイドを指差して言った。
「そっか、ありがとうございます。」
「いやいや、気にすることはない。ところで、お前さんどこからきたのかね?」
「えっ、あ、と、遠くです。」
「どうしてかね?親はいないのかね?」
「えーと、親はいません。ずっとずっと前に亡くなったので、今は1人で旅をしてます。」
少し苦しいかな、そう思うが仕方ない。俺の本当の話を信じる奴はいないだろうから。
俺の話を聞いて、当主はメイドに袋を持って来させた。袋の中にはたくさんの金貨が入っており、それを俺にくれるという。ありがたいことだ。こんな優しい人がいるなんて。でも、俺と当主が笑い合う中、メイドだけは苦しそうな顔をしていた。
その夜のことだった。
大きなベッドで寝ていると、部屋の扉が開く音がした。寝ぼけている俺は、メイドさんかな、と思い聞く。
「メイドさん、どうしたんですか、こんな夜中に?」
しかしその問いに返事はなく、足音だけが近づいて来る。俺はようやくはっきりしてきた頭で、状況を確認する。
「当主…さん。どうしてここに?」
「くへへ、あんなに金払ったんだからいいだろぉ。」
そう言って当主は近づいてくる。そして俺はよくやく気づく。
どうして当主が俺を助けたのか。
どうして俺に金なんかくれたのか。
どうしてこの屋敷に子供はいないはずなのに、替えの服はあったのか。
当主ロリコンなんだ。しかも極度の。
多分この体の見た目の年齢は12歳くらいだと思われる。てことは、ドストライクじゃねーか。そう毒づくが、気づくのが少し遅かった。当主はもうすでに1メートル先にいて、気味の悪い笑みを浮かべている。そして俺を押さえつけ、服を脱がそうとしてくる。俺は必死に抵抗したが、いかんせん力が弱い。はねのけることができない。
あの時のことを思い出す。何もできなかったことを。拘束され、気づいたらそこは何もない小さな部屋、発狂しそうになる中、奴らに復讐することだけを頼りになんとか生きてきたことを…。
その時、自分の中で何かがはじけた気がした。
「や、やめろぉーーーー!」
ボンッ、と音を立て世界は歪んだ。一瞬にして、領主の家自体が消えてしまう。まるでそこにはもともと何もなかったかのように。俺は何もないとこに座っていた。このことを考える余裕はなく、俺はひとり泣いていた。
そして、手元に残ったのはたくさんの金貨だけだった。
そして、俺はその頃から魔法が使えるようになった。何気ない気持ちで、火よつけー、と念じていたら、本当に火がついたのだった。
時を同じくして偶然知った魔法学園、俺はそこを目指し歩いて言った。
この力が復讐の力になると思って。