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妹奮闘記  作者: あんもち
2/4

淹れた紅茶は毒の味。

私は学校が好きです。学校にはお友達や先生がいて、いつも私を笑顔で待っています。


「おはようございます。」


私は教室の扉を開けた。やはりそこには、クラスのみんなと先生がいました。先生はいつもと同じように笑顔でチョークを折ってしまいます。


「琴葉さん?今何時だかわかりますか?」


先生にそう言われ、私は時計を見ました。九時半でした。ちょうど一時間目が終わるぐらいの時間です。


「九時半ですが…どうしました?」


私は笑顔で質問しました。すると、先生の持っていたチョークが粉微塵となりました。


「どうしたも何も、これで今学期に入ってから連続四十回目の遅刻ですよ。わかっているんですか?」


先生はチョークの替えを取り出し始めました。


「わかってます。以後気を付けますので。」


私はそう言い、席につきました。そんな私に、先生は頭を抱えました。

私はおっとりとしていますが、おっとりしすぎています。そのため、歩くスピードも人一倍ほど遅いです。だから私はこれまで、一時間目を受けたことがありません。

先生がおっしゃってた、連続遅刻回数は今学期は四十ですが、一年の頃のと足すと、三桁は余裕で越しています。

私は机に授業道具を入れたと同時に、一時間目が終わるチャイムが鳴り響き、委員長がいつものように、緩い挨拶で授業を終えました。


「貴女、また遅刻ですね。」


そう言って私に近づくのは、親友の赤坂結城ちゃんです。字の通り、髪は赤色のロングで、鈴さんと同じぐらいの身長です。小学校の時に知り合い、今では仲が良いものの、話し方は未だに変わっていません。


「おはようございます、結城ちゃん。今日も可愛いですよ。」


私は結城ちゃんのことが嫌いではないです。高飛車な性格はあまり好きではないのですが…


「べ、別に貴女に言われても、全然嬉しいなんて思ってませんから。」


長い赤髪をクルクルしながら照れている姿は、とても癒されています。

私は思わず、微笑みました。


「あ、貴女は何笑っているのですか?」


結城ちゃんが私を怒りましたが、その姿も可愛らしいです。




私は屋上が好きです。風が涼しくて気持ちがよくなっていいです。けれど、使用許可書がいるのでなかなか入れないのです。

ですが、今日は結城ちゃんが屋上に連れていって欲しいと頼まれたので、どうにか交渉した結果、見事に屋上に入ることが出来ました。


「こことかどうですか、結城ちゃん。」


私は一足早く屋上に入り、屋上にある唯一のベンチに座りました。三人が並んで座れるベンチです。


「全く、貴女は何故こんなことだけは行動が早いのですか?」


結城ちゃんは呆れたように私に問いかけました。


「でも交渉が長引いて、お昼休みがあと二十分しかないんですよ?」


私は食べるのが遅いです。小学校の頃も、給食の時間を過ぎても食べ続けていました。特にパンがあると私は特に遅くなります。


「それにしても、今日は給食がなかってよかったですね。結城ちゃんの嫌いなトマトが出てましたよ。」


私がそう言うと、結城ちゃんは少し嫌そうな顔をしたあと、直ぐに顔を戻しました。


「あ、あんな赤い玉っころごときに、私が嫌がるとでも思いますか?」


結城ちゃんはかなりのキメ顔で言ってますが、トマトを見たときの顔は、この世の終わりを宣告されたかと思うくらいの顔になります。お嬢様として、してはいけない顔になっています。

結城ちゃんは見た目と話し方で大半の人がお嬢様と思っています。それは間違いではありません。ですが、諸事情により、今は側近と二人で暮らしています。何があったのかは知りませんが、聞いても多分、結城ちゃんは話してはくれないでしょう。


「それにしても貴女こそ、もう中学二年にもなって、まだクラスの人たちに馴染めないのですか?とっととクラスに馴染んで、私の前から消え去りなさいよ。」


結城ちゃんはそう言い、私の横に座り、お弁当箱を開けました。いつ見ても、よくわからない料理が入ってあります。今日は確か「リゾット」とか言っていました。耐熱性のお弁当箱のため、温かいままです。


「私がなかなか人に馴染めないのは知っているじゃないですか。あのときも、結城ちゃんが声をかけてくれたから、今の私があるのですよ。結城ちゃんからは、何があっても離れないつもりですよ。」


私の返答に結城ちゃんは顔を真っ赤にして固まりました。スプーンからは、リゾットなるものが落ちそうで怖いです。

結城ちゃんはスプーンを置き、一つ咳払いをする。


「そ、そこまで言うなら仕方ありません…。私と一緒にいてもいい権利を与えます。」


結城ちゃんはそう言い、リゾットなるものを口の中に入れました。温かいお弁当が食べられることは正直なところ、羨ましいです。


「なら有り難く、その権利を頂戴いたします。」


私は笑顔でそう言い、リゾットなるものを一口食べました。お野菜の味とチーズの味がしました。今度のお休みにでも、おねぇちゃんに作ってもらいたいと思います。おねぇちゃんに頼むと、大体のものは作ってくれます。


「そう言えば貴女、家の生活は慣れたのですか?」


結城ちゃんが口元にリゾットを付けていました。私はかなり気になりましたが、退けるのはあとにしました。


「とりあえずはって感じです。ですが…」

「ですが?」


私はお箸を置いて、結城ちゃんの目を見ました。黒い瞳はいつ見ても綺麗です。


「あの鈴さんって人が気に入りません。あんなにもおねぇちゃんにベタベタして…恋人同士じゃないんですよ?」


私は少しだけ感情的になりました。無理もないです。鈴さんが来るまで、おねぇちゃんは基本的に私のものでした。優しくて頼りなおねぇちゃんが私はとても好きです。


「でも、小学校に入る前に別れたですよね?それなら仕方ないんじゃないですか?」


結城ちゃんにそう言われた、私は返す言葉が見つかりませんでした。

確かに、おねぇちゃんと鈴さんは、小学校に入る前に別れたため、普通は覚えていないですし、少し距離を置くと思います。私ならそうします。

けれど、鈴さんは違いました。何かと言えばおねぇちゃんを呼びます。私でも出来るものですら、わざわざおねぇちゃんの部屋に行き、おねぇちゃんを呼びます。距離を置くなんてことは一切しておりません。

だから最近、私よりも鈴さんを優先している気がしてきました。気がつけば、私の横にはおねぇちゃんはいません。おねぇちゃんは鈴さんの横にいることが多くなった気がします。だから、私とおねぇちゃんとの関係が少し崩れたように思えました。

そのため、一人でいる時間が多くなったように思えます。テレビを見るときも、宿題をするときもおねぇちゃんが側にいました。宿題の合間に、おねぇちゃんがクッキーを焼いてくれます。けれど、今では焼いてくれません。


「私はおねぇちゃんと昔の関係に戻りたいんです。けれど…」


私は視線を下にやりました。


「気がつけば、鈴さんの横におねぇちゃんがいて…私の横には誰も…いないのです。」


私がうつむいている姿を見た結城ちゃんは、私をそっと抱きしめてくれました。お弁当箱が膝から落ちる音がしました。中身はほとんど地面に落ちてしまいました。


「貴女は、いつも我慢して…私にぐらい、甘えたっていいんですよ?」


結城ちゃんの優しい言葉に、私は見せる顔がありませんでした。結城ちゃんは、私が悲しい顔をすると、いつもこうして抱きしめてくれます。女の子同士でもなのであまり変に感じませんが、結城ちゃんに抱きしめられるとき、少しばかりドキッとします。けれど、結城ちゃんは基本的に何も言わず、ただただ私が泣き止むまで、ずっと抱きしめてくれます。

だから、私は結城ちゃん好きなのです。一人の女性としてという訳ではないのですが、結城ちゃんとはこの先ずっと仲良くいられそうな気がします。

私と結城ちゃんは一分ぐらいその状態でいました。私は落ち着いたところで、結城ちゃんは私から離れました。


「ごめんなさい、結城ちゃん。いつも、こんな私に優しくしてくれて。」


結城ちゃんは私の言葉を聞き、髪をクルクルし始めました。照れているのでしょう。


「べ、別に、貴女に優しくしようなんて思っていません。そ、そんな顔で見られるのがイライラするだけですわ。」


結城ちゃんはそう言うが、心のそこでは嬉しいのでしょう。口元が少しだけ笑っていました。

そんな結城ちゃんを見て、私も思わず笑ってしまいました。相変わらず、結城ちゃんは怒っていますが…。

私は落ち着き、現実を見ました。お弁当の中身はほとんどない状態の箱が地面に落ちています。ほとんど食べていないので、かなり散らかっています。片付けるだけで時間が潰れそうです。


ですが…お腹が空くのです。


せめて果物が落ちていなければと思いましたが、落ちていなかったのは私の苦手なほうれん草のおひたしでした。




今日は部活動がお休みで早く学校が終わったため、結城ちゃんと近くのカフェでお茶をすることにしました。私としては初めて行くカフェです。お昼もほとんど食べていたいので、ちょうど良かったです。

店内に入った途端、珈琲の香りがします。昔はおねぇちゃんとよく、カフェ巡りをしていました。ですが、最近はやっていません。

私と結城ちゃんは、空いている席を探し、向かい合わせに座ったのちに、注文をしました。注文に来た定員さんがすごく綺麗で見とれました。


「貴女、いつまで見ているの?」


結城ちゃんにそう言われ、私は我に戻りました。


「あ、ごめんなさい。」


私は結城ちゃんに頭を下げました。結城ちゃんはそれを見て、視線を反らしました。少し怒っているみたいです。


「結城ちゃん。機嫌直してください。」

「別に、貴女に怒っている訳じゃないんで。」


結城ちゃんは吐き捨てるように私に返答しました。これはかなり怒っています。

私は学校鞄からキャンディを取り出し、結城ちゃんに渡しました。結城ちゃんの好きなイチゴ味です。おねぇちゃんと同じ味が好きなところは意外でした。

結城ちゃんは視線を反らしてましたが、イチゴ味のキャンディを見るなり、ちらちらとこちらに視線がやって来るようになりました。


餌付けしてるよね、私。


私はそう思いましたが、ちらちらとこちらを見る結城ちゃんの姿が可愛らしく、ついつい見とれていました。

一瞬のスキを狙ったかのように、結城ちゃんがキャンディを私から奪い、口に入れました。コロコロとキャンディを転がし味わっているのがよくわかります。


「それで…。結城ちゃん。私に話したいことって何ですか?」


私は本題に入ろうとしました。元々、結城ちゃんが私に話したいことがあると言ったので、ここに来たのです。

結城ちゃんは口の中のキャンディを転がすのを止め、私を正面から見ました。ほんの少しだけ、恥ずかしい気持ちがあります。


「実は、貴女に伝えたいことがあるんです。」


…伝えたいこと?


私の頭のなかがグルグルとしている最中に、注文した飲み物とスイーツがやって来ました。私は珈琲と小さめのサンドイッチ、結城ちゃんは期間限定のマンゴーフラペチーノです。結城ちゃんは「期間限定」という言葉に弱いです。

私と結城ちゃんは、ほぼ同時にそれを飲みました。深い味わいが自慢だと聞いたのですが、私的にはもう少し深くてもいい気がしました。

けれど、口には出しません。そんな勇気がないからです。

結城ちゃんは、マンゴーフラペチーノを飲むなり、とても幸せそうな顔をしました。結城ちゃんは甘いものが大好きで、私と二人っきりの時は、こうして学校では見せない顔をするのです。

結城ちゃんは飲み物を置き、私をまた見ました。


「その、伝えたいことと言うのはですね…」


私は珈琲を置き、まじまじと結城ちゃんを見ました。


「私…好きな方ができましたの…。」


結城ちゃんは顔を赤く染めて言いました。私は内心驚きました。高飛車の結城ちゃんは理想が高いと私は思っています。つまり、そういう方が見つかったということなのです。あの学校に…。


「…結城ちゃんは、その方のどこが好きなんです?」


私の唐突な質問に、少し考える素振りを見せ、私に話してくれました。


「あの方は、近いようで遠い存在なのです。私はあの方を心のそこから愛しているのです。まぁ、貴女には到底わからないと思いますけど?」


軽く私に悪口みたいなことを言う結城ちゃん。


「私だって、少しぐらいわかりますよ…」

「何か言いました?声が小さくてよく聞き取れないわよ。」

「何でもないです。」


私は頬を脹らまし、珈琲を一気に飲みました。熱いのを忘れていた私は思わず吐き出してしまいます。私は慌てて台拭きで拭き取ります。

そんな私の滑稽な姿を見た結城ちゃんの顔は、かなりゲスい顔をしていました。


「それで…この前告白しましたの。」


結城ちゃんの急な暴露に、私は開いた口が塞がらないという言葉を、初めて経験しました。


「こ、告白、ですか?」


私が改めて問うと、結城ちゃんは髪をクルクルしながら少し頷きました。


「な、何か悪いかしら?わ、私だって、恋の一つや二つはしたことありますし?」

「あ、いやその…。以外だなって思いまして…。」

「私も大分傷つきますよ、以外って…」

「あ、ごめんなさい。」


私が謝ったあと、私と結城ちゃんの間には、変な沈黙が続きました。私が変なことを言ったからでしょう。

私は結城ちゃんを見ました。すると、結城ちゃんがこちらをじっと見ていたため、私はすぐに目を反らしてしまいました。


「どうしたのよ貴女。言いたいことがあるならさっさと言いなさいよ。」


結城ちゃんがマンゴーフラペチーノを置いて、私のサンドイッチを取り、そのまま口に入れました。頼んだものの、限界を越えたのであまりお腹が空いていません。


「いや…あ…その…。」


私は言いたいことが言い出せず、少し困惑します。結城ちゃんは少しイライラしている顔をしています。


「わ、私には、今は好きな方はいません。で、ですけど…。」


私は立ち上がり、その場から逃げ去っていきました。お手洗いに行くだけなのですが。

お手洗いについた私は、鏡の前に立ちます。そして、心臓の辺りを触りました。


何なんだろ、この感じ…。


結城ちゃんの前でおねぇちゃんの話をしようとすると、胸が苦しくなります。その逆のパターンもあるときがあります。どこか懐かしいのですが、その反面、どこか切ない気持ちがあります。


結城ちゃんの食べ方、可愛すぎるよ…。


私は先ほど結城ちゃんがサンドイッチを食べている姿を思い出した。あの高飛車な態度とは裏腹に、結城ちゃんはハムスターのようにもぐもぐと味わって食べます。


「何であんなにも可愛いの?可愛いよ、可愛すぎるよ結城ちゃん…」


私はお手洗いのなかで独り言を呟きました。幸い、私以外は誰もいないので心配はいりません。

私はしばらくして、お手洗いから出て、結城ちゃんのところへ戻った。


あ、寝ているんですね…。


結城ちゃんは食べかけのサンドイッチを手に持ったまま、その場で寝ていました。


「結城ちゃん。起きてください。」


私が肩を叩いても、結城ちゃんは起きません。結城ちゃんは一度寝てしまうと、なかなか起きてくれないのです。


可愛いな、結城ちゃんは…。


私は結城ちゃんの横に座り、結城ちゃんを見ます。前髪でよく見えないので、そっと前髪をはらいました。長い睫毛に柔らかそうな唇。私が男の子なら、キスを強要してもおかしくありません。そのぐらい、結城ちゃんは今、無防備なのです。こんな結城ちゃんの姿を見るのは、以外と私ぐらいかもしれません。


「結城ちゃん、起きてください。起きてくれないのなら、少し悪戯しますよ。」


私は少し悪戯っぽく言いましたが、結城ちゃんは無反応です。


結城ちゃん…


私はそっと結城ちゃんに近寄り、顔をゆっくりと近づけました。


「本当に起きないんですね…。」


私は結城ちゃんの耳元で囁きました。

すると、ゆっくりと結城ちゃんは起き上がりました。それに気づいた私は、そっと後ろに下がりました。


「おはようございます、結城ちゃん。ごめんなさい、勝手に逃げてしまって…。」


私は謝りました。けれど、寝ぼけている結城ちゃんには、多分伝わってはいないでしょう。かなりボーッとした顔をしています。


あ、玉子…。


私は結城ちゃんの口元についてある玉子に気づき、指で摘まんで退けてあげようとしました。

すると、結城ちゃんは私の人指し指をじっと見て、そのまま私の指をくわえました。


「え!?ちょ、結城ちゃん?」


私は素で驚きました。寝ぼけているとはいえ、さすがにこれはと思います。

結城ちゃんは私の指を、まるでアイスキャンディのように口の中で舐め回しました。指から伝わる感触は、ヌメヌメしていて気持ち悪いです。一刻も早く、指を口から離さないと考えたのですが…


…可愛い。


何故か、私の理性がそれを拒んでいます。結城ちゃんが私の指を舐めている姿は、まるで幼い子供のように見えます。

私も少しボーッとしてきたところで、ピタリと舌が止まりました。それに気づいた私も現実に戻りました。


「あ、結城ちゃん。アイス、おいしかったみたいですね?」


結城ちゃんは私の指をくわえていることに気づき、顔が一気に赤くなりました。耳まで赤く染まっています。

結城ちゃんは私を押し退けて、そのまま立ち去っていきました。けれど、私と同じくお手洗いらしいです。

私はその場で尻餅をつきました。痛いのですが、部活動の練習に比べると痛くありません。


少し…やりすぎました…。


私はゆっくりと立ち上がり、スカートをはたこうとしました。すると、先ほど結城ちゃんがくわえていた人指し指が、結城ちゃんの唾液でどろどろになっていました。そこまで私の指が美味しかったのか、私は少し気になりました。

私はお手洗いの方向を見ました。どうやら、結城ちゃんが帰ってくる気配はありません。

そして、また視線を人指し指に移しました。


「こ、これは味見です。どれだけ私の指が美味しいのかという味見です。べ、別に、結城ちゃんの唾液を摂取したいとかではないんです。」


私は少し大きめの声でそう言い、またお手洗いに視線を移しました。それでも帰ってこないことを確認し、私は私の人指し指をゆっくりと口の中に持っていき、そしてくわえました。


味がしません…。


まぁ、それが当たり前なのですが…

私は少しだけ、舌で舐めました。結城ちゃんの唾液らしき液体が、私の舌を伝っているのが感じられます。温かいというよりは、むしろ生ぬるいに近い感じです。


「結城ちゃん…。」


私は結城ちゃんの名前を呼びながら、指をゆっくりと舐めました。


「貴女、今私を呼んだかしら?」


急に後ろから結城ちゃんの声がして、私は思わず驚いてしまいました。そして、私は口を閉じてしまい、指を思いっきり噛みました。とてつもなく痛いです。

私は直ぐ様、口から手を離し、それを私の後ろにやりました。そして、結城ちゃんの方に振り返りました。


「いいえ、呼んでませんよ。」


私は結城ちゃんに小さく手を振ります。結城ちゃんは、少し不思議がりながらも私に手を振り返してくれました。

結城ちゃんは私が何かを隠していることに勘づいたのでしょうか


「貴女、私に隠し事をしていませんか?」


結城ちゃんは私が隠している手を見ようと詰め寄ってきました。それに応じて、私は後ろに下がります。


「別に、隠し事なんてしてません。」


私は結城ちゃんの目を見て答えました。けれど…


「嘘、ついてますね。貴女の嘘ぐらい、私なら見破れます。」


結城ちゃんはそう言い、私の腕を引っ張り、隠していた手を前に無理矢理出させました。


…うぉ。


私は心の中で驚きました。何せ人指し指から血が出ていたものですから。ポタポタと床に落ち、床は点々とした血がありました。


「貴女…。」

「気にしないでください。ぶつけただけですので…」


実際には指を舐めていたのですが…。

私の表情を見て、結城ちゃんはポケットから絆創膏を出してきました。


「これ、あげますわよ…。」


絆創膏の柄はよくわからないキャラクターの絵が付いてあります。後で知ったのですが、このキャラクターはこの地域のイメージキャラクターらしいです。


「あ、ありがとうごさいます…。」


私は素直に何をしたかを伝えずに、絆創膏を受けとりました。ちょうどいい大きさだったので、傷口のところにぴったりと貼りました。

結城ちゃんは、私が絆創膏を貼るのを確認して、再び席につきました。私も続いて座ります。


「その…本当に先ほどはごめんなさい。」


私は頭を下げ、結城ちゃんに謝罪しました。


「別に構いません。寝ていた私が悪いのですから。貴女は何も悪くありませんわ。」


結城ちゃんはそう言い、残っているマンゴーフラペチーノを一気に飲もうとしています。とは言うものの、まだかなりの量が残っています。

私は通り際の店員さんに、珈琲のおかわりを頼もうとしましたが、直ぐ様、それをやめました。五時を知らせる携帯のアラームが鳴ったからです。今日は私がご飯を作る日なのです。昨日買い置きしておいたので、後は作るだけです。

私は席から立ち上がったのち鞄を背負い、長い黒髪を一つに結びました。


「結城ちゃん、私は帰るんですけど、まだ詳しくは聞いてないんですけど、伝えたいことって…。」


結城ちゃんはいつの間にか席から立っていました。そして、結城ちゃんの指で私の唇を摘ままれました。言いたいことがあるんですが、これでは言おうにも言えません。


「その話しは今度でいいです。私もそろそろ帰ろうと思っていましたし…。」


結城ちゃんはそう言いきり、私の唇から指を離してくれました。


「あの…、結城ちゃん。」


私は結城ちゃんの名前を呼び、結城ちゃんの手をとりました。結城ちゃんは少し動揺しています。


「その…こんな私でよければ、結城ちゃんのお悩み…相談受けますよ?だから、私が結城ちゃんを頼るみたいに、私に頼ってくださいね。」


私は結城ちゃんににっこりと笑顔を見せます。結城ちゃんは少し固まったあと、視線を反らしました。顔が赤くなっています。照れているのでしょう。


「べ、別に貴女に相談することなんて、これっぽっちもありませんわ。けど…」

「けど…?」


私が復唱すると、結城ちゃんはゆっくりとこちらに視線を戻しました。


「少しぐらい…話し相手になってくださいますか?」


後半の部分は声が小さく、聞き取りづらかったのですが、私は頑張って聞き取りました。

結城ちゃんは私の手を振り払い、後ろを向いてしまいました。このパターンは珍しく、結城ちゃんがかなり照れているときにしかしないパターンです。これをした次の日は、かなりの確率で私を無視します。

私は結城ちゃんの後ろ姿を見て、クスッと笑いました。やはり、結城ちゃんは可愛いです。

結城ちゃんは私が笑ったことに気づいたらしく、こちらを見て怒りました。


「さ、さっさと帰ってください!このノロマぁ!!」


ここまで言ってしまうと、結城ちゃんは明日、拗ねて学校に来ないような気がします。実際、来なかったことがあります。

私は言われるがままに帰ろうとすると、結城ちゃんに手を握られました。このパターンはかなり珍しいパターンです。


「その…今日は、ありがと…。琴葉…。」


結城ちゃんがあそこまで怒った後、十分の一の確率で見せるデレです。口調が変わり、何故か泣きそうな顔になるのです。

私はとりあえず、どういたしましてと伝え、結城ちゃんに手を降りながらその場から去りました。

帰り際にとりあえず、店員さんを呼んどいておきました。結城ちゃんは恥ずかしさのあまり、この場に居続けると確信しているからです。




私がお家に帰って来た頃には、時刻は六時を回っていました。いつもならまだだれも帰ってきていません。ですが、今日は電気が付いています。


おねぇちゃんたち、今日体育大会って言ってたっけ?


私はとりあえず玄関に入ります。案の定、中からはおねぇちゃんと鈴さんの声が聞こえます。晩御飯でも作っているのでしょうか。

私は靴を脱いで、リビングに向かわず階段を上がり、私の部屋に入りました。制服を脱ぎ、家着に着替えたあと髪をおろしました。やはり、髪をおろしている方が私は落ち着きます。

私は着替え終わったあと、洗面所に向かいます。そして、洗濯機の中に入れ、やっとリビングに向かいます。


「ただいま…。」


私は扉を開き、二人にそう言いました。扉を開いた瞬間、いい香りが私の鼻を通ります。どうやら、今日はカレーみたいです。けれど、以外でした。おねぇちゃんは辛いものが好きではないからです。


甘口かな…。


「あ、おかえり、琴葉ちゃん。」


鈴さんが私の後ろから呼びました。私は鈴さんの方に振り返りました。


「た、ただいま…です。」


私は鈴さんに未だ慣れていないので、いつもこのような話し方になります。私が好きではないタイプだからです。


「今日は部活動なかったのに遅かったね。お友だちと遊んでたの?」


私は鈴さんの言葉に驚きました。


「あぁ、何故知っているかというとね、帰りに琴美と見たんだ。琴葉ちゃんじゃないけど、同じ制服を着ていたからね。」


なるほどと、私は胸を撫で下ろしました。もしそうじゃなければ、私は鈴さんをストーカーとして通報するでしょう。


「鈴さん、今日体育大会だったらしいですね。結果はどうだったんですか?」


私がそう聞くと、鈴さんはしょんぼりとしました。どうやら、負けたらしいです。


「琴葉。あまり鈴ちゃんに聞かないで。かなり落ち込んでいるんだから。」


おねぇちゃんがそう言いながら、カレーを運んできました。おねぇちゃんは鼻栓をしていて、口で息をしていました。そこまで嫌なら、どういう心境で作ったのかが知りたいです。

私はおねぇちゃんに頷き、席につきました。続いておねぇちゃん、鈴さんの順に座っていきます。

私はおねぇちゃんからスプーンをもらい、いただきますと言ってから、カレーをいただきました。流石はおねぇちゃんです。じゃがいもも柔らかくて、スプーンで簡単に切れるほどです。

おねぇちゃんは鼻栓をしたまま食べています。どう見ても食べづらそうです。


「おねぇちゃん。何でカレーなんて作ったの?まともに完食したことないのに。」


私はとりあえず聞くことにしました。


「あ…いやぁ、ちょっと食べたいって気分だったの。琴葉だって、そんな時もあるでしょ?」


おねぇちゃんはそう言うが、嘘をついているがすぐわかる。

私はじっとおねぇちゃんを見ました。すると、おねぇちゃんは前髪をはらいました。嘘をついている証拠です。おねぇちゃんは嘘をつくとき、前髪をはらいます。


私の目はちゃんと見てますよ…


私はおねぇちゃんを見てムッとしました。視線を反らすおねぇちゃん。


いったい、何を隠しているんだろう…。


私は気になってしょうがなかったです。

その後、おねぇちゃんはカレーを食べ始めましたが、やはり苦しそうな顔をしていました。




お風呂から出てきた私は、身体と髪からお湯を拭き取ったあと、リビングに行きポットに水をいれ、温めました。紅茶が飲みたい気分だったからです。

私は椅子に座り、少し考え事をしました。


…どうしちゃたんだろ、私…。昔はこんなんじゃなかったのに…


あれからどのくらい経ったのだろかと思いましたが、今やそんなことは思い出したくはないです…。

私は大きくため息をつきました。誰もいないリビングは広く感じます。けれど、こうして考えても、私の心の何かは埋まりません。

沸騰した音が私の耳に入り、急いでスイッチを切りました。少しだけお湯が周りに散っています。私は布巾をとり、それで拭き取ります。


「琴葉ちゃん、何してるの?」


いつの間にリビングにいたのかはわかりませんが、鈴さんが私の横にいました。私は驚いて後ろに下がります。


「あ、その…。紅茶を飲もうと…。」


私は動揺をどうにか気合いで押し殺し、鈴さんに簡潔に説明しました。


「んー、紅茶かぁ…。私も一緒にいいかな?」


鈴さんに笑顔で頼まれました。私は鈴さんが苦手ですが、私の個人的な理由で飲ませないのは、さすがに悪いと思ったので、私は鈴さんの頼みを承諾しました。

私は鈴さんの分のコップと紅茶のパックを取り出し、先に入れてあげました。苦手だからといって、年上です。

鈴さんに渡した紅茶は、世界三大紅茶の一つのウバという種類です。他の紅茶とは異なる独特な香りが特徴です。ちなみに、私はこの独特な香りは苦手です。


つまり、少し意地悪をしました。


私は自分の紅茶を淹れながら、ちらりとウバを飲む鈴さんを見ました。やはり、独特な香りに少しだけ嫌そうな顔をしました。まぁ、わかっていたことなのですが…。

けれど、鈴さんは目を瞑ってそれを飲みました。好き嫌いはよく分かれる種類ですが、少なくとも私の周りでこれを飲める人はあまりいません。みんな香りでダウンしています。

鈴さんが喉に通したのを確認し、私も紅茶をいただきました。私のはダージリンという種類で、この時期のものは味、コク、香りのバランスがいいです。

私は香りを嗅ぎ、喉に通しました。優しい口当たりが私のお気に入りです。


「鈴さん、そのお茶、どうですか?」


私は鈴さんを見ました。すると、もう飲み干していました。私は素で驚きました。


「琴葉ちゃん。この紅茶、香りはあまり好きじゃないけど、味はいいね。気に入ったよ。」


どうやら、鈴さんにはあまり効果が無かったみたいです。私は正直、がっかりです。

私の姿を見た鈴さんは、クスッと笑いました。笑顔は結城ちゃんにも負けないのですが、それでも私は苦手です。


「…ねぇ、琴葉ちゃん。」


鈴さんは私を呼び、席につきました。私も紅茶を持ったまま席につきました。


「あの…、ちょっと深刻な話があるんだけど…。」

「おねぇちゃんは、その…いいんですか?」


鈴さんは少しうつむいて、「いないからだよ…。」と小声で呟きました。一体、おねぇちゃんなしに何を話そうとしているのか、私はかなり気になります。

私は口からカップを離し、テーブルの上に置き、鈴さんの話を聞く姿勢になりました。


「どうぞ。私でよければ…なんでも聞きますよ?」


私がそう言うと、鈴さんは苦笑いのような顔をしました。苦笑いではないのですが、それに近いような顔です。


「ありがと…。それじゃぁお言葉に甘えて…。」


鈴さんは一つ咳払いをし、私の目を見ました。あまり見られるのは好きではないのですが、鈴さんだと逆に大丈夫です。


「私ね…実は…。」


鈴さんの話を聞いた私の胸は、とても苦しくなりました。まるで、心臓を鈴さんに握りつぶされているかのようです。

苦しくて…気持ち悪くて…切なくて…。

その時、先ほど飲んだ紅茶の残りが微かに喉を通るのを感じました。


けれど、その紅茶はダージリンの爽やかな味ではなく、毒みたいな変な味がしました。

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