そうめん
真夏の酷暑に勝てず、ボクはとろけるように畳の上に倒れこんでいた。
開け放した窓からは、熱気をはらんだ風がドロドロと流れ込んでくる。
間近に聞こえるセミのがなり立てる声も暑さに拍車をかけた。
刺すような真昼の日差しをよけ、扇風機をジカに受けているがまったく涼しく感じない。 ティーシャツが汗でべたつき、畳にまで汗がしみだしていた。
本当に自分が溶けだしてしまっているのではないかという錯覚すら覚える。
視線だけで、柱にかけた時計を見上げる。
午後一時を過ぎたところだ。
気だるさのあまりに朝食を抜き、昼食もまだ食べていない。
空腹感はあるものの、倦怠感からくる気持ちの悪さで食欲はなかった。
だが、いまなにかを食べなければ完全に動けなくなるだろう。
――なにかあったかなぁ……
寝ころんだまま、台所にある食材を頭の中でリストアップしていく。
だが、暑さでボウっとした頭はまともに働いてはくれない。
それでもどうにかそうめんの乾麺と作り置きのめんつゆがあることを思い出すことができた。
もともとそれぐらいしか食材はなかった気もする。
寝転がったまま、ボクは大きく息を吐く。
ゆっくりと右ヒジから先だけを持ち上げ、右手を台所へ向ける。
乾麺は棚にストックしてあるはずだ。
その棚を指差し、クイッと指を曲げる。
台所で、引き戸が引き出される音が聞こえた。
次は棚の中をイメージする。
パスタやうどんや袋麺が適当に詰めてある。
その中の、そうめんに狙いを定める。
もう一度人差し指を向け、今度は指を立てる。
乾麺の袋が持ちあがったはずだ。
持ち上げた袋を、手首を右にひねり流し台の作業スペースへと放り投げる。
高めの位置で物が落ちた音がした。成功だ、と思う。
次は――
そうした要領で調理をこなしてゆき、ガラスの容器にそうめん盛り付けた。
それを、ひとまずこちらへと運ぶ。
指を手前にかたむけると、そうめんの乗った透明の器がふらふらと飛んでくる。
居間のテーブルの上に、慎重に着地させた。
ボクは畳を転がりながらテーブルのところへ移動し、上半身だけ起こした。
そうめんを目の前にして、
――めんつゆと、蕎麦猪口と、箸と……
まだまだ足りない物がたくさんあることを思いだした。
これ以上ぐだぐだやっているとボクは力尽きてしまいそうだった。
めんつゆは冷蔵庫、蕎麦猪口は水切りラック、箸は箸立て。
人差し指、中指、薬指、三本を台所へ向ける。
狙いも付けずに一気に引っ張った。
ガシャンッ!
わざわざ窓ガラスを割って、円筒状の物が飛び込んでくる。
――催涙弾。
落下と同時に小さく爆発し、畳を転がりながらかたまりのような白いケムリをモクモクとまき散らしていく。
あっというまに部屋中が真っ白になってしまう。