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新たなるエネミー

 ああでもない、こうでもないと、正直私にとっては大変くだらないやり取りがまだ続いている。


「お前だってぼっちじゃないか! 仲良くなりたいからって、誰彼構わずおかしなあだ名付けてつきまとって、迷惑がられて結果ぼっちになってるじゃん!」

「クソケータぁ! 言うんじゃないわよ!」


 クソ!? 今、子猫がクソと言わなかったか?


「先に僕のことバラしたのそっちだろ! おまけに嘘ばっかりついてもっと嫌われてるくせに!」

「ちょっと話盛っただけでしょー? 大袈裟なのよ!」

「僕は誰とも付き合ったことないぞ!」

「知ってるわよ、ドーテー!」


 ど……っ……。大声で何とはしたないことを……。

 あああ……嘘だ。誰か嘘だと言ってくれ! 私を慕ってくれていた真面目な彼女とはまるで別人だ。その子猫の口からそんな言葉は聞きたくなかった……。

 ……よし、幻聴ということにしよう。

 

 二人はすっかり私の存在を忘れ、下品な言葉で罵りあっている。人前ではとても言えないような、罵詈雑言の嵐だ。


「そういうお前だって処女だろうが!」

「処女の何が悪いのよ! 貞淑な女は今時貴重なんだから、崇め奉りなさいよ! 姫姉様だって処女なんだからね!」

「知ってるよ! 本人から聞いたからな!」

「姫姉様に何てこと言わせるのよ!」

「自分から言ってきたんだよ!」

「本当ですか姫姉様!」


 突然矛先を向けられて、私は動揺してしまった。


「いや……ど……っ、えっ?」

「男に肌を許したことはないって言ってたよね」

「あ、え……」

「姫姉様! こんな下等民に答えてはいけません!」

「誰が下等民じゃ!」

「あんたに決まってるでしょ、クソケータ!」

「黙れこのゴミ虫どもがっ!」


 しん、と一瞬静まる司書室。

 最後の一言は我々三人の声ではなかった。


「ったく……人が気持ちよく昼寝をしていたら、いきなりゲスな悪口の応酬。耳が腐るわ。余所でやれ」


 そう言って、声の主はソファの背もたれの後ろから顔を出す。


「……せ、生徒会長!」


 子猫が驚いて後ずさりする。鈴木は口をあんぐりと開けて、固まってしまった。

 何故ここに生徒会長が? というより、いつの間にここへ来ていたのだろう。図書館内では今まで一度も姿を見たことは無いはずだが……。


「おい、そこのなんちゃってロリ」

「……」

「お前だお前。小さい奴」

「わ、私っ!?」


 我々の中では子猫が一番小さい。小学生に間違われることも多いと言うが……。

 しかし、なんちゃって……何?


「お前に決まってる。他はババァと……ババァしかいないだろう」

「言うに事欠いて姫姉様をババァ呼ばわりするなんて何様よ!」

「待って! 僕いないことにされてる!」

「生徒会長様だ。ひれ伏せ」

「何なのこの人! とんだ俺様野郎じゃないの!」


 子猫が思い切り幻滅している。無理もない、普段見ている生徒会長は寡黙だが切れ者というイメージだからな。

 それにしても、先ほどの発言が意味不明だ。


「ところで、なんちゃってロリとはどういう意味だ」

「どっからどう見ても子供なのに、残念ながら実年齢十歳以上という詐欺のような生物だ。まぁ、思い切り舐め回すように見ても、逮捕されないというメリットはあるがな」

「なるほど。理解したくないな」

「僕をスルーしないで!」

「おい、なんちゃってロリ。さっさとこっちに来て膝枕をしないか。そしてフトモモを触らせろ」

「姫姉様、この人変態です! 絶対近寄ってはいけません!」

「そうもいくまい。何故ここにいたのか聞かねば」


 私の一番の疑問である。

 いつからこの司書室を利用していたのか、きちんと確認しなければならない。管理者として当然の権利だ。


「何故も何も、図書館は生徒全員が使用するものだ。俺が使用するに何の不都合がある」

「司書室は別だ。ここは生徒が自由に立ち入って良い場所ではない」

「お前だって、一生徒に過ぎないはずだが。どんな権限でそのようなことを言えるのかな?」


 生徒会長の言うことは正論だろう。普通に考えれば。


「私は、この図書館が誰にも使われず物置状態だったのを、一人で復活させた。司書はほとんど姿を見ないしな。以来、管理人は私だ。無論校長から許可を取っている。納得していただけるか」


 生徒会長はしばし何かを考えている様子だったが、やがて一人でうんと頷き言った。


「よし、ならば俺も管理人に入れろ」

『……はっ?』


 私と子猫は同時に声をあげた。


「生徒会長自らが、お前達を正式に管理人と認めてやると言ってるんだ。そのかわり、俺も管理人になるからな」

「生徒会の許可など得なくても、すでに校長以下、先生方には認められているのだがな」


 これ以上面倒な人間が増えてはたまらない。

 私は静かに本と向き合っていたいのに……。


「しかし今の状態はボランティアに過ぎん。貸し出しカードや分類ラベルはお前の持ち出しだろう。だが生徒会が正式に活動許可を出したとあれば、いくらかの活動費は出せるだろう」

「む……確かに、今は自費でまかなっているから、いただけるのはありがたいが……。だからといって、あなたが我々の一員に加わらなければならない理由はなんだ」

「校則には、部活動として認められるには四人以上の部員が必要だとある。俺、ババァ、なんちゃってロリ、空気、これで四人だ。活動費は部活でないと下りないからな」

「やった、僕も入ってる! でも空気って何!」

「姫姉様、私はイヤです! 二人だけのめくるめくティータイムがぁ……」


 ふむ、実に分かりやすい答えだ。それに、生徒会長をこちらに引き込んでおけば何かと便利だろう。どうせ仕事が忙しくてここにはほとんど来ないだろうから、頭数にだけ入れておけば良いか。


「良し、その話に乗ろう」

「姫姉様!?」

「流石ババァは才女と言われるだけあって、話が分かるな。では早速創部手続きを出してくる。俺が入るとあれば、先生方も文句あるまいて。すぐ戻る」

「ま、待ってください!」


 意気揚々と司書室を出ようとした生徒会長を、子猫が引き留めた。

 あんなに嫌がっていたのに、どうしたのだ?


「なんだ、なんちゃってロリ」

「その呼び方止めてください! それより、生徒会と兼部ってできるんですか? 普通の部活はできないはずですけど……」

「問題ない。生徒会は部活ではないから、その規則に当てはまらない」

「で、でも忙しいですよね? ここの仕事結構大変なんですけど、全然来ないなら入らないで欲しいっていうか……」

「安心しろ。俺は生徒会長だがほとんど仕事がない。他が優秀過ぎて、むしろ邪魔者扱いだ。だから暇なんだ」


 な、何ぃ? 暇だと……!


「だから毎日来てやる。喜べ、なんちゃってロリ」

「い……いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

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