図書館の主
小学生のお子さまに読ませるにふさわしくない語句が含まれる作品です。
性的な描写は一切ありませんが、ご注意ください。
私は一人が好きだ。
唐突に何を言い出すのかと驚いたかもしれないが、ちょっとアピールしておきたいのだ。
何故かといえば、どういうわけでこうなったのかよく分からないが、今私は四人に取り囲まれている。決して、私から呼びかけて一緒にいるわけではないので、そこのところ誤解しないでもらいたい。
そして、取り囲まれてはいるが、物騒な類のものでもない。至って平和である。
ではどうして、わざわざ「一人が好き」などと宣言するのか。彼らが私に何の断りもなく、勝手に私を仲間に数え、来なくて良いのにここに集まって来るからだ。
我々(便宜上こう言うだけで、仲間意識など持っていないのでそこのところ宜しく)は、恵愛高校図書委員会である。
委員会と名乗ってはいるが、私設の委員会なので実質部活動だ。この学校には図書委員がいない。図書館はあるのに、管理する人間がいない。
司書はいるが、その姿を校内で見かけることはほとんど無い。それ故、『幽霊司書』とあだ名を付けられている。
さて、私設図書委員会を立ち上げるに至った理由だが、それは私が『図書館の主』になったからだ。
これだけだと全く意味不明だと思うから、順を追って説明しよう。
私は生まれついての、孤独を愛する『一匹狼』タイプの人間だ。常に徒党を組んで、何から何まで一緒でなければならない訳ではない。何をするにも独りが楽で良い。
社会に出れば、多種多様な人物がいることは承知しているが、こと学校という閉鎖空間においては集団心理が働き、少しでも異質なものは排除されやすい傾向にある。その最たるものがいじめだ。
幸い、私は群れることはしないが社会性が無いわけではない。集団生活を無難にこなすくらいのコミュニケーション能力は持ち合わせているので、いじめられはしない。だが、多数の他人と四六時中行動を共にするのを嫌う人間は、群を離れて一人になる時間がどうしても必要だ。
そこで、学校内でもとりわけ個人行動が阻害されにくい『図書館』を一匹狼は好む。本を読んでいる間だけは自由だ。読書嫌いは端から来ないし、来る人間は皆、孤独を愛する同志。お互いに干渉など決してしない。私には天国だ。
この学校の図書館は、蔵書数だけなら公営のものにひけをとらない。ただし、管理は全くされていない。
司書は学校に来ないし、そもそも図書委員会が無い。私が入学するまで、誰も使わないから本は埃をかぶり、あちこちに色々な教材が積まれ、半ば物置状態になっていた。
この惨状を、私が放って置くはずもない。校内で唯一の安らぐ場所を何とか確保しなければ、この先三年間戦場を生き抜くことはできないと私は奮起したのだ。
そうして毎日、一人黙々と図書館を掃除し、本を虫干しし、一年を掛けて膨大な蔵書を整理した私は、誰からともなく『図書館の主』と呼ばれるようになったのである。