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赤い月  作者: 望月蓮
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壊れ始める日常

また時間が空きました……すみません。遅くなりました。今回から、やっとこの物語の真髄に触れられそうです♪( ´▽`)

崩れていく日常を貴方に……

未来が深い眠りについている頃、教室は休み時間…のはずだが誰一人として、奏以外いない。その理由はただ一つ。屋上から見えている月を観察するためだ。とうとう『赤い月』の兆候が現れたと、全校生徒が騒いでいるのだ。俺は残念ながら、提出するはずの国語の課題をしていなかったため、見に行くことができずに一人寂しくこうしている、と。月なんて結構昼間でも見えるじゃん、なんて思っている奴もいると思うが、とても大きく黄色い月が空に浮かんでいるから特別なんだ。赤い月の前座にしては少し地味かもしれないが。

まあ、そんなこんなで今この教室には俺だけしかいないので、面倒くさくなって机に突っ伏していた。何で今日なんだよ……明日でもいいじゃねーか。つーか、あの先生いつも適当なくせに提出物だけはしっかりチェックしてんだよなぁ。意味分からん。

すると、遠くから足音が聞こえてきた……先生だったら、やばいな。そう思い、急いで体を起こしてペンを握った。そして……足音が止まる。あ、あれ?ドアの方に目を向けると、そこには茶髪の髪を肩の上で切り揃えている女子が立っていた。何故か、じっとこちらを見つめられているんだが。俺に何か用なのか?でも…初めて見た子なんだけど。そして、その子がツカツカと歩み寄って来た。

「な、何か用?」

名札を付けていなかったので、上靴の色で同学年とだけ判別した。突然その子が俺の顎に手を当て、少し持ち上げた。俗に言う、顎クイというやつだ。でも、こう言うのって男がするもんじゃなかったか?それから、数秒見つめられた後、その子がため息を吐いた。

「貴方、気を付けた方が良い。貴方の近くに悪運を持っている人がいるわ。」

何を言っているのか、さっぱり分からん。

「悪運というより、憎しみと言った方が分かりやすい?……そして、貴方は絶対に巻き込まれる事になる。でも、運命は変える事が出来ない。絶対に」

どういう事だろうか……やっぱり、理解出来ない。

「私は松谷柚月(まつたにゆづき)。詳しい事はよく分からないけど、今からきっと何か重大な事が起こる。貴方は何かしらでそれに関わっている。でも、きっとそれで終わりじゃない。もう一つ何かが起きるでしょう。でも……そうね。運命は変える事が出来ないと言ったけど、そうでもないみたい。貴方は……その運命を反らす方法を知っている。今は、気付いていないようだけど。早く気付かなければ、本当に運命は変えられなくなる。」

俺が知っている?というか、いきなりなんだよ。そんな事言われても何の事やら分からない。

「教えてくれ、俺は……!?」

顔を上げると、そこにはもう柚月はいなくて。急いで廊下に出たけど、彼女の姿は愚か先程の会話が夢だったかのように、いつも通り閑散とした景色が鎮座していた。……何だったんだよ。俺の脳が理解するのを全力で拒んでいるのか同じ言葉がぐるぐると回っている。

「悪運って……重大な事って……ふざけんなっ!」

先程の会話を思い出し、廊下でずっと立ち尽くしていると、丁度真正面に見える階段から大慌てで駆けてくる瑠衣の姿が見えた。いつもは冷静で涼しい顔をしているのに何故か顔が真っ赤に染まりまくっていた。首を傾げてその様子を見ていると、瑠衣が俺に気付いたのか今さっきよりも加速して近づいて来た。とりあえず、柚月と名乗った彼女の事は忘れる事にする。……ちょっ、待て!突進して来るんじゃっ!

「落ち着け瑠衣おい聞こえてんだろ!?俺はまだ死にたくないからぁぁぁぁぁ!マジで止まれぇぇぇ」

「人を犯罪者扱いしないでもらえる?」

目を伏せて構えていると頭を小突かれた。

「びっくりした……瑠衣、どうしたんだよ」

その言葉で、少し冷静になりかけたであろう瑠衣の顔がまた赤く染まる。

「あ、あのね。落ち着いて聞いてね!」

「まずはお前が落ち着けよ。」

「……もうこんな時間!やっぱり昼休みに話したいから屋上に来てくれないかしら?」

何だよ、それ。まぁ、別にいいけどさ。

「分かった!分かったから、離してくれ」

脳がぐるぐると回るぐらいに体を揺すられる。…うぅ、気持ち悪っ。瑠衣を引き剥がし落ち着かせていると、月を見に行っていた連中の波が押し寄せて来ていた。

そして、程なくして昼休みがやって来た。俺は寒い風が吹き抜ける屋上へと足を運んでいた。ドアノブを回して屋上に足を踏み入れると、すぐに目的の人物を見つけた。その人物…瑠衣がこちらを振り返って微笑んだ。

「来てくれてありがとう。…早速だけど、話っていうのはね?」


***

未来はベットの上で目を覚ました。…今、何時?右手につけている時計を見て目を疑う。飛び起きて百瀬先生の姿を探したがどこにもいなかった。何も言わずに行ってもいいかな……いい、よね?

「もう昼休みだなんて。」

四時間近くも眠ってしまった。奏は迎えに来てくれたんだろうか。私が寝ているのを見て、放って置いてくれたのかな。…でもどうせなら、目が覚めた時に奏がいてくれたらなぁ、なんて。

「とりあえず教室に……」

「おおー、いた!未来、大丈夫?」

保健室を出ると、そこには洸がいた。

「うん、大丈夫。」

「そっか、良かった。……あ、そうそう!それより知らせなきゃと思って。…何かさ、奏が誰かに屋上に呼び出されたって言ってて。誰かは教えてくんなかったんだけど。」

え…?どういう、事?呼び出されたって事は……そういう事だよね。誰なんだろう。奏の返答も気になるけど、相手が誰か知りたいな。でも、知る方法なんて。

「行かねぇの?」

「え……?」

洸が苦笑する。

「屋上は割と死角多いし、ばれずに見に行けると思うぞ。俺もたまーに、利用してるから。」

「私が行く理由なんて……」

「奏が好き、なんだろ?相手、気にならないの?」

っ……気になるよ。気になるけど、でも。押し黙る私を見て、洸は私の肩へと手を置いた。

「未来が良いならいいけど。後悔しないようにした方がいいぜ。出来るうちに、な?」

身を翻し、ひらひらと手を振りながら去っていった。私は…私はっ!行こう。どんな運命が待ち受けていても私は奏が好きだから…真実を確かめたい。


***

屋上へと続く階段を駆け上がる。告白と決まったわけではないけれど、やっぱり心配になってしまう。奏は、私の好きな人だけれど私のものではない。だから、どうこう言う理由は無いけど……それでも、奏に彼女という存在が出来たら、やっぱり悲しいよ。私は、頭を振ってその考えをかき消した。

「はぁ……はぁ。」

荒くなった息を整えようと必死に空気を吸った。少し短く息を吐いて目の前にそびえ立つドアを見つめる。この先に、奏と誰かが。怖いけど、ここまで来て引き返すわけにはいかない。決心をして、ドアノブを捻った。ドアを開けてすぐ肌寒い風が私の体を通り抜けた。思わず目を瞑ってしまったが、真実から目を背けている気がして、すぐに目を開ける。奏はどこだろう……そう思って、ドアを閉めようとした、その時だった。

「私……貴方のことが好きなの」

聞こえてきたのは、その言葉で。体が、全てが動かなくなった。誰の口から発せられた言葉かなんて分からないはずがない。だって……この声は。

「瑠衣、本当か?」

あぁ……私は。知りたくなかった理解したくなかった。彼女との事だけは。認めたくなかったモノが私の脳裏をゆっくりと書き換えていく。知りたいなんて、思わなければ幸せなままでいれた?そもそも私が奏を好きにならなければこんな感情は、産まれなかった。目に映った世界が徐々にぼやけていく。声が漏れるのを抑えるように口元を手で覆った。

このままじゃ……奏は瑠衣と…?…………嫌だ。嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌っ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!【プツッ】その瞬間、私の心の何かが消し飛んだ。そのまま私は足音も物音一つさえ立てずに校内へと戻った。ふらふらした足取りで階段を下りていく。……もう、私には何も…何も無くなってしまった。告白の返事はきっと《YES》だろう。覚悟はしてた……見てしまったのは自分の責任だ。運命を受け入れようと思ったけど、無理だ。こんな結末、全然予想だに出来なかったから。でも、これは違う。違うよ。ここで、大人しく奏を諦める事は出来ない。……どうすればいい?……どうすれば、奏が……私のモノになるの?どうしたら、彼女から奪える?どうしたら、どうしたら。

考えに考えた結果、一つの解決策を思いつく。その考えが、残酷な結果を招く事も知らずに。


未来が保健室を出る数分前。顔を赤く染めた瑠衣の前で、奏はため息を吐いていた。

「どうしよう、ねぇどうすればいいかしら。」

そんな、状況も何一つ把握出来てねーのに言われても。

「だから、何があったんだって聞いてんだろ?」

そう言うと、彼女は思いきり深呼吸をした。暫くして落ち着きを取り戻したのか、事の経緯を話し始めた。話によれば、月を見に行った帰りに誰もいない所へ連れられて、麗に告白されたという事らしい。

「そんなの慌てるような事じゃないだろ。ちゃんと返事すればいいじゃん。麗の事、好きなんだろ?」

「そう……だけど。どういう風に伝えればいいかなんて、やった事無いから分からなくて。」

今にも泣き出しそうな目でこちらを見てくる…おい、麗。瑠衣のこんな表情、初めて見たぜ。

「しゃーねーなぁ…協力してやるよ。」

そう言うと、一気に瑠衣の顔が明るくなる。

「ありがと……じゃあ、奏を麗だと思って練習すればいい?」

「おう、どんと来い。」

「というか、さっきも言ったけど、どういう風に言えばいいのかしら……分からないわ。」

あぁ……そっからか。どうするかなぁ。

「とりあえず、素直に気持ちを伝えればいいと思う。」

「それが分からないんじゃない!」

怒られた……俺、教えてる側だよな?それから、あれこれ自分なりに説明して。

「じ、じゃあ言うわね……えっと、この前の話なんだけど。…私は貴方の事が嫌いではないわ。つまり」

「長いわ!もっと短くてもいいと思うぞ。」

瑠衣からキッと睨まれた。怖いんだけど。

「ほれ、どーぞ?」

彼女の言葉を静かに待った。

「私……貴方の事が好きなの。」

【パタン】ドアが閉まったような音がして、俺は後ろを振り返ったが、特に何も無かった。

「どうしたの?」

「あ、いや……。」

「で、どうだった?言われた通りに短くしてみたけど」

俯きがちに聞いてくる瑠衣が、いつもと違いすぎて笑みが零れた。

「いいと思うよ?後は、頑張れよ!」

ありがとう、そう一言だけ言い残すとにこやかに微笑んで、彼女は屋上を後にした。俺も戻るか……背伸びをして、俺もドアを開けた。

俺が教室へと足を踏み入れた途端、数人の男子が俺めがけて突進してきた。

「ちょ、お前ら離れろ!」

「奏、誰に告られたんだ ?」

「何でそんな話になってんだよ!告白じゃなくて頼まれ事!」

「嘘言え!お前が屋上に呼び出されたって事は証拠に挙がってんだぜ!今更、嘘ついても駄目だからな!」

「誰だよ!んな事言ったやつは!!」

四方から無差別に投げかけられる言葉に耳を塞ぎながら叫ぶ。すると、さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返り、男子共が一斉に窓の外を見つめて慣れない口笛を吹いている洸の方に視線を移していた。

「洸?」

名前を呼ぶとびくりと体を震わせこちらを振り返る。

「ど、どうしたんだよ。か、奏?おいちょっと待て!別に悪気があったわけじゃなくてだなっ!!」

俺は満面の笑みのまま、拳を振り上げた。


人の声が波のように行き来している教室の片隅で、色を失った私の目は隣で洸を締め上げている奏だけを見つめていた。

「××?」

何か言われたが、それは空気と同化して私の耳には届かない。まただ……また、世界が色を失っていく。だけど、奏の笑顔で世界が彩る。私がしなければならない事を後押ししてくれるようだ。私は、きっと大丈夫だ。私ならば、きっと……。

「未来?」

今度はきちんと耳に届いた声に導かれて、私はそっと微笑んだ。

読んで下さりありがとうございました!

次回はとうとうあの赤い月が見られそうです。

次回もどうぞお楽しみにー(=゜ω゜)ノ

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