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赤い月  作者: 望月蓮
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惑う心

ご無沙汰しております。

今回は新キャラが二人ほど増えております。どうぞ、可愛がってやって下さい。

それでは、本編をどうぞ(=゜ω゜)ノ

冬の訪れを感じながら、海岸沿いを足早に歩く。吐いた息は白く広がって、すぐに消えた。来たばかりの頃は一面黄色だった景色が、今となっては寂しい雰囲気に飲まれている。

皆に何も言わず走ってきてしまったから、皆に心配されてるかもしれないな。そんな事を思いながら、私は玄関に鍵を差し込んだ。鍵の開く音がこだましているのが聞こえた。

「ただいまー……」

その声も虚しく空気中に溶けて、すぐに聞こえなくなった。まだ誰も帰ってきてないのかな?そう思った瞬間に、リビングの方から凄い足音とともに走ってくる女の子が一人。

「お帰り、おねぇちゃん!!」

今、私の体めがけて飛び込んできたのは、妹の友希(ゆき)。まだ小学四年生だが、とてもしっかり者なので毎日助かっている。また、いつもこうやって私の帰りを喜んでくれるのだが、困っている事が一つ…。

「未来ねぇちゃんお帰り!寂しかったよぅ……そうだ、あのね今日ね紗凪(さな)ちゃんと一緒にウサギのお世話してたんだけどウサギに餌あげてる時に小屋の外に逃げちゃってね、あ逃げたっていうのは白くて小さい生まれたばかりの雌のウサギなんだけどその子が車の下に……」

「分かった分かった。後で聞くから着替えて来てもいい?」

「うん!」

友希は一息で喋る癖があるため、早口でとても聞き取りづらいのだ。別に嫌ではないのだけれど。だけど、どこかで止めないとずっと話し続けるので困ったものである。ててて……と歩いていく友希の背中に苦笑いをこぼしながら、私は自室へと向かう。

この家には、私と友希、父親の(とおる)、そして母親の芽衣(めい)の四人暮らし。両親は二人共夜遅くまで働いているので、夕食を作るのは私の担当だ。今日もいつものように両親の帰りが遅いので、友希と二人で買い物に行くことにした。


同時刻。奏は自室のベッドに寝転んで天井を見つめながら考え事をしていた。『月祭り』の時といい、今日といい未来の行動が気になって仕方なかったのだ。俺が何かしたのであれば謝なければいけないと思うが、そんな変な事をした覚えはないんだよなぁ……もしかして、無意識のうちに傷つけたりしてるのかな?もしそうだったらどうしよう。……いや、それは考えないでおこう。なんか悲しくなってきた。でも、未来が最近落ち込んでいるのは確かだし。俺に出来ることはないんだろうか。未来が話してくれない限り、何の施しようもないけど…考えても無駄だ。今日はとりあえず寝よう。そう意気込んで、深い眠りについていった奏であった。


***

次の日の朝。いつも通り未来が教室に入ると、いつも先に来ているはずの奏がいなくて。

「あれ?」

「未来、おはよーさん。どしたの?ドアの前で突っ立って」

後ろから声をかけられ、振り返ると洸が立っていた。

「……何でもないの。それにしても今日は早いね」

「今日はちょっと勉強しようと思って。凛に教えなきゃいけないから。で、奏がいないからびっくりしたんだろ?」

!?なんか今さらっと当てられたんだけど……

「ち、違うよ!」

「図星か……顔真っ赤。」

そう言われ、反射的に自分の顔に手を当てた。すると、悪戯っぽい笑みを浮かべた洸が言った。

「未来って正直というか、素直だよな。凛より全然…!?」

「どうしたの、洸。私より?全然?何だって?」

いつの間に来たのだろうか。私の目の前に、凛が仁王立ちで立っていた。何とも様になっているなぁ…と思いつつ、そっと凛が通れるぐらいの道を開ける。…洸、そんな目をしても助けてあげられないよ。

「ありがと、未来。洸………ちょっと面貸せや!」

「はっ、はい!!」

凛は洸の首元を掴んで人気のない方へと向かっていった。……洸、頑張れ!!


教室へと入りドアを閉めると同時に断末魔が聞こえたが気にしない事にして、席について一息。ふと窓の外に目を向けた時、私の視界に見覚えのある男子の姿が飛び込んできた。目を凝らすと、やはりそれは奏で。奏の事を認識するのと奏が昇降口の方へと消えるのがほぼ同時だった。時計に目をやる。遅刻する時間でもないし、あんなに急いでどうしたんだろう…。しばらくそうやって考え込んでいると、教室のドアを開ける音がした。

「おはよう………っ!?」

奏が来たかと思ってそちらを向く。そこには案の定、奏がいたのだけれど……隣に、瑠衣がいた。

「おはよ、未来」

「あら、どうしたの?」

奏の後に続いて瑠衣も近づいてきた。どうして二人が一緒に?奏は一人だったはずじゃ……もしかして急いでたのって…瑠衣を追いかけてたから?

「何でもない。……どうして二人が一緒に?」

思っていた事が、つい口から出てしまっていた。

「え?あぁ、昇降口の所で偶然会ったから」

……本当に偶然?分かんない……分かんないよ。

「お、奏に瑠衣じゃん!やっほー」

すると、先程凛に連行されていた洸が逆に凛をおぶって戻ってきた。凛はどうしたんだろう。

「どうしたんだよ、それ」

奏も私と同じ事を考えていたようで凛の事を指差し言う。んー?と言って洸は笑った。

「いやさ、今さっき凛に殺されかけたんだけどさー」

「よく生きてたな」

「まーね。慣れてるから。で、凛に一発かまされた後に不意打ちで…キスしたり色々やったら、力抜けたみたいで」

こうなった、と。洸の言う、色々という言葉が気にかかったがあえて考えない事にした。考えたら、終わりな気がする。洸の背中でぐったりとしている凛は終始何か呟いていて。

「もう……洸の馬鹿……」

何この可愛い生き物は!!洸もよくやるよね、本当。

「お!もうすぐHR始まるな」

時計を見ると、いつの間にか時間が過ぎており、八時五十分を指していた。どうせ、いつもの事だから、ほぼHRせずに先生は職員室に戻るはずだし、すぐに授業始めるはずだから用意しとかなきゃね。確か、一時間目は私の苦手な古典だったはず。授業の準備をしようと立ち上がったその瞬間。突然足元が覚束なくなってぐちゃぐちゃに視界が歪む。目の前の世界が音もなく崩れ去り、私は気を失った。


「ん……」

目が覚めると、まず最初に白い天井が見えて。そして、布団がかかっている事と消毒液の匂いのおかげで、ここが保健室なんだと理解することが出来た。しかし、まだ目が覚めたばかりで視界がきちんと定まってくれずぼやける。……ん?誰かが側にいる。何を話しているかまでは聞こえないが、話し声もする。二人いる……うん、二人。……徐々に明瞭になっていく視界の内側でこの人物達が誰かを認識するのに、時間は要らなかった。


***

目の前で起こった光景に奏達は驚きを隠すことが出来なかった。突っ立ったまま、倒れた彼女を見つめる。普通に話していたら、いきなり倒れたのだ。それは、驚きもする。しかし、ずっと動かないわけにもいかず奏は未来を抱き上げた。幸い、どこにも頭は打たなかったのでほっとする。

「どどどど……どうしよう!?」

予想以上に動揺して、それしか言えない。

「少しは落ち着きなさい!!気を失ってるだけよ」

「でででで……でも!!」

俺の頭の中は真っ白になりつつある。そんな俺の頭を、瑠衣が軽くはたいた。

「とりあえず、保健室に連れて行くわよ。私も一緒に行くわ。……未来はあなたがおぶってね」

瑠衣の冷静すぎる判断に心から感謝する。おかげで少しは平常心を取り戻していた……本当に少しだけど。

「じゃあ、先生には俺らが言っとくわ。…ほら、凛。もうそろそろ起きて?いい加減に下りてくれなきゃ、変な気分になりそうだから。」

「ん、ごめんね。……嫌いになった?」

「あんなんで嫌いになるかよ、馬鹿だな。大好き」

「目の前でいちゃいちゃするんじゃねーよ。」

未来を背中におぶる。……二人の周りに星が見えるんだが。このまま見ててもイライラするだけだし急ぐか。


保健室のドアを開けると、独特の匂いが鼻につく。そんなに怪我なんてしないから、保健室に来るのは初めてかもしれない。先生を探すが、姿は無かった。とりあえず、寝かせるだけ寝かせてもらおう。

「失礼しまーす……ん?」

足を踏み入れてすぐに足の違和感に気付く。何かにぶつかった?何か嫌な予感しかしないんだけど。おそるおそる視線を下に向けると、そこには小さな女の子が立っていた。微動だにしないんだが……。

「ごめんな、俺見てなくて。怪我なかった?」

そんなに小さくはない子だ。丁度、俺のふとももより上ぐらいに頭がある。遠くの方にピントを合わせていたので完全に死角だった。その女の子の肩に手を置くと、恐ろしく綺麗な笑顔で……足をぐりぐりと踏みつけられる。何これ…何だこれ!!しかもピンポイントに刺さってくるし。いたっ……いだだだだだだ!

「いい度胸ね、先生に向かって!」

え?先生だとっ!?こんな小さいのが?嘘だろ…あぁなんだか足の感覚がおかしくなってきた気がする…。

「ごめんなさい、百瀬(ももせ)先生。この人、保健室に来るの初めてなのよ。今日は勘弁してあげて下さい。」

「ちっ……そう。じゃあ、いいわ。」

今舌打ちしなかったか、この先生!?百瀬先生は、俺の足から撤退して服の乱れを正す。瑠衣のお陰だ。

「で、ご用件は?」

あ!大事な事を忘れるところだった。

「えっと……この子が突然倒れちゃって。ベットで寝かせてもらえませんか?」

「分かった。じゃあ、勝手にやっといて。ちょっと私は職員室に行ってくるから。」

そして、先生は俺達の横を通ってドアの向こうに消えていった。俺の横を通り過ぎるときに足を踏まれたが、気にしない事に決めた。

先生が去ってすぐ、ベットに未来を下ろすと気持ちよさそうに寝息を立て始めた。よかった……。ベットのすぐ横に腰を屈めて寝顔を見つめた。あぁ、幸せだ。

「ねぇ、奏。そんなに近くにいると、未来が寝返りを打った時に事件に発展しそうだから離れたら?それとも起こしたいの?」

幸せな気分が一転。変な汗が頬を伝う。そんな変な事するわけ……。瑠衣の方に目をやると、蔑んだ目で見下されていた。

「そんな変な事するわけないだろ!?」

「私は何も言ってないわ。一体何を想像してるの?」

「そ、それは……」

思わず口ごもる。言える訳ねぇだろ!卑怯だ!!

「何でもねぇよ……」

急に恥ずかしくなって、そっぽを向く。すると。

「ん……どうしたの、私」

丁度いいタイミングで未来が目を覚ました。ふぅ…ちょっとホッとした。もちろん、未来が目を覚ました事もだけど、瑠衣とはあまり二人でいたくないと思っていたからだ。何でかって?こいつは心を見透かしやがるからだよ!それであたふたする俺の反応を見て楽しんでるんだ。一番面倒くさいタイプ……後で麗に言いつけてやるからな、覚えとけよ。でも、そう思っている事を、怖くて口に出せない奏であった。


まだ頭が痛くてぼんやりしてるけど、視界は良好だ。やっぱり、思った通りこの二人だった。何でこの二人なの…何で?

「急に倒れてびっくりしたんだぞ!」

「心配かけてごめん……奏が運んでくれたの?」

「っ……お、おう。」

奏が運んでくれたのか…やっぱり、優しいな。

「ありがと。」

そう言って起き上がろうとする私を、瑠衣が止めて再び私を横に寝かせて、布団をかけてくれた。

「まだ寝てなきゃ駄目よ。後で、奏が迎えに来てくるわ。」

私はそれ以上何も言えなくて、黙って頷く事しか出来なかった。そして、目を閉じる。しばらくして、瑠衣の行きましょうか、という声が聞こえた。続いてドアの開く音がし、二人の気配が消える。それを合図に、もう一度目を開け天井を見る。……どうして二人で来たんだろう。偶然だよね、偶然だと思いたい…でなきゃ!奏は優しいけど…でも分からない。それが本当の奏なのかが。瑠衣を想ってたらどうしよう。どうしよう!瑠衣は、皆の憧れ。それは多分、麗とまともに話せてる人物だからっていうのもあると思うけど、人柄もルックスも頭脳だって完璧だからだと思う。私も、そんな彼女に憧れてるもの。自分にはないものをあの人は持っているから。だから、私ずっと瑠衣みたいな人になりたいなって思ってたのに…今は。ううん、こんな事願っちゃ駄目。……私は遠くで見てるだけでいい。友達として、奏の隣に居られればいい。

『あの噂って本当かなー?』

『え、何が?』

すると廊下きら男子が話しているのが聞こえてきた。壁一枚隔てているのに、よく通る声だな…。

『未来さんが奏のやつを好きだって噂』

『あー、噂じゃなくね?暗黙の了解だろ、あれは。だって奏に向けて笑ってる時の笑顔は破壊力やばいから』

え!?ば、ばれてる!?え……未来って私だよね?

『当の奏は、未来さんのことどう思ってるんだろ?』

『んー、俺別クラだしあんまり分かんないけど、それこそ噂で両思いだー……ってのが出回ってるけど。』

『うわー、もう俺脈無し?』

『最初からお前にはねぇよww』

笑い声が次第に遠ざかっていく。さっきから心臓の音が五月蝿い。……そんな噂があったなんて知らなかった。私の気持ちが暗黙の了解だなんて。そんなに分かりやすいのかな……いやいやいや、それよりも。…奏も私を好き、なの?いや、でも噂だし。でもでもでも、もし本当だったら?ううん、でも奏には瑠衣が。……ああ、もう!!気になって仕方ないよ。

すると、ドアの開く音がして足音が近づいてきた。カーテンを少し開けて入ってきたのは百瀬先生だった。側に置いてあった椅子に登り顔を覗き込まれる。そのままおでこに手を当てると、何故か首をかしげられた。

「見た感じでは熱無いように見えたんだけど、平気?」

「だ、大丈夫です。」

「えっと、アイスノンは」

自分から聞いておいてガン無視である。何とも、この学校には自由な先生ばっかりだ。何で教師出来てんだろう…暫くして、両手にアイスノンと熱冷まシートを大量に抱えて戻ってきた。

……そんなにいらなくね?どんだけ体温奪うつもりなんだこの人。

私の前髪をどかして熱冷まシートを一つ貼り、後頭部を持ち上げてアイスノンを一つ置く。そして、残ったものを抱えて戻っていった。

……全部使わないなら持ってこなくても良かったのでは?

そして、また戻ってくると意味もなく毛布をかける仕草をして、ふぅと一息。

「これで熱は下がると思うけど、安静にね。何かあったら呼んでちょうだい。あっちで仕事してるから」

それだけ言い残すと、椅子から飛び降りて静かにカーテンを閉めていった。…逆に疲れた気がする。そう言えば、何の事考えてたんだっけ?あ、そうだ。奏と瑠衣のことだ。でも、今は色々な情報が一気に入ってきすぎて頭がパンクしかけている。一旦、あの事を考えるのをやめて睡魔に身を任せるのも悪くない。考えても困惑してしまうだけだし。……また、後でいくらでも悩むことだろうし。

そして、未来は静かに目を閉じた。

最後まで読んで下さりありがとうございました!

楽しんでいただけたでしょうか?

今回は、少し長くなってしまいました。キリがいいところまで書こうと思ったら、6000字ほどに……。

大体4000〜5000前後で書こうと思っているのですが。


まぁ、楽しんでいただけたならそんな事どうでもいいです!はい!次回も宜しくお願いします!

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