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赤い月  作者: 望月蓮
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月祭り---前編

少し時間が空きましたが、楽しんでいただけたら幸いです!今回は少しだけ、短いです。

校内案内を再開して、校内を歩き回る間中ずっと、私の脳内は先程凛ちゃんの話していた『赤い月』の事でいっぱいで、あまり皆の話している内容が入ってこなかった。願いは叶うが、その代償に自分の命を差し出さなければならないという究極の選択。そんなものじゃどっちにしろ幸せになれないのではないだろうか。しかし、願う内容によっては自分の命を差し出してでも叶えてもいいと思えるのだろうか。凛ちゃんは、願い事をした人も、それで死んだ人も聞いた事がないと言っていたから……やはり、ただの言い伝えなのだろう。でも、もしそれが本当のことだとして。私だったら何かお願いするのかな?今の所死んでも叶えたい願いなんか何一つないからなぁ。

「……く。おい、未来!!」

青山君が、私の肩を揺すった。上の空で話を聞いていなかった私は、びっくりしてしまった。

「え……あ、ごめん。何だったっけ?」

そう聞き返すと青山君は不思議そうに私を見つめる。私は、その先の言葉を待ってじっとしていた。だけれど、一向に青山君は話してくれなくて。え、何で何も言わないんだろう。私の方から何か話したほうがいいのかな?しかし、青山君が真剣な表情で私を見つめてくるものだから少し恥ずかしくて何も言えなかった。


奏と未来が見つめ合って十秒ほどが経った。その光景を見ていた洸と凛は、お互いに目で合図をした。

「あぁー、そういえば今日用事あったんだった!」

「じゃあ、送るよ。」

「うん、ありがとう。それじゃあ二人とも!」

「また、明日な!」

下手すぎる芝居だったが、今の月島さんと奏には効果抜群だったようで信じてくれたようだった。そして、凛の手を引いて急いで場を後にする。何故、二人が見つめ合っていたのかは分からないけど、これから何か面白い事が起こる気がしてならなかった。


「また、明日な!」

そう言って去っていった二人組に何も言えず、俺は月島さんと二人きりにされてしまった。あいつらめ…。だけど、困った。二人にはなりたくなかったんだが。だって……一目惚れしてしまった相手に校内を案内して、名前をよばれて、話して……緊張しなわけがない。おかげで、見つめられただけでこのザマだ。照れすぎて話せないし。もう何してくれてんだ、あの二人!お互いに何も言えずうつむいていると。

「あと十分で最終下校時刻です。校内に残っている生徒は、急いで下校してください。繰り返します…」

二人に助け舟を出すように、校内アナウンスが鳴響く。

「あ。……か、帰ろうか。」

何とか言葉を押し出すと俺は月島さんに微笑んだ。彼女も俺に微笑み返してくれ、二人で教室まで戻ることにする。その間、少し会話をしながら。

そして、教室まで帰り鞄を取って昇降口に急いだ。

「おい、お前ら何してんだよ」

そこにいたのは、先程俺らを置き去りにした凛と洸の二人だった。仲良く談笑してやがった。

「帰ろうとしてた所だよ?…ねぇ?」

「お、おう。」

「傘立ての所に堂々と座って、話をしてたのにか?」

「……ま、まあまあ。もう帰らないと。」

少し睨みを効かせていると、間に月島さんが入って止めた。月島さんに止められては、これ以上言うことも出来なくて俺はイライラしながらも下がった。

「帰るぞ。」



***

月島さん……もとい、未来が来て一ヶ月が経った。未来はもう学校にすっかり慣れたようで、毎日楽しそうに過ごしている。相変わらず笑顔が可愛い。そのせいで男子人気が半端なく、毎日どこかでひっそりとファンクラブが活動しているとの噂もあるくらいだ。友達も沢山出来た中でも、俺や洸、凛そして瑠衣といつも一緒に過ごしてくれている。未来曰く、一緒にいて安心するからだとか。俺らのことも呼び捨てで呼んでくれるようになったし、距離がぐっと近くなったように思う。俺にとってはとても嬉しいことだ。また、最近は瑠衣とウマが合うようで楽しそうに話しているのをよく見かける。主に勉強のことについてみたいだが。未来は転校してきていきなりの模試で学年三位を取るほどの頭脳の持ち主で、教室を沸かせたのは言うまでもない。だが、もっと驚くべきなのは模試の一位と二位もこのクラスにいるということだ。その二位が瑠衣なのだ。どうりでウマが合うわけだ……中間ぐらいの成績だった俺からしてみれば羨ましい限りである。

いつものように皆が話しているのを片耳で聞いていた俺は、そう言えばとある事を思い出し皆の方を見た。

「そう言えば今日ってさ、祭りだよな?皆で行かねぇか?」

未来以外の全員の顔が明るくなる。

「え、こんな時期に?珍しいね。」

興味を示した未来の瞳は輝いていて、綺麗だった。というより、顔は可愛いし全てがドストライクだし……あ、やっぱ好きだわ。未来のこと。いかんいかん!話が脱線しかけている。あの日からずっと、俺は未来に片想い中だ。彼女が俺の事をどう思っているかは分からないが、嫌われてはいないはずだよな?

「おーい、奏?どしたの?」

未来の声で我に帰る。

「あぁ、ごめん。で、今日の祭りは『月祭り』って言うんだけど、『赤い月』が出る年に毎回開催されてるんだよ。」

「へぇ……行ってみたい!」

その言葉に皆が頷く。すると一人の男がやって来た。

「どうしたのだ、奏。……そんなに睨むでない」

彼の名は神前麗(かみまえれい)。奏達と同じ1-5に所属しており、先日の模試で学年一位をもぎとった秀才でありながら、この花月高校の生徒会長を務める男である。しかもイケメンであり、全校女子の票を獲得し二年で立候補していた先輩を圧倒的差で倒すという伝説の持ち主でもある。ついでに、生徒会も麗目当ての女子ばかり。

「なんでもねぇよ」

麗の質問を軽く受け流す。だが、麗はそれを気にもとめず瑠衣の方に向き直った。

「瑠衣、すまぬが帰りのHRが終わったら生徒会の仕事を手伝ってくれぬか?忙しいのなら強要はしない。」

「別にいいけれど……」

瑠衣は面倒くさそうに言った。

「ふぅ……もうそろそろ席に戻るとしよう」

その言葉を機に空気が変わった。教室で談笑していた女子達が席に戻った麗を取り囲む。もうお分かりかと思うが、麗は女子にモテモテなのだ。おかげで毎日うるさい。当の本人は、それを迷惑には思ってないようだが、やはり困っているようだ。しかも、麗は中学校の頃から瑠衣の事が好きらしい。しかし、瑠衣はそんな事には気づいていないみたいだ。

後ろの方でざわざわと女子の声と困っている麗の声がしてしばらくしてから、有馬先生がドアを開けて入ってきた。

「今日は『月祭り』ですね!先生も彼氏と行ってきまーす!皆も、行く時は充分に注意してね!」

HRもするのを忘れてそれだけ告げると、先生はそのままスキップしてドアの向こうへと姿を消した。……浮かれ過ぎにもほどがある。彼氏の事となると、あの人周りが見えなくなって授業だって真面目にやらないもんな。

HRの終わりのチャイムが鳴った。それを合図に、皆それぞれ自分の帰途についていく。俺達も、後で会う約束をして、それぞれの帰途についた。



***

少し空が暗くなってから皆と待ち合わせ。それまで何をするか考えていた未来は、少しだけゆっくり歩いて帰る事に決めた。やはり、この島は周りを海で囲まれているだけあって肌寒い。海岸沿いを歩くと、更にその事実が浮き彫りになってしまうほど。まだ、完全な冬でもないのに吐いた息が白くなる。もの寂しい気もするが、東京のようなごちゃごちゃしている雰囲気よりも静かで落ち着く、こちらでの生活の方がずっといい。辺りを見回すと、黄色に色付いたイチョウの木や赤く染まった山が私を取り囲んでいた。もうこんな所まで来てしまった……この先、イチョウの並木道が開けたところに私の家がある。多くの自然があって本当にロマンチックだ。いつか、この道を誰かと歩けたらいいな…なんて思う。陽が傾き始めて空が橙色に染まっていくのを見て、私は大きく伸びをした。


待ち合わせをして祭りへと出向いた奏達は、未来の予想以上のはしゃぎように少し戸惑ったりしていたが、次第にその雰囲気に飲み込まれて皆で騒ぎまくる。一通り屋台を見ながら、奥の方にある神社へと向かった。奏曰く、この神社は縁結びの神様がいるそうだ。

(……皆とずっと、一緒にいられますように)

口には出さずに心の奥底で、そっと願った。

「そういえば、瑠衣。麗は来ないのか?」

唐突に奏がそう言った。

「あぁ、今日はどうしても来れないんだって言ってたわ。」

「そっか、ならいいや。…よしっ、じゃあ祭りを楽しむか」

奏の言葉に頷いて、もう一度来た道を戻っていった。


そして、私は後悔することになる。

読んでくださってありがとうございました\(^o^)/

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