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2: Macaron -a

 どうして俺とショカがあんな辺境のマングローブの森にいたかと言えば、話は約一週間前に遡る。




――――黎暦37年9月 首都クレイドル 居住地区マリア 何でも屋『ブックエンド』


 ポットから紅茶を注ぎつつ、俺はその奇妙な二人を交互に見ていた。会話をするその二人の間には、年季の入った丸テーブルがあり、その上にわずかに湯気を立てるティーカップが二つ、ティースタンドが一つあり。ティースタンドの上には俺が作った色とりどりのマカロンが並んでいる。

「湖水地方の方にステラっていう地域があるでしょ?」

「ええ、昔はルーナという名前の大きな都市国家だったとか。最近、都市国家時代の遺跡が湖底で発見されて調査が進んでいると、ラジオで耳にしました」

 会話する二人のうち、黒一色の方はこの何でも屋『ブックエンド』の女主人にして、俺の恩人である魔法使い、ショカ。

「そうそう、それよぉ。その遺跡調査、どうやら女王陛下のトコイ殲滅部隊が絡んでいるらしくって。女王の意向で殲滅部隊も、とか報道されているけど、詳しい事情は誰も知らないわ。実際問題、破壊が仕事の彼らに発掘調査なんて、おかしいと思わなぁい?」

 もう片方は本日の依頼人。緑のシルクハットに銀色の豊かな髪。緑色の口紅が弧を描いて、ショカの言葉に応じている。どこか楽しそうにおかしそうに言葉を吐き、その口から優雅な動作で紅茶を飲み込む。シルクハットと同じ色の傘が椅子の背もたれにひっかけてあった。

 ポートマン=トー。それがこの男の名前である。ショカとは知った仲らしく、かなりフランクに会話している。俺も何度か顔を合わせている。

 何でも、『優美な屍骸』とかいう物騒な名前のサーカス団で団長を務めているらしい。しかし、普段街中でそんな名前のサーカス団の公演話はついぞ聞いたことがないので、本当なのかどうかは謎である。

「確かに妙ではありますね。しかし、調査隊の警備を殲滅部隊が担っているとは考えられないでしょうか?」

「アラ、あんな人のいない僻地にトコイなんか出るかしらぁ?警備なんかつけなくても、調査隊が言葉に気を付ければ良いだけじゃない。万が一ってことがあっても、地方駐在している部隊で殲滅は事足りるはずよ。なのに、首都の女王直轄部隊がわざわざ……あの女狐、なんか妙なこと考えていると思わない?」

 女より女らしく、そしてぶっちゃけなんか無駄にエロオーラを出しまくるこの男のことが俺はどうにも苦手だ。その所作は別に良いとしても、のらりくらりとして言葉の真意がつかめない様に気味の悪さを覚える。ショカはその点はっきりと伝えるべき言葉を言うので、さすがは魔法使いといったところかもしれない。

 長くボリュームのあるまつ毛が揺れて、緑の瞳がこちらを見た。目が無駄に輝いている。ポートマンは長いブーツをはいた脚を緩やかに組み直した。

「ねえ、フォリオくんはどう思う?我らの女王陛下は一体何をお考えなのかしら?」

「知るかよ。興味もねえし。てか、依頼に来たんだろ。とっとと用件言って帰れ」

「アラアラァ~、ねえ、ショカちゃぁん、フォリオくんったら冷たいわぁ。アタシ泣いちゃう~」

「他人にそういう言葉遣いはよくないよ、フォリオ」

「……では、依頼人サマ、早急にご用件をおっしゃっていただけると大変ありがたいのですがいかがでしょーかー!?」

「ええ、まあ、確かにフォリオくんの言う通りかも。本題に入りましょうか」

 さらっと流された。やっぱりショカの知人だと分かっていても苦手なものは苦手だ。

 ポートマンの派手な装飾のネイルが光って、ティースタンドから小さな黄色いマカロンをつまみ出す。確かレモンの皮を味のアクセントとして使った奴だ。ポートマンはそれを一口かじって中身を見つつ言う。

「ずばり言うと、アタシ、女王陛下の犬どもが遺跡で何をするつもりなのか興味があるの。ちょっとステラまで行って、調べてきてくれない?」

「何だよ。そんなん、自分で行けば良いじゃねえか」

「アタシはアタシで色々忙しいから、ムリムリ。サーカス巡業しているとその土地ごとに疑問がドンドン出てくるけれど、そのすべてを自分で解明するのは残念ながらちょっと難しいの。だから、こうしてお願いしているのよ。そもそも、アナタたち何でも屋が仕事を選ぶようなことをするのはいかがなものかしら?何でもやるのが何でも屋なのではなくて?」

 この嫌味な言い方だ。いけ好かない。イライラして俺もティースタンドに手を伸ばす。オレンジのマカロンをつまんで口に放り込んだ。これもオレンジの皮を刻んで入れてある。チョコレートクリームのほろ苦さとオレンジの皮のさわやかさがマッチしている。我ながらいい出来だ。

「今回の依頼、我ら『ブックエンド』できちんとお引き受けいたします。しかし、ポートマン」

「ん、なあに、ショカちゃん?」

 ショカも赤のマカロンを一つ手に取った。顔の横にかざしてニコリと笑う。右目に巻かれた白い包帯と相まって、その色はとてもよく映えている。

「何でも屋であっても何でもやるわけではありませんよ。仕事は選ばせていただいています。私は、まだ死にたくはありませんので」

 長いまつげが瞬いた。緑の濃いアイシャドーの下でポートマンが驚きの表情を浮かべた。

「……なるほどねえ」

 驚きはすぐに笑みへと転じる。

「それはそれで、何だか安心したわ」

 ショカは赤いマカロンを口に入れた。きっと、擦ったリンゴとカモミールティークリームの優しい甘さが広がるはずだ。

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