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10:Butterfly side:S

 ――――黎暦37年10月 廃墟都市ステラ 第三遺跡群 第1階層~同第4階層付近


 跳躍と共にジャックに投げ渡された通信機を、ショカが装着するとノイズ混じりのやり取りが耳に入る。

「《こちらバタフライ1だ。各班順に状況報告せよ》」

「《こちらブレッド1、現在西側第2階層内。ブレッド2、3と共に調査員20名を無事保護、彼らを沈黙させています》」

「《同じくブレッド4、現在東側第1階層外壁。調査員12名、保護。同じく沈黙》」

 数班同じように報告が上がり、バタフライ1もといジャックが応える。その間にもショカは外壁に張り巡らされた木や鉄の足場を軽々と跳び、トコイに近づいていく。ジャックもそれに追随する。

「《うむ、ご苦労。外部にいる班は、階層内部に避難せよ。以降、対トコイ兵装使用、および、公式成文集7節以内の使用を許可する。外にいる連中に関しては、俺とカラスでやる。万一、内部侵入したトコイがいたら速やかに処理しろ》」

「《了解》」

 眼前に迫るトコイ群は昨日相対した鳥型よりも体が大きく、不思議なことにどこか、ある種の知能で統率されているようにも見える。トコイに知能がどれだけあるのか、そもそも知能など存在するのか。どのように顕現し、何故ヒトを喰うのか。何故花になって散ってしまうのか。トコイは明確に分かっていないことがあまりにも多い。

 第3階層外壁に張り付いている掘削装置のてっぺんからまっすぐと西側外壁に視線を向ければ、トコイの群れがそこで停滞している。

 奇妙だ。いくら調査隊が沈黙状態にあるから良いとして、通信に大きな声で応えているジャックの言葉にさえ、トコイたちは反応しない。あらゆる言葉を敏感に察知して、ヒトの居場所を探り、喰らうはずのトコイにしては、現状、ただ中空でぐるぐると回りながら呻き声をあげているだけというのは不自然だ。

「……ジャック、あれはどう見ます?」

「ああ、お前も気づいたか。確かに妙って言っちゃ妙ではある。言葉での陽動も期待できそうにないしな。が、何であれ、俺たちのやることは変わらん」

 トコイの殲滅。ジャックの言葉に納得し、ショカは一度頷く。

「そうですね。それでは、行きましょうか」

「おう!」

 そして、ショカはただ一言、

「【跳べ】」

 黒と赤が空間を鋭く裂いた。黒いヒールがトコイを足場に跳躍し、その後には花が咲く。その背後で、巨体が振り回す多節棍がすべてを切り、また花が舞い上がる。

 そこでは、まるで会議場のように言葉が飛び交う。あるいは、下手な会議よりも余程の意味を持った言葉が、行く宛のない言葉を切り捨てる。

 ジャックの多節棍が振られるたびに、大きな風が巻き起こる。空飛ぶトコイは急速にその渦に巻き込まれ、悲鳴を上げる。

「ショカ!上がれ!」

 ジャックの叫びに、ショカはトコイを蹴ってより一層高く跳躍した。第1階層のさらに上へ。

「【飛べ】」

 背面で飛びながら首を捻れば、眼下に広がる谷間には風に巻かれたトコイの群れ、そしてその中から、第3階層の機材に乗り移って暴れているジャックが投げ渡してきた得物が目に入る。

 滑らかなこげ茶色の銃身、そこに鋭く銀色が光っている撃鉄と当たり金。投げ渡されたそのマスケット銃を、ショカは躊躇なく真下に向けて構えた。撃鉄を起こすと右腕を強く引き、落下しながらトコイがより密集している場所へ銃口を向ける。

「【貫け】」

 武器がコトダマを、魔法使いの技を、強める。

 無駄のない一言とひかれた引き金で、撃鉄が跳ね上がった。当たり金とぶつかり盛大に火花を散らし、ショカは一瞬目を眇める。弾丸が放たれる反動で銃身と彼女の体が激しくぶれた。青い左目をきつく細め、それでもその行き先を見定める。

 弾丸は貫く。太陽が谷を照らす中、トコイに飛び込むそれに白い光が螺旋状に絡みついた。そして、弾丸そのものの威力を底上げし、それ自身も鋭い衝撃となってトコイの身を抉る。言葉を乗せた重い一撃が空気を焼く。白い光は眩しいくらいになって、周囲のトコイを照らし焦がす。ヒガンバナに転じる寸前、ようやく言葉に反応したのか、瞳孔が開き切った獰猛な目がようやく白い光を映す。そして、その光はヒガンバナさえも一切跡を残すことなく、霧散させる。すべては一瞬、赤く燃え上がって、あっという間に灰になっていく。それは、周囲の機材や足場、遺跡の建築物さえも巻き込んで焼却する。昨日ジルが放ったものよりも威力は劣るが、それでも群れて飛んでいるトコイの大方を巻き込むには十分だった。

 ショカは、第4階層の鉄骨の足場に落下の勢いを殺しつつ、着地した。鉄骨は軋み、ヒールが少し削れる。ジャックが鞭剣を振るいながら、その隣に着地した。

「残りも頼む!」

 またしても投げ渡されたのは、薬包。ショカはその端を噛み切り、手際良く弾丸と火薬を込めていく。そして、さっきの攻撃から逃れたトコイに向けて構える。位置を調節し、一呼吸置いて、二発目を放った。

「【燃えろ】」

 今度は先程より弱い光がまた空間に輝く。

「どうだ!?うちの兵装工房の新作だぞ!」

「作った方の腕が良いのでしょう。物は良いと思います。しかし、反動が大きく、銃身がぶれやすいことに加えて、想定より少し威力が出すぎているようにも感じます。申し訳ありませんが、お返しします」

「なるほど、そうか。調整が必要だな。工房に言っておこう」

 ジャックにマスケット銃を返す。

 暴発するから銃をやたらめったら投げるのもやめてほしい。ショカは心中そうも思ったが、それを口にする前に、



 ズガガガガガッッ!!!!!!



 突如、谷をすべて揺るがすような地鳴りが響いた。

「何だ!?何が起こっている!!?」

「分かりません」

 ショカは大きく身を乗り出し、谷間を見下ろした。青い目を大きく見開き、それを見た。視線の遥か先で、粉塵が煙る。木でできた足場が燃え、それを追うように何度か爆発が起こっていた。火薬、何かが焦げる臭いが鼻を突く。トコイではない、ヒトの悲鳴が響く。ショカも、隣に立つジャックもその様子を言葉なく見つめる。

 東側第7階層から第8階層にかけて、大きく崩落していた。


作中、ショカが使っている銃は、ブラウン・ベスがモデルになっています。

また、こちらの動画を参考にしました→https://www.youtube.com/watch?hl=ja&gl=JP&v=Ho-QCmnNMl8

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