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 向井光一と睦月の攻防が繰り広げられる。

 向井光一は流石『勇者』というべきか、睦月の攻撃をどうにか交わして、避けていた。

 召喚チートが機能しているのだろう。その力は相当なもののように見えた。力だけなら睦月と互角かもしれない。

 でも、向井光一は睦月に押されていた。

 それはなぜかと言えば簡単だ。

 あまりにも型にはまった戦い方をしているからである。それは、向井光一が『勇者』として『魔王』を倒したといえど、生ぬるい生活をしてきた事を意味する。

 だって命の軽いこの世界で、本当にギリギリの戦いをしてきたのならば型にはまった戦い方だけではやっていけない。

 多分、奴は人を殺した事がない。一線を超えなかった。綺麗なままでそこにいる。

 そもそもこの世界の残酷さをきっちり理解しているなら、睦月の言葉にもっと耳を貸すはずだ。きっと何処までもこの世界は『勇者』と『聖女』にとっては優しいものだったのだろう。

 「あ、はっは」

 睦月は、笑っていた。

 向井光一を徐々に追い詰めながら、笑っていた。

 「……くっ」

 睦月と対峙する向井光一は信じられないものを見る目で睦月を見ている。

 その目には、驚愕と恐怖がみて取れた。

 『勇者』である自分が葬れないほどに睦月が強大な力を持っている事にそれを感じているのだろう。特に『勇者』として過ごしたこの二年、向井光一は負けなしであったはずである。だから慢心していたように思える。

 自分は強いのだと。

 ああ、本当面白い。

 「もー、さっさと死んでよ」

 笑っているけれども、酷く冷たい声に、向井光一の身体がびくついた。二人の戦いを青ざめた顔で見ていた矢上奈々美の顔は益々青白く染まっていく。

 睦月の手が振りかざされた。

 真っ黒な炎が、いくつも出現する。

 睦月は、本気だ。

 今までは、ここまでしなくても敵は死んだ。だからここまでする必要なかった。だけど向井光一と矢上奈々美が中々死んでくれないから、睦月はそれを行使した。

 睦月を囲うように無数の轟く炎。不気味な夜色の炎は、睦月の意志に従って一斉に彼らを襲った。

 それだけで終わりだった。

 幾ら『勇者』と『聖女』とは言え、これほどの魔力をぶつけられればひとたまりもない。向井光一と矢上菜々美が睦月が知り合いだからと咄嗟に対処できなかったのも一つの原因だろうが。

 そしてひとたまりもなかったのは、『勇者』と『聖女』という存在だけではなかった。

 真っ黒に燃え上ている炎は『勇者』と『聖女』を飲み込み、そのまま床へと着火する。膨大な魔力の塊であったそれが物質にぶつかっただけで、衝撃に城が揺れた。

 誇張などではない。文字通り、地震が起きたかのように城が揺れた。

 ピキッという音と共に柱に亀裂が入る。

 そのまま、徐々にその場が崩れてく。まずは床が崩れた。そのまま、俺や睦月――そしてその場にいる人間が落ちて行く。


 『浮遊』


 ただし俺の発動した魔法によって、睦月と俺だけ空中にとどまった。

 柱が崩れていく様子を見ながら、俺と睦月は窓を開けて一気に外へと飛び出した。だってあのままいたら潰される。

 崩れて行く栄光を放っていた城。そしてそのすぐ近くを浮いている俺達。

 「睦月、人が集まる前に帰るぞ」

 「ちょっと待ってねー。あと一回だけ壊させてほしいんだ」

 睦月は俺の言葉にそんな風に笑って、もう一度その手に黒い炎を出現させた。

 そしてそれを崩壊しかけている城に向けた。元々睦月の先ほどの魔法によって崩壊していっていたその城はその崩壊速度を速めていった。

 俺はその様子を見ながら満足気な笑みを見せる睦月を連れて、そのままその場を後にするのであった。




 ―――そうして異世界で俺と睦月は『勇者』と『聖女』含む連中を殺した。


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