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 「あはは」

 睦月の場違いな笑い声が、その場に響いてる。



 悲鳴が響く。

 人が、睦月の炎にのまれて次々と骨さえも残さず消えていく。



 残酷なまでに無情な光景。人の命が驚くほどに短い時間で次々と失われていく。

 無邪気にほほ笑む睦月の手によって。




 「うふふ」

 不気味にほほ笑む睦月は階段を上ってく。俺はそんな睦月と並んで足を進めながらも周りを警戒する。

 睦月が見落としたこちらへの悪意ある攻撃は、俺が対処する。殺傷力のある魔法は俺は苦手だけれども、この二年で人の殺し方ぐらい熟知した。

 人への対処の仕方も、殺し方も、全て学ばなきゃ俺達は決して生きていけなかった。

 あの『皇帝』は俺達を実験動物と認識していた。面白いとも思っていた。それでも俺達が生きようが死のうが『皇帝』にとってどうでもよかった。

 だから危険な事もやらされてきた。

 まだ力の使い方がわからなかった頃、何度も、俺と睦月は死にかけた。

 俺は面白い事を見ずに死んでたまるかって必死で、睦月は向井光一に会うまで死ねないって必死だった。

 生きるために強くなった。

 生きて行くためには無理やりでも強さを学ばなければならなかった。

 なんせ『皇帝』は使えない人間はすぐに切り捨てるような奴だった。

 俺達は実験の成功体だったが、それでも使えなければ処分された事だろう。あいつは強かな人間なのだ。それはこの二年の付き合いでよくわかっている。

 「あはっ」

 俺が考えながら歩く中でも、睦月は笑い声をあげて人を消していく。

 俺も考え事をしながらも、邪魔な連中を殺していく。

 そうして、上へ上へと上がっていく中で、懐かしい声が響いた。



 「お前達、何者だ!」



 俺達の行動を咎めるように響いた声。城の上の方から降りてきたであろうそいつを見て、俺は笑った。

 隣の睦月はその声の主を認識して、今まで見た事もないような笑みを浮かべていた。

 「こーいちぃ」

 甘えるような声だった。

 その残酷な行動を起こす様からは想像出来ないような、何処までも優しく、愛しい人を呼ぶ声。

 睦月は笑って、そちらに視線を向けて、次の瞬間その笑みを消えうせさせた。

 そこにいたのが、向井光一だけではなかったからだ。

 その隣には、睦月が殺したくてやまないと願っている少女―――矢上菜々美が当たり前のように居た。

 その事実を認めた睦月は、叫んだ。



 「何であんたがそこにいるのよぉおおおおおおおおお!」



 獣のような叫び声。

 心の底から響く、叫び声。

 その声と同時に、真っ黒な炎が沢山睦月の周りに出現する。

 睦月の感情を糧に、それは無意識に形成される。



 「何で何でナンでナンデ! ふふふふふふふふふ。あはははははははははははははははははははははははっ」



 そんな笑い声に向井光一も、矢上菜々美も、そして他の人々も唖然としている。甘っちょろいなぁと俺は呆れる。睦月と俺はこの城にやってきた襲撃者だ。

 相手が異常だとか考えずに襲いかかって殺そうとすればいいのに。

 まぁ、そんな事してきたら睦月の魔法とか俺の餌食になるだけだけど。

 「こーいちぃ」

 睦月が一通り笑った後、また向井光一の名を呼んだ。

 それに向井光一ははっとした顔をしてこちらを見てる。二年ぶりだからか、向井光一はおそらく俺と睦月に気づいていない。

 まぁ、睦月の狂った姿を向井光一は見た事がなかっただろうし、俺に関して言えば猫かぶった姿しか向井光一は見た事がなかったはずだから気づかないのも当たり前と言えば当たり前だ。

 「……誰だ」

 警戒したような向井光一の言葉。

 ただそれだけの問いかけが、睦月を壊す事をきっと奴は想像もしていないだろう。想像してみればなんて愉快な事だろうと笑みがこぼれて仕方がない。

 「ふぅん、わかんないんだ。俺はともかくこいつにも心当たりないわけ?」

 こちらを睨みつけるように見ている向井光一。俺が言葉を発せば、それが俺に真っすぐ向けられる。

 俺達を敵と認識している向井光一は、睦月の体が先ほどの言葉に震えている事に気づく事さえもしない。

 ああ、本当馬鹿だなぁと呆れると同時に、俺は楽しくて面白くてたまらなかった(・・・・・・・・・・・・・・・)。これからこいつが言うであろう言葉を思うと益々その気持ちが湧いてきた。



 「そんな女、俺は知らない。知っているわけないだろう。殺人を笑ってやるような女なんて」



 俺の想像した通りの言葉を向井光一は言い放った。

 それに俺は歓喜した。

 これで睦月がもっと壊れるって。もっと狂った姿を見せてくれるって。

 その考えはあたっていた。

 視線を向けた先で、睦月は笑っていた。

 歪にその目を、口を緩めていた。



 「ふ

    ふ


   あ

      はは

          は」



 その小さな笑い声の中で、微かに泣き出しそうな感情があったように思えた。

 「冗談はよしてよねぇ、こーいちぃ。何で光一が、私を知らないなんていうのー?」

 そう口にした睦月はきっともうすでに壊れかけていた。ただ自身が壊れないように、そう口にして笑う。

 「何をいっている。俺の名前を呼ぶな。お前なんて知らない」

 再度たたみかけるように、隣に立つ矢上菜々美を庇うようにして向井光一が言った。

 「………」

 睦月はそれに無表情になる。

 一切の感情を映しださないほどの無表情。まるで感情を知らない人形か何かのようなその表情。見る者がぞくりとするような、不気味で、無感動な表情だった。

 突然、無表情になって無言になった睦月を向井光一が不気味なものを見るような目で見ていた。後ろで庇われている矢上菜々美も怯えたような表情を睦月に向けていた。

 その目が、その表情が、その態度が。

 どれだけ睦月を壊して、狂わせるのか向井光一はちっとも理解なんてしていなかった。

 「……私がわからないの。光一」

 「知らない、お前なんて」

 「ずっと、一緒に居たのに。ずっと一緒に居るっていったのに。光一は私のヒーローで。ずっとずっと、私を守ってくれて。何でナンで。何で、光一が私を知らないなんて。光一には私が居なきゃ駄目で、私にも光一が。どうして。何で。ナンデナンデ何で何でナンデナンで」

 そんな風に口にする睦月は相変わらず恐ろしくなるほどの無表情だった。



 ああ、壊れてく。

 睦月がもっと、狂ってく。



 向井光一は理解しないままに、幼馴染であった少女の心を粉々に壊すのだ。

 「何を言っている…! 俺はお前なんか知らない。気持ち悪い」

 その狂ったような睦月の言葉が恐ろしかったのだろう。

 向井光一は思わずといったように言った。

 あった事もなかった女に自分を語られる事がさぞ気持ち悪かったのだろう。それも妄信的に自身を思っているような声だったからなおさらそうだったのだろう。

 「どうして。どうして光一が、こーいちが、私の、私のヒーローが。私の。私の光一が」

 泣き出しそうな声。

 「私を気持ち悪いって。光一だけなのに。私をずっと。光一は私と。ずっと一緒って。結婚しようって。約束してくれたのに」

 約束したのにと嘆く声。

 「守ってくれるって。一緒に居てくれるって。あの日、笑ったのに。受け入れてくれた。光一。何で。どうして。私の傍で。何で」

 虚ろな目をした睦月は、ただそう口にする。

 そして、



 「どうしてなのぉおおおおお」



 叫んだ。



 それが合図だ。

 睦月の周りに出現していた真っ黒な炎が、行動を開始した。





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