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 「死ね!」

 目の前にそれが現れたのは突然だった。

 案内してくれた少年から忠告をもらってすぐの次の日、俺たちはそれに遭遇した。

 昨夜、睦月はずっと狂気に染まった瞳を浮かべて、狂行を繰り返していた。

 獣のように狂ったような声を時折上げて、例の新聞に関して言えば文字さえも認識できないほどの原型を止めないほどに粉々に破いていた。

 そんな睦月の様子に俺は慣れているから問題なかった。

 寧ろ、その様子を見るのが楽しくて、面白かった。睦月はやっぱり、俺にとって興味深い対象だと思ってならなかった。

 俺はそうだ。でも他の普通の人は違う。

 チェックアウトする際に宿にいた人々から向けられた目は冷たいものだった。まるで不審者を見るような、警戒するような視線は、睦月の狂行を受け入れられないがためだった。

 宿の壁は薄かった。完璧に睦月の声が聞こえたわけではないだろうが、壁越しでも睦月の狂行が聞こえていたのだろう。

 周りから奇異の目で見られていても、面白いと言えば面白い。だから俺は構わないと思っていた。もっとこの街に滞在していてもいいとさえも感じていた。

 だけど睦月がすぐに出るといったから早朝からさっさと街を後にしていた。



 

 で、その後の道中に奴は居たわけである。

 突如として俺と睦月の前に現れたのは一人の男だった。

 頭の毛が薄く、今にも禿になりそうな六十代ほどの小太りの男。

 その目は歪だった。

 何処か虚ろで、あまり頭も働いていないように見えた。

 そしてそれは街でみた指名手配書にのっていた顔と同じだった。

 それに加えてその体からは、不気味な黒い魔力が抑制される事なく溢れだしていた。

 魔法を扱う事が出来る者は、自身の魔力を調整する事が出来る。常に魔力を放出している状況は効率的ではないし、周りに被害を及ぼす恐れがある。

 幼い子供の中には魔法の才能が開花し、暴走と呼ばれる魔力放出状態が続く事も多くある。最も大人にも暴走してしまう人も居るわけだが。

 とりわけ、闇属性というある意味異端な魔法を使う者は子供だろうとも大人だろうとも、暴走状態に陥る者は多く居る。

 それに闇属性は人を狂わせる属性と呼ばれていて、その魔力酔い、狂って理性を保ってない者も多い。

 「しねえええええ」

 目の前の男は、闇属性に目覚めて狂い、理性を失った慣れはてなのだ。

 魔力を放出した状態で普通の人間にぶつかれば、ぶつかられた人間はたまったものではない。その圧倒的な力に耐え切れず、体が壊れるのだ。

 だから男は小細工もせずに俺達――とりわけか弱い女に見える睦月を狙っていた。

 でもそれは俺からすればなんとも馬鹿らしい、おろかな選択だ。

 男は睦月を殺せる事を思ってか、笑みを浮かべている。

 だが、その笑みも睦月に近づいてその目を見た瞬間、消え失せた。


 「あはっ」


 真っすぐに男を見たまま睦月が笑った。

気がつけば睦月の小さな手に黒い炎が姿を表していた。

 「あ……」

 男の目は睦月の手にある真っ黒な、巨大な魔力の塊である炎を見ていた。

 それは魔法を使える人間ならば、どれだけの力が秘められているがわかるものだ。男は睦月の手にあるそれに本能的に恐怖を感じ取ったのだろう。

 俺自身もそれが俺に向けられていたら死を覚悟するだろう。

 「ねぇ、あんたキモイから死んでよ。私に近づかないでよねー」

 恐怖で固まっている男に睦月は笑った。

 それと同時に黒い炎が男に向けられた。

 男は逃げようとする。だけれどもそれは叶わない。

 「死んじゃえ」

 睦月が笑う。何処までも楽しげに笑う。

 笑い声が響くと共に男が炎の中にのまれていった。

 そしてそのまま簡単に命を失う。

 睦月は強い。同じ闇属性の使い手だろうと簡単に殺せるぐらいには。




 だからこそ『皇帝』でさえも睦月を制する事は出来なかったのだ。


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