【魔力吸収】
ばれてしまうかと思って、ちょっとドキドキだった。
お水をこぼし、ばあちゃんがそれを拭いている間にこっそりと測ってみた。気付かれた感じもなくすんなりとことは運んだ。
《 28MP 》
多いのやら少ないのやらはわからない。
ガキである俺よりは多いのだが、想像としては大人のわりに少ないのではないかと思う。ばあちゃんが魔法を使っているいる風情は見たことがない。
しかし、対象物に接していると【魔力探査】・【計量測定】コンボは使える。
問題は罪悪感。他人の何かを勝手に測っていいのか?
例えば、女性のバストサイズを【計量測定】で測っていいかということと、本質的には同じなのだ。こちらの世界ではどうなっているのか?
魔法が使える世界では、【魔力探査】はきっとメジャーな技だと思う。敵が、魔物だろうと人であろうと探りを入れるのは当然だからだ。
ばあちゃんは気付いていないが、MPを測られたことに気付く人も当然いるはずだ。うかつに使いまくるわけにいかない。それと、敵にMP量をばれない、あるいは偽装できる技を身に着けないといけない。
ちょといけないことをした気分だったのに、ばあちゃんは村で仕留めたビッグ・ラビットの配給であった革を使って俺の靴を作ってくれている。
ゴメンね。おばあちゃん・・・
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あれから2週間。
今日は収穫なので特別なのか、集落の外である畑の横の木影にまで連れてきてもらえた。二歳児とは思えぬ落ち着きが両親を安心させるのであろう。
ぬふぁふぁふぁ・・・
ぐずったり、ちょこまか歩いて親を困らせ、お外に連れて行ってもらえないといけないので、とってもいい子にしているからだ。
と言いたいが、普通の二歳児みたいにチャカチャカすることが中身おっさんにはできなくて、近所でも有名な「手のかからない子」になっている。
両親は親バカで、「うちの子 天才!」と思っているが、近所では「元気の無い子」と思われているだけだ。「いい子」で目立ちすぎているわけではない。
MAX MP量は9に成長。 残念ながら1日の回復量は相変わらずMP4のみ。
今はまだ必要がないが、【魔力探査】・【計量測定】・【可視化画面】を3つ重ねれば、MP探査情報も半透明のモニターで確認できることもわかった。
今日も正午には魔法トレーニングだ。
それまでは両親の仕事ぶりを見る。
親からすれば仕事を幼いうちから見せて、大きくなったら自然と仕事を手伝い、いずれは家業を継がせる。当たり前の発想だ。しかし、本当に申し訳ないが農夫になる気は全く無い。
この村を出て、金を稼ぐ。
親には孝行するつもりだ。きっと元の世界には戻れない。
元の世界の両親は今頃どうしているだろうか?俺が死んだのは2年半前である。両親とも70歳を超えても元気だったので死んでは居ないと思うが・・・
娘達も・・・
そんなことを考えながら、漠然と畑を眺めていたら、
親父がまた見せてくれた。
遠くなので、まったく何を言っているのか、詠唱しているのかも聞こえないが、呪文を唱えた後に手を青白く発光させながら畑を鋤起こしている。
作業自体は、最近の家族の会話から理解している。「麦わらの鋤き込み」だ。刈り取った麦わらの一部をまた土に混ぜ込む作業だ。11月には寒くなるので収穫後すぐに麦わらを鋤き込まないと、腐らせて肥料化するのに間に合わないらしい。
てっきり、鋤を持った人の力でやるものと思っていた。
親父が左右の手を胸の前でグルグル回すと、足元の土が同じくグルグルと鋤で掘り返されるように動いている。農夫には便利そうな魔法だ。
かあちゃんも隣の畑で麦を刈っている手を止めて、親父を見ている。
あれっ?今日は俺が見ている前なのに怒らないの?
判断の基準が一定でないのは教育上良くないぞ。子どもは正邪の基本が出来ていないので、基準はわかりやすいまでに統一するのがいいのよ。状況判断は入れない方がいいということだ。
まぁ俺は大丈夫だが、次に生まれてくる弟か妹にはちゃんとやらないとダメだぞ。子育ての先輩として今の立場を無視して、忠告してやる。心の中でだけな。
作業している畑の半分が済み、休憩のために親父がこちらに戻ってくる。
気を利かせて水筒を渡すと、水を飲みながら俺の横に座った。
程無く、かあちゃんも休憩に帰ってくる。
「やっぱり、ルイージの土魔法すごいね。
中級なだけあるよ」
「ディアーナだって回復魔法中級になったじゃん」
「あたしはついこないだでしょ。
水魔法と光魔法は初級のままで、回復魔法はスキルなだけだから。
ルイージみたいに属性魔法、スキルとも中級はすごいよ」
「女の人は妊娠・子育てが大変だから・・・」
「そうね、今は魔法使っちゃいけないし」
「そうだよ、妊娠中なんだから。
無理しちゃだめだよ。俺が頑張るから」
そう言って、親父がかあちゃんのお腹をさすっていたら、
なんと、かあちゃん チュウー要求顔じゃねーか!
あれー ルイージ チュウーしちゃうのか。
おまいら やっぱ外人さんやわ、昼前でっせ。わてよう見とられへんわ。
ルイージの手が胸にまで伸びているので、おじゃまにならないよう視線に入ること無いようにそっとその場から離れる。気の利く二歳児です。
でも、二人の会話は何気に重要な内容を含んでいたぞ。
親父の魔法は土魔法である。
火・水・土・風の属性魔法と、魔法スキルのレベルは別の扱い。
妊娠中は魔法使ってはいけない。
俺の【計量測定】、【可視化画面】、【魔力探査】は魔法スキルに相当するはず。
それと、妊娠中うんたらは、マナの流れか何かに関係するのかも。
宿題が増えたな・・・
木の根元まで来て、最近やりだしたトレーニングをする。
「てっぽう」だ。
相撲取りのアレだ。突っ張りを木の幹に打ちつつ、足をすり足で前に出す。庭の木に近づいたとき、ふと某国営放送で横綱がやっていた映像を思い出したのだ。
意外と30分もしないうちに足腰にくるし、格闘技としての相撲の瞬発力はバカに出来るはずない。体型をおすもうさんにしなければいいのだ。
「てっぽう」を打っていると頭を前後に動かすことになる。
ふと目を右下にやると、草むらの中に頭を動かすたびにキラっと光る何かがある。
近寄って草をかき分ける。取り上げてみた。
魔結晶だ。
米粒よりちょっと大きい程度のうすい青紫の結晶。
とても小さいが魔結晶とわかる。尖った形から想像するに、もとはもっと大きな結晶だったが割れて小さくなった物と思われる。
服にポケットという便利なものがあれば、そこにしまっておきたいが、こちらの世界で子どもが着せられている服にポケットなどない。頭から被る布に穴が開いて、腕の部分が細くなっただけの上着と、ズボンは腰に紐穴をつけた厚手のパジャマみたいなものである。
あまりに小さいので落とさぬよう注意して握りしめる。
正午が近いはずだが、俺の移動リベリオ天文台(地面に刺しやすいただの棒)付近で昼からいちゃついてるバカップルを牽制しよう。20分以上経ってる。休憩で余計に疲れちゃいけないことを教えてやらねばいけない。
「おとーさん、おかあさん なにしてるのー」
二人の間に割り込んでやった。
おいおい! かあちゃん ルイージのズボンにまで手入れて・・・
おおらか過ぎるやろー こっちの世界!
二人を現実に引き戻し、労働に向かわせた。
「俺様のために働いて来い!」心の中で言ってやった。
気を取り直し、傾いた天文台を調整する。(棒をまっすぐに)
そろそろ正午だ。定点観測として、【魔力探査】・【計量測定】。
《 4.7##・MP 》 《 5.1##・MP 》
自分の体内MPと、左手の中の魔結晶 両方が測れた。
頭の中で、2つの数字の区別がちゃんとついている。体内MPが4.7で、魔結晶の方が5.1である。
左手の魔結晶は意識していなかったので、測れたことに驚いた。対象が複数でも大丈夫なようで、むしろ範囲の問題と気付く。今は手の届く範囲なら測れる気がする。
正午の計測で体内MP4.7なので、1日の回復量はほぼMP4のまま。
そのことは今ちょっとどうでもいい。
問題は左手の魔結晶なのだが、もうイメージするだけで出来ることがわかる。マナの流れを掴んでからは、魔力がらみのことは感覚でやれること、やれないことがわかるのだ。
ちょうど、現代の日本人でも自転車や一輪車をみて、乗れる乗れないが感覚でわかってしまうみたいだと言えばいいだろうか。
【魔力吸収】
やはりできた!
魔結晶から体にMPが入ってきたのがわかる。
【魔力探査】・【計量測定】コンボでMPを測る。
体内MPが6.8に、【魔力吸収】のMP消費は1だ。その後コンボで2使ったので、4.7-1.0+5.1-2.0=6.8 というところかな?
左手の魔結晶のMP0.0##。色も無くなり、ガラスより脆そうな半透明の石になっている。力を込めると壊れそうだ。
4つ目の魔法を習得した。