初めての魔結晶 2
「すっげー きれいだな」
「私にも見せてよー」
「これが魔結晶か・・・」
わいわい言いながら子ども達8人が石を見ている。
そのお兄ちゃんお姉ちゃんにまぎれて近づいて、
「みちぇてー」
と、あざとらしくかわいく言ってみる。
「ほーら、これよ」
と、気の強そうな女の子が、小さい俺のために目の前にまで持ってきてくれる。
青い宝石のようなものだが、よく見ると石の中に、流動体のように渦巻いたものがゆっくりと変化している。直感でわかった。《マナ》だ・・・
「あでぃがとう」
頭を下げて、その場から離れた。
魔結晶の存在は「ラノベ」知識で知っている。
完全に水晶みたいなものと思っていた。しかし、透明な固体の中にエネルギー体みたいなものが目で見える形で存在している。
あの様に見えてしまうということは、光子?
光子でレーザーみたいなものなら直進するはずだ。渦巻いていたし・・・ダメだ。誰か物理のすごい学者が俺に説明してくれようとしても、俺の能力で理解できるわけもない。
光子とか量子とか果てはヒッグス粒子じゃーって物理のお話は、呪文で俺の思考を停止させる魔法と理解しているので、わからんものはわからん。
「うまいもんはうまい!」という真実だ。(なんのこっちゃ)
科学の子 という二つ名も今日で捨てる。(誰も認めてないぞ)
「マナ」をこの目で見たのだから、肯定するところから始めよう。
それに何かが俺に訴えている。
「あれ」ができる筈だ。後で試さなければ・・・
まわりに、村長をはじめ、男達も広場にぽつぽつ帰って来ている。
すっかりいい所を爺さん達に持っていかれたあとだが、
「じいさんありがとな」
「なんの、ブルーノ 大したことじゃねーよ
魔結晶はとったが、後の処理
面倒なんで、そっちでやってくれんかの」
「おう当たり前だ。
おい!ポンツィオ
これも小川に持っていってくれ」
村長が腹心のポンツィオさんに、爺さん達の狩ったビッグ・ラビットを放り投げる。スゴイ筋力を持っていることが仕草でわかる。
「ところで、爺さんら 分け前をどうするね。
魔結晶と肉でいいか?」
「なーに言ってんだよ。
俺らも年はこいても村人じゃねーか
みんなのもんはみんなのものだぜ
なっ・・・」
中心格の受け答えしていた爺さんが回りを見渡し、軽く確認をとって、持っていた魔結晶をぽーんとブルーノさんに向かって投げる。
手を横に払うような仕草で村長が受け取ると、
「あとで、ワイン出すぜ!」(キリッ)
だってよーーー みんなマジでやっているが、どこの少年マンガだこの芝居。
まわりもやりとりを好ましく見ている。
俺だけがスレていて、純情な田舎じみた厨二芝居に引いていた。
こっちの人はいい人なのね。
せっかくの常識GETのチャンスなので、集落の外れの小川で行われる魔獣の解体を見に行った。もちろん集落の外なので、ばあちゃんには悪いが孫のわがまま攻撃で付いてきてもらう。
合計6匹のビッグ・ラビットの血抜き、魔結晶取り、毛皮剥ぎ、解体。重労働で時間もかかる。狩人のエラズモさんは流石 手際良い。それでも小一時間かかった。
じっくり観察し、いずれ自分でもできるようしっかりイメージトレーニング。ナイフの向き、肉と骨の付き方、解体の順番、肉を木に吊るす、とても参考になる。
臭いはやはり血生臭いが、思っていたほど気分を害するものでない。一度軽く吐きそうになったが、ぐっと気持ちを呑み込むと大丈夫だった。そんなことはこちらの世界では言ってられない。
日も暮れかけてきたので、家に帰る。
作業のおわった親父と ばあちゃんと道すがら、
「ばあちゃん まじゅう どうして
まけっしょう もってりゅの?」
「よく分からないけど、マナを体に貯めこむのよ。
生きている間すこしずつ大きくなるのよ」
「ひとにも まけっしょうあるの?」
「人には無いわよ。
あったら魔人になっちゃうじゃない。
リベリオは面白いこと思うのね」
「なかで ぐりゅぐりゅ してて
ちれーかったね」
「おい、リベリオ。
中でぐるぐるしているのがわかったのか?」
突然、親父が会話に口を挟んできた。
やばい!当たり前と思ったが、二歳児レベルではないのか・・・
ごまかさねば・・・
「なんかちょっとね・・・」
「そうか、おうちに帰ったら魔結晶見せてやるぞ」
「やったー」
やはり何かやばい、上手く乗り切らないといけない。
家に着き、だっこされてそのままテーブルの方に座らされた。
部屋の奥の剣や大事なものを入れてある大きな箱から、親父が一つの革袋を持ってきて、横に座った。おもむろに中身を取り出す。
中から1枚の金貨と、昼に見たやつより二周りほど大きいビー玉サイズの魔結晶が1つでてきた。
あえて、ボケて見せて金貨を手に取り、
「ちれーねー」
「ああ、勿論そっちも綺麗だけど、
こっちを良く見てごらん」
と、言って親父が金貨を取り上げ、代わりに魔結晶をかざしてくる。
何かを期待している感じだ。
うすい青紫の結晶の中には、小さな光の粒子がキラキラと無数に渦を巻き、固体なのに中は流動体のような感じである。素直に言っていいのか判断に迷う。
「あおくて、ちょっと あかい」
見た目の色だけを言って反応を見る。
親父が魔結晶を指でつまみ上げ、【魔力吸収】とつぶやいた。
手が青白く光り、魔結晶から光の粒子が指先に吸い込まれていく。
かあちゃんが声を荒げて怒る。
「ちょっと、ルイージ何しているの!」
「いや、大丈夫、ほんのちょっとしか吸っていないし・・・」
「ちがうわよ!子どもの前で魔法見せるなんて
何考えてるの」
「いや、リベリオが
マナの流れが・・・・」
ごまかしのチャンスと見て
「おとーたん なに いまの ぴか」
「ほら、もうー」
と、かあちゃんが魔結晶を親父からふんだくるように取り上げ、革袋に仕舞い込む。そのまま箱の方に持っていってしまう。
俺は俺で、金貨をもてあそび、わざとばあちゃんに叱られるように仕向けた。
「ダメよ、子どもがお金で遊んじゃ」
ばあちゃんも金貨を俺から取り上げて、かあちゃんの方に持っていく。
よし!乗り切った。
親父ゴメン。今日はとてもいいモノを見せてくれたね。
《マナ》の流れと、【魔力吸収】ここ一年でサイコーなプレゼントだ。
かあちゃんだけじゃなく、ばあちゃんにも責められる格好になって、肩をすぼめているけど、俺は本当に感謝してるぜ。ありがとう。
転生者であることや、才能があることは絶対に悟られてはいけない。前から直感で感じ取っていたことだが、俺以外にも転生者がいるかもしれない。あるいは権力者が目をつけるかもしれない。
バレるとよからぬ不幸に巻き込まれる可能性が高い。
「ラノベ」のように主人公がいきなりチートにTueee-に成っていたら、まだ何とかなるかもしれないが、今の俺は自慢じゃないが弱い。
例え、強くなっても幼少期から天才を誇っている「ラノベ」の展開を見ると、頭を疑ってしまう。読んできた「ラノベ」は今とても役に立っているので、ディスる気持ちはさらさら無い。寧ろ「聖典」と言ってもいいくらいだ。
しかし、他の転生者が居たり、支配している権力者居る。彼らの独裁的な欲望が強いとすると、結論は「殺される」か「従属させられる」しかないはずだ。
俺は強いATフィールドの中に閉じこもるのだ。
「ばれちゃダメだ。ばれちゃダメだ。ばれちゃダメだ」