MP切れのひきずり
眠いふりをしたら、すんなり家に帰してもらえた。
もちろん、だっこされて連れて行かれるのは木の檻。
「オヤスミナサイ」というと、
かあちゃんは安心して頭をなでて祭りに戻っていった。
やっぱり、ぽっちが好きで ヒッキー な俺は、はれやかなところが居心地悪く感じる。
若い ぽっち好き な男子たちに本気で聞きたいことがある。
「リア充」と言う言葉だ。ふつう「リアル(現実生活)が充実している」の略と思うのが、本当にそうなのか?
死ぬ前の俺は仕事もし、会社の中でもそれなりのポジション。
コミュニケーション力はある方だ。思い込みもあるかもしれないが、仕事そのものが客へのサービスなので、部下や若い女子社員がどう思っているか別として、コミュ力無しで仕事はできない。
恋愛といわれるものも、学生時代・結婚・離婚後もした。
時代も大学に入るまで「バブル」とよばれ、大学出るころも景気が悪くなったといわれても「バブル」を引きずっていて、華やかで晴れやかなことが(セレブちっくみたいなもの)が世の中で正しいとされていた。
例えで言えば、「恋愛」
「恋愛」は正しいかのような価値観。
たしかに楽しい一面もあるが、気持ちは3年もすると煩わしさの方がはるかにデカイ。「女子力」とか、「モテテク」なんて、話をあわせたり表面的に肯定するが、心の中は屍肉を漁る醜いゴブリンが目の前にいるかのような気持ちになる。
女子にとって、肉食というより、男の力(金・地位・容姿)を捕食して自分の女子世界の地位を安定させるための スキル。
【恋愛Lv8】なんて、戦う前に 逃げ の一択だ。
リアル ってそんなもんに過ぎないと思うのよ。
だから、「リア充」というのは、「リアルが充実している」の略なのか、「(クソのような)リアルでも充足できる(ほどタフ)」の略なのか本気で教えてくれ!
俺、なんか荒んでる?
昨日のMP切れの精神的ダメージを、ひきずっていることにしてくれないか。気分を害した奴には本気で謝らないといけないことはわかっている。
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祭りのおかげで家には誰もいない。
寝ていると思われているはずなので、様子を見に来られる前に 実験1 を終えねばなるまい。
実験1とは、
魔法の青白い光がどうなっているかを知る だ。
実は木の檻から脱走可能なのは、大人たちには内緒だができる。
体重を柵の上の方に掛かるようにジャンプする。すると、箱状のベッドが倒れて、天井部分が横に向く。
ベッドが簡易な手作りの欠陥品であることと、倒れたときの衝撃が痛いのを、我慢することのできる特殊な1歳児であるからできる技だ。
ベッドから出て、姿見の大きな鏡の前に立つ。
今日は鏡の横にあるでっかい水入れの壷を試す。
中の水も含めて重さがいくらあるかを意識して、手をかざし、
「【計量測定】」とつぶやく。
《 211kg 》
頭に直接答えのイメージが浮ぶ。
数字のイメージが頭に浮ぶとき、あの青白い光は頭の中?いや 浮んだ数字が光る。
しかし、いま確認したが、親父のように手が光ったりはしない。
手ではなく、頭がホタルのように光るのもマズイと思っていたが、視覚的には頭も目からも光は漏れていなかった。
《 211kg 》の答えが正しいかどうか検証のしようが今はないが、第一段階として、実験1は終了だ。
1回の魔法だけだとMPは問題ない。
横倒れになったベッドの所にまで戻り、ベッドを元に戻す。
このままでは中には入れないが、そこは考えてある。
つぎは両親のベッドによじ登るのだ。
そして、すぐ横にあるベビーベッドにジャンプ。ジャンプといっても筋力の関係上10cmほどしか飛べないが、すぐ横にあるので大丈夫。
あとはもとの檻に落下するだけ。高さは50cm。
ジャンプと言ったものの、着地はまだこのボディーの足では無理なので、わざとこける体勢にして受身をとって衝撃を吸収する。
昔取った杵柄だ。柔道初段だぜ。やっていた人は知っているだろうが初段になるだけなら、クラブ活動すれば誰でもなれる。素人よりはマシという程度だ。
軽く自慢したが・・・実は痛かった。
ベッドに戻り、気も取り直して、実験2 だ。
実験2とは、
昨日測った小麦は重さだったが、今日は 量 を調べる。
MP切れを起こし精神的ダメージを受けるので、2発目の前に強く次のこと意識する。
3発目をチャレンジする事。
まわりを見渡して、オロフにもらった短剣にする。
先ほどのベッド横倒しで、枕の位置と毛布それと何より大事な短剣を枕の横に置く。
そのまえに剣の柄に結わえてある革の紐をほどこうとしたが、止めた。意外とカタイ・・・
深呼吸して気を落ち着かせた。
小麦粉の袋の山に向かい、今度は手をかざさずにつぶやく。
「【計量測定】」
《 8244L 》
成功だ、量も測れる。
頭の中の単位はリットルだ。こちらの言葉でじゃ モティエ なのでちがう。
ここまでは順調だ。
予想通り、精神的に厳しい。激しい倦怠感に襲われる。
しかし、散漫となりがちな意識をふるって、剣に向かい、
「【計量測定】」
《 329g 》・・・
意識が飛んだようだ。
窓から祭りの明かりが差し込んでいる。
いつもは月の明かりしかないのに。
気分も優れないし、大人たちはまだ帰ってきてない。
眠るのがいいと思う。喉が渇いたが・・・