表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どどど、童貞ちゃうわ!  作者: 100均のルーズリーフ……
4/13

さん




「なに? それなによ!?」

「落ち着きなさい」


いやいやいや。さっきから俺がなんかやたらテンパってるやつみたいにあんた言うけど違うからな? どう考えても爆弾発言しまくってるそっちに非があるから!


まくし立てる俺におっさんはやれやれ首を竦めた。


「寿さつき」

「はあ? なによいきなり」

「寿さつきだ。いるだろう? お前さんの学校に」


水晶を手にかざし、いかにもなポーズをとっているおっさんはもう俺を見ていない。なので俺もちょっと頭の中でその名前に検索エンジンをかけてみる。


寿? えっと、え、女子?


うーん。いたかなそんな子。


あ、いた。


「一人だけ心当たりのある奴がいるけど……そいつが何?」


「可能性だよ」


「はーん?」


「だから可能性だ。お前さんが結ばれることが可能な地球上で唯一の女性。それが寿さつきだ」


「地球上て、規模がでけえなおい」


「事実だ」


断言っすか。

いっそ清々しいね。


だが、おっさんのその言葉を聞き終えたとき。俺はどんな表情をしていただろう。少なくとも笑顔ではなかったはずだ。それを証拠におっさんが怪訝そうに「どうした」なんて聞いてきやがる。


寿さつき。


聞いたことはあるとも。


何せエンジェル様(笑)だからな。学年の人間にはある程度の詳しくなるもんさ。それに彼女は有名だからな。


進学校と名前の通っているうちの学校では、不良らしい不良ってのはあまりいない。割と家庭が裕福な層から来てるのが多いってのもある。


寿さつきはだから少し浮いた存在だった。


指定のセーターは着てこないし、学校はよくサボる。その癖テストの成績はいい。ここまでなら多分問題児くらいで留まるだろう。生活指導の先生に一任して生徒同士の噂のタネにもなりゃしない。


寿には売春の噂があった。


この情報はどこから入ったのか確かではないが、俺のあだ名同様、いつの間にか広まっていた。


指定の制服を着てこないのは教師への反発からではなく単に制服を買う金がないから、だとか。休日におっさんと車に乗り込むところを見た、などという目撃情報も何件か聞いた。


寿はさらに容姿がずば抜けてよかった。俺の見たてでは学年で一番だ。あくまで容姿だけを並べてみるとだ。あ、すっぴん限定な。


だから入学当初何人かの勇者が告白したらしい。マジでそんな昭和みてえなことするんだなって感心したからよく覚えている。


寿はその全てを受け入れた。だがいつも男の方から離れて行くらしい。


前に寿と付き合ったことがあるという内藤に話を聞いてみると、「なんかダメだわあの子」らしい。どうダメかは決して口を割ろうとはしなかった。


次第に寿は絶対に男子の告白を断らない女というレッテルが貼られ、男子からはビッチ(笑)、女子からはクソビッチ(爆笑)と陰で言われるようになっていた。俺は言ってねえよ? だって俺もチャラ男だもの。モテないけど。


寿がここまで嫌われるようになったのは多分性格なんだろうな。


容姿が人並み外れているってのは利点でもあるが逆の場合もある。むしろ悪い方に気をつけないと同性の反感を買いやすい。


女子って怖いよな。顔のいい女子の言動一つで「◯◯ちゃん可愛い〜」とかいう癖に、その子がちょっとやらかしちゃったり、自分の好きな男子が告白してきて、さらに振っちゃったりしたら「最近◯◯うざくない?」とか言い出すんだぜ? ガクブルガクブル。そんな話も直接相談されたことのある俺です。


寿は明らかに後者だった。


男子からは告白されまくるから女子からの風当たりが超きつい。


しかもさっき行った通り性格が、ね。


かなり我が強いらしく、自分の意見を結構はっきり言っちゃうタイプらしい。


さらに曰く付きの話まで付いてくる。


俺も直接話したことはないからわからない。だから噂を鵜呑みにするのがどれほど危険かわかってる。


でも入ってくるのが大分酷いんだよね。

動物虐待者だとか、他人の家に放火したとか、ヤクザと繋がってるとかさ。


数え上げたらきりがない。でも全部が全部デマかっていうと、結構物的証拠とかあるんだよね。


例えば動物虐待。これは寿と小学校が同じ奴が言ってたんだけど、その当時クラスでウサギを飼ってたんだって。交代でウサギの面倒を見るなんてよくやるよね。寿の晩の時にウサギが全羽死んでたんだってさ。担任に問い詰められた寿は淡白に「私が殺しました」って言ったらしいよ。


次に放火。その噂を広めたやつが一緒に地方新聞まで持ってきたよ。そこには名前こそなかったけど確かに寿と思しき人物のことが書かれていた。そしてこの件に関しても寿は一切の否定をしなかった。


売春の疑いはさっきの通りだ。ヤクザのは知らん。尾ひれとかついたんじゃないかな、と俺は勝手に推測している。


客観的に見て寿は良い生徒とは言えなかった。

そして俺もまた寿のことが好きじゃない。


別に噂を信じているわけじゃない。

ただ単に、顔が好きじゃないのだ。

綺麗な顔が好きじゃないのだ。


俺を振ってきた女の子たちは皆綺麗だった。俺がアタックかけるほどだからね。


反動で今度は綺麗な子は怖いと思ってしまうようになったのだ。


綺麗な子には振られるというある種のトラウマのようなものが芽生えていたのだ。


勿論友達なら綺麗な子OKだ。むしろどんどん来いって感じ。ただもう恋愛対象では見れない。そういう意味で寿は俺の天敵みたいなものだった。


悪い噂しか聞かないし、俺もあえて自分の評判落とすような真似したくないから寿と話したことなんでなかったし、クラスも同じになったことはない。


一緒になれるかもしれない女性が寿さつきだと聞いて、俺は全然ハッピーな気持ちになれなかった。


「お前さんがどういう気持ちかはわからんがね、この一ヶ月で彼女を落とせ。さもないと一生童貞だ」


おっさんの言葉で俺は一気に現実に引き戻された。


「待てよおっさん! ソープとかいったら一生ってこたぁねえだろ!」


さっきから一生を強調しすぎなのだこのおっさんは。


「いや無理だ。確実に何かの力が発動してお前は未経験に終わる。これは確定事項だ」


「なんだよそれ!」


いやほんとなんだよそれ。なに? あそこって金出せばいいだけじゃねえの? ゲスい? ごめんね、思春期だから許してよ!


ていうかじゃあ俺一生童貞じゃん。Amazonでオナホ大量購入してやろうか!


「だから言っただろう。寿さつきを落とせ。彼女だけが世界の干渉を受けないただ一人の人物だ。お前さんは彼女が居なければどうしようもない未経験野郎となる」


言いたい放題言ってくれやがって!


なんだよ世界の干渉って! セカイ系は勘弁してくれよ、うつったらどうしてくれんだよ。


「なんにせよお前さんは動かなくてはいけない。ふむ。お前さんこれまでに八人に振られてるな。しかも告白する前が七人。悲しくはならんのかね? 鳶に油揚げを攫われる気分を何度も何度も繰り返されて」


「人の傷口抉ってんじゃねえよ! 泣くぞ!」

「悲しくはないのかね?」



人の話聞けよこいつ。


悲しくないかだと? 悲しいわぼけ!


そもそも全ての事が上手くいってりゃ俺は中学で彼女は出来たし、キューピッドさんなんて不名誉なあだ名を付けられることはなかった。ついでに太田君とライトホモな関係になることもなかった!


最後のは結構きついな。


「じゃあ決まりじゃないか」


いい笑顔だな、おっさん。正直ちょっといらっとくるレベルで。


「お前さん。これを持て」

「なに?」



おっさんは手のひらからうにゅうっとぷよぷよみたいなのを出した。


うん。もう驚かない。なんでもありだしなこのおっさん。これはー、えっと、お邪魔ぷよかな? うぇ、なんかねばっとしとる。


「目覚めよ、コンドラチェフよ」


おっさんの言葉に呼応するように俺の手のひらのお邪魔ぷよは琥珀色に輝いた。おい、爆発系は無しな! マジですんなよ!


俺の予想に反して爆発はなかった。


その代わりもっと不気味な現象が起こった。

【はろー、ますたー。はろー、ますたー、べーしょん】


なんか初っ端から卑猥な言葉をほざく生命体になった。


お邪魔ぷよだと思っていた物質がマジで喋るお邪魔ぷよだった。


目は体の面積の大半を占め、口はないのに言葉を発する。体はローションでも塗ってんの? って感じでぬるぬるしてるし、フローラルな香りを出してるから意味が分からない。


「おっさん。この言動がちょっとあれな生き物なに?」


「観察員だ。一ヶ月間お前さんはコンドラチェフの監視下において寿さつきを落としてもらう」


「観察員? これが? つか観察員ってなに、あ、いやだいたい意味は分かるけど」


「念のために言っておくと、こいつはお前さんが寿さつきの攻略から逃げ出さないために監視するものだ。逃げ出したら攻撃するぞ」


「うん。なんとなくそう思ってた」


つーか逃げ出すってなんだよ。監視つけるほどやばい女なの? 寿さつきぱねえっすわ。


俺はぷよ、もとい観察員をびろーん引っ張ったマジでスライムだなこれ。


【おちん◯んびろ〜ん】


「こいつ黙らせること出来る?」


機嫌が良くない時とかボコボコにする自身あるぞ俺。


「残念だがコングラチェフを黙らせることは出来ない。それにこいつのそれはすぐになれる」


慣れたくねえなぁ。


「俺が寿さつきを、その、なんだ? 落とす? ってのはもう確定事項なわけ?」

「お前さん一生童貞を貫きたいのか? 変わった趣向だな」


「ちげえよ! 苦手なんだよ寿がさ」


「ふむ」


【ひとのしらないそくめんもあるー】


「ん? なんだそりゃ」


【ことぶきさつきはみんながおもってるこじゃなーい。それをしらずにきめつけいくなーい】


「だ、そうだがお前さんよ。決めるのはお前さんだが、私はいっちょアタックかけて見る方がいいと思うがね」


やばいな。


何がやばいかって、多分いい話っぽくまとめ上げようとしてるのに、このスライムが喋ることに何の違和感も感じていないないことに意識が集中しすぎて、話が全く耳に入ってこないところとか超やばい。


でも話は大体分かったよ。


確かにねー、さんざん寿の悪い所上げといて「俺は別にそんな噂信じてない」とか言っても信憑性皆無だよな。結局それって周りの奴らと一緒じゃん。囃し立ててるか、傍観してるか。


それが悪いだなんて思わないけど、そのあれだ、このおっさん曰く未来の連れ添い(仮)なんだとしたら、ちょっと踏み込んで見るのもありかなー。ひょっとしたらもうあんな惨めな思いしなくて済むかもだし。彼女できるかもだし。下手したら脱童貞できるかもだし。


つうかさっきから童貞って言葉何回連呼すりゃ気が済むんだよ俺。


それにデメリットは特にないんだ。いや下手したら俺の評判まで落ちることになるけど、最終的にもうホモしか道はないかなーとか思ってた俺に最後に差した光なんだ。


やってみても、いいんじゃないか?


【たんじゅんだなー】


「黙ってるんだコングラチェフ」


後ろと手元でなんかぼそぼそ聞こえるけど、聞こえてるからな?


「おっさん。俺やるよ。頑張って寿とランデブーしてみる」


「そこまでは言ってないが、ではちょっした忠告を授けよう」


おっさんは「ぽん」とした擬音とともに一冊の洋書を出現さした。


「それは?」


「ルールブックだ。これをお前さんに授けよう」


説明になってなくね?


ずしりと想い感触。結構なページ数だなこれ。タイトルは無し。えっと、中身中身っと。


「おっさん。なんも書いてねえよ? これ」

「随所更新されるから気にするな」

「これ魔物の本とかそんなん?」


【ざけるー】


お前はどっちかっていうと言われる方だな。


「言ったろうルールブックだと。私が言えるのはこの本がルールブックであること、それと、この本に書かれていることは決して破ってはいけないということ。以上の二点だ」


「仮に破ったら?」


「一生包茎だ」


「俺の人生なんなん?」


そこ普通死ぬとかじゃねえのかよ。緊迫感ねえよ。あっても困るけど。


「では私も行くとしよう。大分時間をくってしまった」


「行く? どこに?」


「次の場所だ」


パチンと指をならすと占い師セットはビデオの逆再生のようにおっさんの体の中に吸い込まれていった。


「なあおっさん。一個聞いてもいいか?」


「なんだ」


「おっさん俺にちょっと構いすぎじゃないか?」


会話の節々から感じていた疑問。


普通序盤でこんなに消極的なら、それこそ「じゃあ童貞で一生終えろよカス!」とか言いそうなものなのに。おっさんはどうしてそんなにしつこくプッシュしてきたのか。不思議だ。


「私が未来のお前さんだと言ったら、お前さんは信じるか?」


「うそぉっ!?」


「冗談だ。よく邪推されるから釘を刺しただけだ」


誰に言われたのかちょっと気になるな。まぁこんな感じで未来のこと言ってくる奴が、実は未来の自分でした、なんてことはSFの典型だわな。納得。


「理由か、理由ね」


おっさんは困ったように笑い、そんなものないのかもしれないと言った。


その笑みがどこかさみしそうで、苦しそうで、よくわからない笑みだった。


でも俺にはうっすらと気づいていたぜおっさん。


童貞って辛いもんな。おっさんも喪失したの結構遅かったんだろ? 言葉の節々にそれを感じたよ。


俺が生暖かい目を送っていると、おっさんは何を勘違いしたか薄く笑った。きもいな。


「あ、それともうひとつ」


「なんだ。そろそろ出たいのだが」


「あの蛇って結局何だったんだ?」


おっさんは何も答えなかった。

答える代わりに悲しげに目を伏せた。気がした。


そして瞬きをした一瞬におっさんの姿はどこにもいなくなっていた。


「逃げた?」


数分遅れて出た言葉はそれだった。


結局蛇のことは分からず終い。


残ったのはこの本とスライム。


「うーわー、すげー電波みてえなことになったー」


白昼夢でも見ていたのかと疑問に駆られれたが、それは手の中にある二つが否定する。


自分が一気に日常からかけ離れてしまったようで辛い。が、高揚感もあった。


大げさかもしれないけど、明日へと続く希望を見つけた気がした。


たかが、十代の恋愛っていうけど、意外と辛いもんだぜ?


相手があの寿だとしも、いや寿だからこそやりがいがあるってものだ。


なあに、振られまくってこのかた五年くらいだけど場数はほかのやつより踏んでる。やってやるよ。


まずは学校へ行こう。そして寿さつきに会うのだ。

よし、やる気出てきた!



【ま◯こま◯こー】


本当にさぁ、これさぁ。






《ルールブック更新》

1.ルールブック取得より一ヶ月以内に【寿さつき】を陥落せよ。


2.ルールブックの存在は誰にもばれてはいけない。


3.寿さつきが誰かと恋愛関係に陥った瞬間に強制終了となる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ