はじめ
勢いでやってしまった。特に後悔はしていない。読んでいただければ幸いです。
「お前さんこのままじゃ一生独り身だぞ」
おっさんの言葉に俺は戦慄した。
「どどど、どういう?」
どもりまくる俺。正直見ていられない。
ただのおっさんにこんな事を言われたら俺は逆にキレるくらいで済んでいるだろう。
問題は発言したこのおっさんがただのおっさんではないというところにあった。
頭をすっぽりと包み込んだ真っ赤な外套を羽織り、何処で買ったのか不明な真緑のローブで身を固め、極めつけの顔の奇抜なペインティングは見るもの全ての度肝を抜く。
知る人ぞ知る占いのおっさんである。
商店街の大通りを抜けた、神宮小学校の近くに面したT時路付近。俺たちはそこを親しみと好奇心、そして幾許の恐怖心から、次のように呼んでいた。
幽霊通り。
地元ではかなり有名な場所で、小学校の時は学校から立ち入り禁止にされていた。
今現在、人気は少なく、もう朝の九時にも関わらずあたりはどこか薄暗い。住宅に面しているのだからどこからかの掃除の音やら布団叩きの音やら聞こえてきてもよい筈だが、不思議と何の音もしない。
「お前さんよ」
赤だが黄だか、緑だかに変色する、いかにもな水晶玉がどんと鎮座しているその下には、中世のヨーロッパの貴族間で使われていたかのようないやに豪華そうにみえる机がある。そこに肘を乗せ、首を二三こきりと鳴らし、おっさんは続ける。
「加えて言うなら今を逃せば一生童貞だ」
「なっ!」
「お前さん自分が異常なまでに女性と縁がないとか思ってはいないか?
必死でアタックをしかけているのに全く実をつけないとか。
その割に自分の周りにカップルが沢山成立したりとか。
最近ではその噂を聞きつけたカップルが恋愛の神様と讃えてくるとか」
「でゅぅあぁっ!!」
俺は言葉にならない叫びを発してしまった。朝っぱらからご近所迷惑甚だしいく、さらに恥ずかしいことに俺の声は住宅地中エコーしていた。だが、許して欲しい。この男の言っていること、全て当たっていたのだ。
俺の心境は想像を絶した。
親切心のつもりの人助けが思わぬ爆弾であった。
身も知らない人から自分の個人情報をつらつらあげられる恐怖。冷や汗たらりなどと甘っちょろい表現では追いつかない。
が、しかし。
横に置くには余りにもデカイ話だが、ひとまずそれは置いておいて、事実だ。あぁ、事実だ。驚天動地だ。
俺が積極的にアタック掛けてるのに誰一人成功したことがないとか、なぜか友人のカップル率高いとか、下駄箱にお賽銭が入ってたりとか!
実際にあったさ、あぁあったさ!
猜疑心と好奇心を抑えきれないままゴクリと生唾を飲み込み、俺はおっさんを凝視した。
このおっさん本物だ。
俺は脇から冷たい汁が流れ落ちるのを感じた。つまりは脇汗だ。が、まったく気にならなかった。そんな場合ではなかった。
そもそもこんなおっさん助けなけりゃよかった。助けなかったらこんな不気味な経験することなかっのだ。
後悔で胸が一杯だ。
この気持ちは友達との会話のネタのためにスカトロAV見た時の気持ちと酷使していた。結局中身があまりにもアレでネタに使えなかった。
そんな俺を察してか知らずか、口の端をニヤリと歪め、当に狙い通りといったおっさんに何も感じないわけではない。
だが俺はその不気味な笑顔から逃げることはできなかった。
童貞は嫌だった。
「解決策が一つだけあるのだが」
その話が本題であるかのように、占い親父はゆっくりと切り出した。