12
「彼はどう?」
執務室でアリシアは、報告に来ているローに問いかけた。
ローはアリシアの手元にある書物を一瞥した後、静かに頷く。
「そう、期待以上でなによりだわ」
「主の約束を守ることができる」
ローの断言に、目を丸くした。彼女がここまで言い切ることは珍しい。そしてそれ以上に、ジスへの好意が何だか新鮮だった。
柔和な笑みを作り出す。どうやら、情が移りすぎているようだという自嘲を隠しながら。
しかし、ローはそんなアリシアの笑みをものともせずに、
「大丈夫?」
と声をかけた。
「……正直、困っている」
アリシアは観念して弱音を吐いた。
書面に目を落とす。探訪報知組合の印が押されたものであった。組合長のサインが書き記されている。
「援軍は期待できず、されど、敵の策に乗るしかない」
苦しそうに顔をゆがめる。
「守れそう?」
「守るさ」
ただ、多くの命が散るかもしれない。領主として、それは看過できない。だが、そうせねば守るもの守れないことも重々に判ってしまっている。
「ジスは大丈夫。絶対に」
ローの確信だけが、アリシアにとって心が落ち着く案件となった。
「だったら、こちらも任せてくれ。頑張ってみるさ」
「うん」
***
日に一度調査を行い、都市に戻ってからは大手門に併設された兵舎で、調書を作り提出する。
ジスはもう慣れた。むしろ、慣れているといっていい。
文章を書き、提出し、ダメだしをされないだけ、随分と気が楽なのだ。
組合の報知とは、何も全てが真実であるわけではなく、記者の妄想から誇張、お偉いさまの思惑等々、いろいろと世間に公表できない事情を抱えながら作られているもので、そうした虚勢とも言える対面を仕立て上げる必要ない報告書作りは、むしろジスにとって好ましかった。
添削する必要もない。要点だけを書き、相手は気になった場合は、口頭で説明するだけだ。
三日という日々が途方もなく、長いと感じたことにも感慨深くなることはない。後は有用な情報を入手する。それがまた途方もないくらいに問題が山積している。
アリシアは軍勢の編成を行っている。と同時に、市民への非常事態宣言を発令、むやみな外出を控えるようにお触れが回ったほどだ。
ジスはそういった人々を眺めつつも、どうして森が死んでいるのかを考えながら、夕暮れの大通りを歩いて宿に戻ろうとしていた。
考えることが多すぎる。頭で考えることは嫌いじゃない。記事を考えて徹夜したことも両手にあまるほどだ。
だが、今回くらいに頭が痛む事柄も稀だと思っていた。
近々戦争が起こることも半ば、確信とともに胸中を騒がした。
思えば、どうして指名だったのか。アリシアは自分の素性をある程度知っている節もあった。
何故、自分のことを知っていたのか。少なくとも、ウィニペグ地方には足を運んだことはなかった。そういう気がする。
いつもより明るい光を、灰色の雲から降り注いでいる。
くわえて市内を走る大通りは、雪が降っているときよりもずっと歩きやすい。それほどに、市民は不安を覚えているのだろう。
ローは報告のため、領主の館に向かった。ジスは宿に帰る途中だった。
手入れの行き届いた部屋は暖まっていることだろう。暖炉をくべるよう、主人に頼んでおくことにぬかりはない。
部屋に戻り、机に肘を置きながら、爺へ向ける手紙をしたためる。
ダリスについてから、慌しい日々を過ごしてしまったからに、ここで一応の経過報告書をまとめておくのも悪くはない。
今の問題点からことの経緯を、書き記すことで再認識しよう。
すぐに戦争が起こるわけじゃない。まだ猶予はある。隣人の目的も判らないままだが、三十年前に侵略戦争を仕掛けてきたのだから、今回も同じような理屈とも考えられる。
ウィニペグ地方は、丘陵地帯に挟まれるように街道が延び、それに沿うよう平野が広がっている。
耕作に不得手な丘陵地帯は雑木林が茂むものの、開拓を行い放牧地として使われている土地も多い。
山脈からの川も流れているために水に困ることもない。
北方にしては、雪に閉ざされる時期が短い。その割には積雪が多い気もするが、冬を越すために必要な食料は、春から秋までの季節で十分に収穫できているようだ。
都市の周りにおける荘園も隆盛していることが伺え、市内のパン屋に値下げしろと市民が押し掛け、ウサギの肉が鉄の剣一本と等価になることもない。
奴隷が飢え死にしそうもなく、通りの清掃活動を行っている。相変わらず厚着をしているのだから、裕福な都市だ。
隣の芝は青く見えるそうだが、ダリスは誰が見ても青く見えるだろう。
惜しむらくは王都の近くに存在していないことか。流石に冬の時分とはいえ、十六日は長丁場すぎることか。
酒は旨いが、気ままに往来できないのは痛いところだな。そんな評価を下しているおり、ジスは見かけないフードの人物を視界に納めたのだが、何気なく一瞥し、すぐに通り過ぎた、つもりだったのだが、相手はどうやらその気がなかったらしく、
「おい」
と、ジスに声を掛けてきた。
はて、誰だろうか。
ダリスに友人はいない。ならば、探索者時代の者になってしまうかもしれないが、愛想良くした者など居ただろうか。
常に孤独の中で魔物を殺してきた。そんな曖昧な思い出しかない。そんなに時分に率先して声をかける者が居るのだろうか。
「ジスブレッド」
どこかで聞いたことのある高い男の声に、おや、とジスは首をかしげた。
名前を知られているということは知り合いということになる。
振り返ると、フードを目深く被った人物が佇んでいる。口元の白い肌具合に不遜な態度。
太陽の光は苦手だと言っていたと記憶していた人物が目の前にいた。
「シュート。何故ここに?」
その言葉で、フードを僅かに上げた。真っ白い肌よりもまず先に、左頬に走る刺青の赤黒さが目に付いた。
「久しぶりだな」
口が歪む。笑っているのだろう。
ジスは笑顔を作りなしていた。外さま用の顔だ。
「えぇ、ですが教団への取材は別の組合員が行っている筈ですが」
「その組合員って奴らもこっちにきてるぜ?」
どうやら、ジンとベッキーを同伴させてわざわざ辺境の地へ赴いてきたようだ。
「何故、ここに?」
「ここの領主にも話があったんだが。なにやら到着してみれば、面白いもんが見れると聞いてね」
そういえば、シュートは、旅に出ると言っていた。それが、このダリスだったのか。そして、面白いものとは、市民に伝播するあの話しかないだろう。
「まさか、魔物の?」
「その通りさ」
子供のようにはしゃぐシュートに、ジスはため息を思わず吐きかける。市内では魔物の話でもちきりなのだから、耳に入るのも仕方のないことだった。
もっとも、意図的に流している節もあるとジスは睨んでいる。あえて恐怖をあおり、軍事行動は必要なことだと印象付けているようでもある。
「しかし、魔物の死体はすでに処分されていますよ」
「なんだって、そりゃ残念だ。なにせ、新種だっていうからな。オレとしてはぜひとも拝みたかったもんだが」
そんな話を聞くや否や悲しそうに顔をしかませた。感情が表に出やすく、かといって不快ではない。清々しいといえる。不健康そうな顔ではあるが。
「一応、絵に描いてありますけれど、見ますか?」
別段、隠すことでもない。
「へぇ、ジスは絵が描けるのか」
「こんな見てくれですがね」
「謙遜するな、知識や技能を持っているというのは素晴らしいことだからな」
シュートはそういってジスを褒めた。
「それで、絵はどこにあるんだ?」
子供のようだ。彼は邪教となる教団の信徒であるが、そういったところの偏見――邪悪さをもたない男だった。
見た目こそ、怪しいと十人中十人が回答するような風貌だ。今も、町行く市民からの視線が、ジスには痛い。
「泊まっている宿に」
「なら行こう。ちょうどオレも泊まる場所を探していたところだからな」
シュートはそんな視線を気にもしていない。
帝国では最悪の場合、死刑が待っているほどの悪人ではあるものの、王国は宗教に関して寛容なため、目立たなければ何を信仰しても良い。ただ、国教は帝国と同じ、聖都教であり、そこはやはり、教会からは良い眼で見られることはない。
「別室でお願いしますよ?」
「奢ってくれよ」
「いやですよ」
「相変わらずだな」
「シュートこそ、いつもながら色白ですね」
「その営業口調、似合ってねぇよ」
「――うるさいやつだ」
二人を肩を並べてダリスを歩く。
***
シュートは宗教家とは思えないほどに変態だ。
まず、人間が嫌いで、人体が好き。
好き嫌いが激しく、嫌いな人間にはどのような立場に立つものであろうと剣呑な態度を取るし、好きな人間には、いたずらをしたりする。
そのくせ、人体を貪るのがお得意だという。自称も、自慢もすべきことではないが、彼は平然としている。
かと思えば、文献を読み解くときに、人のプライバシーを紐解くことへの嫌悪感を和らげるために懺悔をしたりする。
きっと、根は真面目な奴だ。だからこそ、ジスはシュートのことが嫌いに離れない。むしろ好意的に接していた。
博識なことも、大いに関係しており、半年間、交流したジスからすると、下手な情報屋よりも、信頼できると思っていたりする。
教団の中ではかなりの有望株なためか、当初は従者が二人ばかり、ジスに警戒して付いていたが、シュートの奔放さに付いて行く事が出来なかった。
子供のようだ。生死に関して並々ならぬ関心をよせつつも、行動原理が好奇心によって左右されている。
教団が支援している孤児院や、巡礼地を回るだけならいざ知らず、異教となる聖都教についても学び、教会に赴き、議論の場を持つ。
書庫に入り浸り、夢物語であろう魔術の伝説を調べ、術式を覚え、行使できるかを検討し、人知れず実験しては生傷を作る。
ジスは、そんなシュートと半年間、交流した結果、孤児院の子供から好かれているのもなんとなくではあるが理解できたし、自分が子供にモテないのも身に染みて判った。
そのような評価を受けているシュートは、椅子に座り、机に広げられた絵を食い入るように見つめている。
表情は真剣そのもので、視線は鋭い。
「こいつは……」
シュートは思わず声を漏らす。
「上手いな」
鉛筆で書かれたその絵は、全体像だけではなく、ジス自身気になった箇所を、部分ごとに書き分けたものだった。
数枚の紙に描かれる珍妙で不気味な魔物の絵。それを眺めるフードの男。
その光景が酷く、似合っている、などと思ってしまったジスは、苦笑いをかみ殺した。
「鎧のような皮膚だろう。いや、外殻といって良い。」
シュートは食い入るように絵を見つめている。
「……どうした?」
ジスも彼の凝視している素振りが気になったようだ。
「確かに、鎧だぜ」
「なに?」
「聖アルカニス・マルク騎士団」
突然の名詞に、ジスは眉を潜めた。
「こいつの着ている鎧の持ち主は帝国の騎士だってことだ」
「騎士……帝国の?」
ジスはこの鎧がどうして帝国騎士のものなのか判らなかった。
「だが、これは、」
「様式がまったく違うだろ」
帝国の一般的な騎士の甲冑とは様式がまるで違う。ジスとてそれは良く判っている、
「そりゃそうだ。こいつは少なくとも百年以上前の代物」
だからこそ、シュートの言葉に怪訝な表情を作りだした。
「かつて存在した、帝国四大騎士団の一つだよ。率いるはヴィッツ・アウグスト」
「なぜ、」
「オレが知っている、か……。そりゃ、オレの調べているものに関係しているからだ」
「大罪人にして、魔女と呼ばれた女……」
「オレはなァ、カテリーナ様が大罪人だとは思ってねェ。教団の連中もそうだ。だから確かめてるのさ、俺はよ」
かつて世界に反旗を翻し、英雄たちに討たれたとされる魔女、エカテリーナは不老不死の研究を行うために人々を誘拐しては人体実験を繰り返し、その仮定で魔物を作り出しては軍団を率いて人類に襲い掛かったという。
最後には、世界中の騎士や魔術師らによって打倒された存在。
災厄の魔女、魔王、などと言われ、御伽噺に登場する回数は多く、悪役として不動の地位を得ていたりする。
「カルト教団なんて呼ばれている所以というわけか」
「かもしれねェ。まっ、オレはかなり善意的だから良くはしらねェ。だが、信徒の中じゃ、人体をこねくりまわしているって話も良く聞くぜ?」
「ともかく。この魔物の皮膚みてぇに鎧がひっついてんだろ」
「あぁ」
「なら、死んだ魔物はこの騎士団が消えたときから存在していたと仮定してみたところで、違和感はあるかい?」
「ないさ。お前がそんな顔してるんだ……それに、消えた。という言葉に興味がわいた」
「歴史上から、マルク騎士団は消えているんだよ」
「まさか、四大騎士団は確かに存在している。マルク騎士団は今も、」
「現団長はリコニア・シューバルク。アウグスト家とは何の関係もない。それどころか、現在のマルク騎士団に過去の同じ騎士団に所属していた血統はない」
「組合でも追えない情報統制?」
マルクはかつての英雄から取っている。そんな情報など誰もが知っている。
マルク――マルクバイヤーは魔獣を倒し、帝国を救った。彼の功績を後世に伝えるため、マルクの名を騎士団として刻んだ。
アルカニスは本拠の地名だ。アルカニスは聖徒教の巡礼地として知られていることにより、聖アルカニスが付けられた。
現行で正式な宗教的な戦闘集団は帝国のみである。それはひとえに多民族国家ゆえの内乱を抑圧する政治的な意味合いが強い。
宗教による繋がりを持つことにより、異民族同士ではなく、同じ信徒としての枠を作り、融和を図ったのだ。
現在では、帝国のいたるところに聖地がある。元々は土着信仰程度であった自然崇拝が、融和政策の中で、聖徒となれば神々の楽園に死して居住が許される。そこでは全てが等しく、誰もが幸福を享受できるであろう。という謳い文句だ。
「そもそもが間違いなんだよ。お前は」
「なに?」
「消えたのは百年以上前だ。帝国はそのときから隠蔽に腐心していたってことだろ。ポッと出の組合が早々に掴めるもんじゃあねぇだろ?」
組合とて全ての情報を網羅しているわけではない。それは理解している。ただ、ジスにとって国家運営に携わる人間にまで繋がりを持つ組合長が、帝国の過去を知らないのは不自然に思えていた。
なにせ、組合長は元々帝国に住んでいた人物。そして、ジスもまた帝国民として暮らしていた時期がある。
今は居住という形で王国に根を下ろしている。きちんと手続きも踏んだものだ。不法入国ではない。
歯がゆい。何かが、嵌りそうな気がして、それが何なのか検討もつかない。
焦りが沸く。何かを忘れているような、けれども思い出せない。ただ、漠然とした息苦しさがこみ上げて来る。
深呼吸を一つ。
「問題は、何故、今なのか、ということか」
「大正解。百年以上の魔物と仮定した上なら、不可解なもんだ」
「森の中だ。見つけられなかったという可能性もあるのだろうが、」
「未開の地が近くにあるしな。いまだ開拓も進んでねぇ森のようだしよ。考えられなくもないな」
「しかし、森にはオオカミがいる。奴らは賢い」
「へぇ、面白い獣じゃねぇか。お前に褒められるなんてよ」
「茶化さないでくれ……」
「なら、森の中にオオカミすらも立ち入らない場所があるって考えると楽になるんじゃねぇか?」
「……あり得ることだ」
「群れの長は、そんなにもすげぇのか」
「会えば判る。魔物なんて目じゃないな」
「ハッ、おもしれぇじゃねぇか!」
「なんにせよ、やみくもに探すよりかは目的あるほうが有意義に過ごせそうだ」
「ご参考になってオレァ嬉しいぜ」
「……そういえば、何で百年以上前の情報をお前が知ってるんだ?」
「教団の資料室に眠ってる情報ってのは世に出ていないものも多いってことよ」
「なるほど、当時にはすでに教団は存在していたのか。まったく、古いカルト集団だ」
「そういうこと。ちなみにエカテリーナ様が存命中から存在しているってんだから、中々に由緒あるだろ? そもそも、オレらは生死を尊ぶことを信条としているからな。有史より続くもんなんだぜ?」
胡散臭い教団であることに変わりはない。帝国では立派な異教徒だろう。それゆえに王国での活動が多い。
活動実態は不透明だが、歴史的資料を読み解き、妖しげな実験をしていることだけは確かだ。
「殉教者を忘れはしない。しかし、死を悼むことはない。死は誰のもだ?」
ジスの半眼を涼しげに受け止めるシュートがそんなことを口走った。
えらく哲学的な問いかけだと訝しがるものの、宗教家は総じて市民を誑かすときは難解な言葉を浴びせかけてくるものだと、勝手に納得する。
宗教なんてものは、この世に蔓延っているというくらいにあるものだから、ジスとしてもうんざりすくらいには会話をしている。
ただ、シュートだけはとにかく人を騙そうという気持ちが薄いことだけは判る。勧誘するわけではない。
前任の組合員は入信して潜入しようとしたらしいが、失敗している。そのときに対応したのがシュートだというのだから、彼には彼の宗教観が確立されているのだろう。
ジスにとってシュートはこれまでの宗教家とは違う。何か、明確な意志を感じ取っていた。
「死ってのは、死んだ奴のもんだろ。悼むとか祈るとか、そんなもんは生きてる奴の満足を満たすだけの行為ってわけよ。オレらは、死を悲しみ、死を喜び、死から生を学ぶ。生きること、生命の誕生を、学ぶ」
独特の価値観だとジスは感心した。
「俺には難しい考えだ。そういうことを考える余裕もない」
「人はそんなもんだ。ただなァ、オレたちはそういった奴らに説法といて心の隙間を作って入り込むなんて真似はしねぇよ」
シュートは笑う。あざ笑っているとジスは確信した。それは、目の前の自分ではない。顔も知らない一大宗教を作り上げた教主に向けてだ。
「自分がいつか死ぬことを忘れない。そんな奴をオレらは歓迎する」
鼓動が一際強くなった気がした。
――俺は、いつか死ねるのだろうか。
それは欲求だった。どうしてそんなことを考えてしまったのか自分でも判らない。ただ、酷く耳に残る言葉であることは確かなことだった。
「嗚呼、聖なる生よ、嗚呼、聖なる死よ」
シュートは鼻歌まじりだ。ジスの動揺を見てご機嫌な様子を見せている。
「オレは嬉しいぜ。アンタも死を恐れるような奴でよ。アンタならオレは歓迎するぜ?」
口端を吊り上げたシュート。
肉と皮の奥底で変わらぬ姿を維持し続ける白い骨格が、透けて見えた。
眼窩で脈動する赤い光が、まるで血脈を作りなしているかのように、骨格に巻きつきながら全身をめぐっていく。それは左半身に絡みつくように、鈍い光を放つ。
ジスは眼をそむけた。窓を眺め、ダリスに日の光が差し込んでいることに気がついた。
「考えおくよ」
席をたち、ベランダに出て寒い風を全身に浴びる。
「おっ、晴れたな。ここいらは晴れが珍しいって聞いていたが、幸運なもんだ。良いことが続くのはオレの信仰深さあってのことだぜ」
「気楽な奴だ」
「陰気臭いよりかはマシだろうに」
「お前の容姿でそれを言うか」
「日光は苦手なんだよ。長時間、当たり続けるのはゴメンだぜ」
他愛の無い日常のひと時だった。
今の今までは。
「なんだ!」
瞬間、まさにそうであった。
何かが、弾けとんだ、駆け抜けていった。
光り輝く膜の様なものを、確かにジスは視野に入れ、全身を襲われた。
圧力もない。風のそよぎでもないほどに、微弱な感触が身体を包んだ。
確かに今、何かが起きた。
理解の及ばない、現象がジスを襲ったのだ。




