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HAPPINESS  作者: 篠塚 優人
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第六話 冬-3

 車は市街地から、実家のある町へと進んでいく。町に入り、山あいを進み、やがて町外れの一軒家の前で停車した。すぐさま乱暴に下ろされ、中へと引きずられていく。

 家の中は、普通だった外見とは異なり、一つの広い空間だけが存在していた。壁は四隅にあるだけ、まるで昔の公民館のような造り。窓は閉められ、カーテンにより外部からの光も閉ざされている。

 その真ん中に、僕ら三人は座らされた。同時に、正座の状態で後ろに伸ばさせられた腕、そして足首に鎖を巻かれる。とっさに、いつぞやテレビで見た縄抜けの方法(両手の小指と小指をくっつけた状態)を試し、気付かれぬまま巻かれたので、手だけは後の自由を保証されたが、足だけはどうしようもなかった。


 やがてドアから、続々と大人たちが入ってくる。父や母、叔父(もうさん付けなどしない)、あるいは有力傍系の長。見知らぬ人間も、同じくらいの人数が入ってきた。その数二十人ほど。祖父の姿は現れていない。ということは、この件はこいつらの独断、なのだろうか。


 人数が揃ったのだろう、彼らは僕ら三人を取り囲むように座る。僕らの正面には父、そして醍醐家次代当主、つまりは遙の父が座した。

 その手には、長い木棒。


「……ふん。ろくでもない餓鬼どもだな」


 開口一番、父が発した言葉。ろくでもないのはあんたらだ、と言いたかったが、最後の悪あがきのチャンスを見つける為に、言うのを踏みとどまる。言った瞬間、あの木棒が飛んでくるのは目に見えてわかっていた。父だけなら足が使えなくても交わせそうだが、何せこの人数だ。かなうわけがない。そして、拳銃を出されれば終わり。

 ……あまりにも不利な状況だった。


「てめえらのせいで、脈絡と受け継がれてきたシステムが狂うところだったじゃねえか。無駄な手間を掛けさせやがって」


 続けて、父の隣、遙の父が口を開く。

 だが僕は、その内容に疑問を抱いていた。

 この内容は、町の闇の部分について。

 ……何故、僕らが一緒になって逃げようとしていたことに、先に触れない?


「あの時にこいつらまとめて殺すか売り飛ばすかしていれば、こんなことにならなかったのにな」

「仕方ねえ。両家共に、くそジジイの横槍が入ったしな。まあ結果は変わらなかったけどな」


 そして、何でこの二人は、一緒になって、僕らを……


 頭の中で一つ、ある考えが生まれる。

 それは、今までの町の常識を覆すもの。だが、この状況こそが、僕の考えが正しいのだという証明になる。

 密かに左右に目を配ると、二人とも同じ考えに辿りついた様子だった。


 僕らの中で、最初に発言したのは、遙。


「……ふん。繋がっていたんだな、葛城と醍醐の家は。おそらく、相当の昔から。両家のシステムが同じだったことにも納得が行く」

「おい遙、おまえに発言権を与えた覚えなんかねえぞ」

「……まあよせ、寛次。最後の真相暴露の時間くらい与えてやろうではないか」

「お言葉に甘えさせてもらうとしよう、葛城の次期当主よ。……葛城と醍醐、二つの家が権力を争う裏側では手を組み、互いに不穏因子を毒物によって取り除きつつ、町を牛耳る。この仕組みを考えた祖先は頭がよかったんだろうね。一つの家による独占支配は、民からの不信感を向けられるなどのデメリットが多い。対して二つの家が争う形なら、公平性があると錯覚し、どちらがその時に権力を握ろうとも気にすることはない。これがもし、欧米の二大政党制の如く本当に敵対し合っていたとしたらよかったのだが、内実、一つの家が形を変えて支配し続けるようなもの。表立って権力の上に立つ側が権益を得たとしても、半分にわければ両家の間に何の争いも生まれない。民に反乱を起こされる可能性が少ないまま、利権を吸える。実によく完成されたシステムだなと、感心してしまうよ。そして、その利権にかじりつかんばかりに、暗部を告発し、町に風穴を開けようとしたものを、いとも簡単に消し去ってしまおうとするおまえたちにもね」

「ほう、そこまで気付くとはさすがだな、醍醐の娘よ」

「簡単なことさ。この状況下で気付かぬ方がおろかという奴だ。そして、本来なら私と新一が未だに付き合いを続けていることに、町で言うところの非がある状況下で、それを先に非難しようとしなかったからな。このくらいは、新一も美知もわかっているという顔をしているがね」


 父の視線がこちらに向けられる。

 いつもの、人を射殺さんとせんばかりの、鋭利で冷たい視線。


「……お前らにも、最後の懺悔の時間を許してやろう」

「最低の人間め」

「人以下ね」

「……ろくでもない餓鬼どもめ」


 すでに言いたいこと全てを遙に言われていたため、僕や美知は、単なる罵りの言葉しか出てこなかった。

 それらに対しても、ぴくりと眉を吊り上げ、開始早々に吐いた言葉しか父親は返さない。


 辺りを見まわす。

 誰もが、僕らの死を確信していた。

 誰もが、僕らに対して、冷たく、淀んだ視線を向けていた。


 ……ここは、本当に腐っている。腐っている中で、僕らは、朽ち果てていくしかないのか……


「ったく、くそジジイどもにせっかく助けられたのにな。命を無駄にしやがって。まあおかげで俺らには、当主交代のチャンスが生まれたんだがな。ああ、その点では礼をしてやろう。男は出来るだけ苦しむように、女は羞恥のどん底で死ねるようにな」

「おいくそ父様よ、今の言葉はどういうことだ? 当主の交代は、当主の死をもって行われるはずだろうが」

「ふん、いつまでたっても口の減らない娘め。まあいい、この後お前らが踊り続ける様を見られるんだ、このくらいは冥土への土産として許してやるか。今回の件ではな、くそジジイ二人、まあ今の当主だな、あいつらには落ち度があった。おまえらをかばいすぎたんだよ。ホントかわいがられてんのを無駄にして。結構なことだがな」

「かばった、だって……?」

「愚鈍な餓鬼にもわかりやすく教えてやろう。美知は、本来ならあの日死ぬはずだった。謎の病死として、な。トリカブトの中毒症状発症後に、志郎の家に運び込み、その場でトリカブトを注射する予定だった。ところが、事態を察した愚かな当主が救急車を呼び、救急指定病院に運び込ませることで、我々はその機会を失った。美知、お前も結局は、死を早める結果を選んだ、というわけだ」

「っ……!」


 この時点で、僕は一つだけ安堵を覚えていた。

 祖父は、じいちゃんは、美知を殺そうとしていない。必死に止めたんだ。


『……新ちゃん、すまん。これはわしが悪い』

『いや、わしが見抜けんかったのが悪い。早く気付けておれば、こんなことには……』


 あの時の言葉の本当の意味、それは、『上層部の企みに気付けず、美知を守ることが出来なかった』という意味だったんだ。


「結果、それが当主の足をすくった。何故救急車を呼ぶのかという不信が、何も事情を知らぬ者から出てきている。それは我々が遠慮なく、慣例に則っていなかろうとご退場願える口実になる。まあ、外部の人間が口を出したのが悪い」

「……おまえは、自分の父親を何だと……!」

「ふん。おまえこそ自分の父親に無駄な刃を立てようとしているだろうが。よく言う。まあいい、おしゃべりの時間が過ぎた」


 父が、遙の父が、立ち上がる。そして周囲を取り囲む大人たちも、同様に立ち上がり、僕らを見下ろす。


「遊びも生きる時間も終わりだ。せいぜい、人体実験の素材となるか、性欲のはけ口になるかて人外に落ちるがいい」


 父のその言葉で、大人たちが一歩、足を踏み出す。


 ……終わりだ。

 父の言葉から察するに、僕はどうやら残虐非道の実験対象とされ、遙と美知は目を輝かせた男たちに犯され、そして殺される。


 ……むざむざと殺されてたまるか。どうにかして、遙と美知の二人だけでも……

 手首の戒めをとっさに解き、立ち上がろうとした瞬間、


「まあキミは待ちたまえ」


 遙が僕を小声で制し、


「本当に、とことん低俗な奴らだ。しかし……ツメが、甘い」


 大声でそう宣言した。

 その声の持つ、自信を感じさせる強さに、更に一歩にじみ寄ろうとした大人たちは思わず硬直する。


「本当のツメというものを、私が教えてあげよう」


 一人だけ、動揺の色を見せなかった父が、遙に問いかける。


「ほう、ツメが甘い、とは? 後学の為にご教授願おうか」

「さすがは葛城の次期当主。どこぞの腐れ父様とは器が違う」

「おい誠一、そんな戯言に付きあう必要ねえよ!」

「まあいいじゃないか。最後の遠吠えほど甘美なものはない」


 父は全く狼狽えていない。だが、それは遙も同様だった。


「まず始めに。どれほど自分の妻に対して欲求不満を抱えているのか知らないが、東南アジアに行く公務員への接待のような行為を行う時間を男衆に与えるなんて全くもって無駄だ。確かに士気を上げる常套手段ではあるが、この人数が満足するまでにどれほどの時間がかかるのやら。その間に、何も事情を知らぬ人間がこの近くまで来て、私や美知の悲鳴を聞いて通報しないとも限らない。どうやらこれは隠密な行動のようだから、わざわざいることを宣言するような見張りも立てていないだろう?」

「なんのことかと思えば自分の身体を穢れから守るための詭弁か。そんなもの、猿轡でも噛ませればいい」

「ほう? 猿轡程度で、私の嬌声が防げるとでも? 自分で言うのも何だが、新一と交わっていたときは、夏の蛙百匹相当の声を上げていたが」


 ……この期に及んで、遙は何を言い出すのだろう。ちなみに、僕の記憶が正しければ、遙はどちらかといえば声を抑えるほうである。


「だからどうした? 声を奪う方法などいくらでもある」

「それはご苦労なことで。まあ今のは序の口さ。本題はここからだ。

 ……私は、以前新一との交際が発覚した際、今回と同じように、醍醐の家の者に散々に犯された。何が楽しいのか知らないが、処女相手に嬉々として腰を降る馬鹿者どもを見ながら、頭では別のことをずっと考えていた。『何故、うちの家の者まで知っている?』ってね。身体の中に異物を挿れられながら、欲望だらけの白濁液を浴びながら、考えた。ばれたのはあくまで新一の家の人間に対してであって、他の人間にはばれていない。なのに私は今こうして、慰み者にされている。この事件が私に教えてくれた。醍醐の家と、葛城の家が裏側では繋がっていることを。葛城の家から醍醐の家に伝達があり、公の場ですら両家が懇意であるよう思われないために、私を罰したのだと」

「それが何の関係がある? 今この場においては全く関係無いことだ」

「いいや、大いに関係があるのさ。この事実に気付いているといないとでは、今ごろ既に美知と二人、散々に弄ばれていたことだろうさ。……ほら、遠くに聞こえないかい? 私たちを導く鐘の音が」

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