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座右の銘はラブイズオール  作者: げんたろう
8/20

一口でペロリです


そびえ立つ、30階以上ありそうなビルディング―――。

足がすくみそうになるけれど、うらら先生のためだと気持ちを鼓舞する。



「行くわよ、すもも!」



自分にそう言い聞かせて、私は『AQZ商事』に乗り込んだ。

・・・といっても、ちゃんとアポは取ってます。



***



「あのボロ社宅を買い取りたいって?」

「そのように連絡が入りました」


大正時代に作られたレンガ造りのアパートはAQZ商事の社員寮という名目になっているが、この30年無人となっている。


ボロイ

かび臭い

漏電

お風呂が旧式

草むしりが面倒

立地が不便


このような苦情があったらしい。

そういう訳で「立入禁止」の札をぶら下げて放置していたわけだが・・・・・・そんなアパートを欲しいヤツが今頃出てくるとは。



「どこの不動産だ?」

「不動産でも企業でもなく個人です。壱道麗さんの代理で、桃野すももさんが本日わが社にいらっしゃいます」

「個人名を言われてもわからん」

「女性秘書が騒いでおりましたので、壱道麗さんのデータを調べておきました」



第一秘書相田が差し出したのは・・・書類ではなく本だった。



「?」

「壱道麗さんは料理研究家でいらっしゃるようです」

「ほお」



俺は本を手に取った。

料理の写真とレシピが載っている。当然だな。


が、しばらくメージを捲ると・・・・・上半身裸にギャルソンエプロン、プールサイドで水着でカクテルといった写真ばかりになった。



短くカットされた銀髪に、紫の眼。

手足は長く、腹は6つに割れ、チラリと口からのぞく舌が肉食の動物をイメージさせた。



「料理研究家?」

「このように大変な美貌の持ち主でいらっしゃいますから、写真が多いのは当然でございましょう」


プロフィールは後ろに、と言われたので最後のページを捲ると、生年月日や学歴の他にスリーサイズまで載っていた。




「この相田、坊ちゃまほど完成された造作の男は居ないであろうと思っていましたが・・・・・・・・・いやはや☆」


いい年のおっさんが語尾に☆を付けるな。


「これで性格が宜しければ、坊ちゃま以上の逸材でございますな」


じいやでもある相田は俺に対する発言に容赦がない。


「代理人には俺が応対しよう。スケジュールの調整は可能か?」

「30分ほどでございましたら。・・・ですが、桃野様は女性ですが宜しいので?」

「お前曰く、俺以上の造作を見慣れているのなら、問題は無いだろう?」



***




そして代理人の桃野すももと顔を合わせたわけだが・・・。



俺の顔を見て、一瞬だがバカにした顔をした。

が、すぐさま愛想笑いを顔に貼り付けると、彼女は机に資料を広げた。



過去30年廃屋であったこと。

よって、この建物はわが社に必要ないものと判断しているということを彼女は指摘し、買い取りたいと単刀直入に申し出た。



「その通りではありますが、必要ないからとは言え、二束三文でお売りするつもりはありませんよ?」


対仕事モードで応対すると「壱道もそのようなことは望んでおりません」と彼女はキッパリと言った。


「地代と建物の金額は、数社から見積を取り、適正な金額をお支払いいたします」


一社でなく、数社、か。


「壱道氏はあの土地をどうなさるおつもりなのです? 用途によっては・・・」

「そのままアパートとして使います」


彼女は完成予想図をテーブルに広げた。妙に可愛らしいデザインだな。


「補修工事とリフォームを行い、1.2Fは女性専用のアパート。3Fは壱道の居住の予定です」

「・・・・・・・・・・女性、専用?」

「ええ」


ニッコリ。

俺の言いたいことが分かっただろうに、彼女はニッコリと笑った。


「壱道氏は男性だとうかがっておりますが?」

「はい。ですから、男子禁制なのです」


意味がわからん。


「メディアにも伝わっている公然のことですが、壱道はゲイです」

「―――」

「先生が男子禁制しようと言い出したのは、近い未来に済むであろう女性達の恋人を奪わない為・・・そして、彼女達を不快な気分にさせないためだと思っております」


何を言っているんだ、彼女は!


「全ての男性が彼になびくような言い方ですね」

「はい! 先生がその気になれば、どんな男でも一口でペロリです!」

「!」

写真集(料理本だよ)で見た、獰猛な顔を思い出し、思わず動揺してしまった。


「まあ、先生は滅多にその気になりませんが」


そして彼女は壱道麗が、美しく、気高く、慈悲深く、愛情こまやかで、天が作り上げた最高傑作で、何者にも屈しない強い心を持ち―――。と延々と語った。1時間近く語った。



「というわけで、色よいお返事をお待ちしております。概算見積を取っておりますので、参考価格としてご覧ください。あとこちらは契約書の草案です」


パパっと書類を積み上げると「それでは、副社長!長々と失礼しました!」とスッキリした顔で出て行った。



パタン。



「坊ちゃま。長うございましたね」

「・・・・・・・・・・相田。お前は俺が副社長であることを彼女に言ったか?」

「いいえ? 交渉担当者としか伝えておりません」

「ホームページには会長と社長の顔しか載せていないはずだな?」

「さようでございます」


「では何故彼女は俺が副社長だと知っているのだ!?」





それはすももちゃんが有能だからである。

4人目の主要キャラに名乗る機会がまったくなく、じいやの名前が出てくるミステリー。


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