アプリコットちゃんの必殺技
視点が高坂→麗→高坂
「うわー、オレのキャラにソックリなレイヤーさんが居るよ」
白氷騎士役の声優が言う前から、そのコスプレイヤーは目立っていた。
周囲より抜きん出て背が高い。
会場が女性だらけという理由だけでなく、男の平均身長をはるかに上回っている。
その上、顔がいい。
まさしくリアル白氷の騎士。
冷たい銀色の髪に、物憂げな紫の目。・・・アレは自前だろうか?
「あのひと! 料理研究家のうらら先生ですよっ。キャラクターの原案みたときから似ているなーって思ったんですけど、まさかレイヤーさんだったなんて! 超感動!」
女王陛下役の声優が跳ねている。
「え? 芸能人?」
「テレビに出てる料理研究家って芸能人って言うのかなぁ~? つい最近テレビに出て大人気になったんです。写真集も出してて、勿論買いました」
「料理本じゃなくて?」
「あっ。そうそう料理本です。写真がいっぱいついた」
この場合の「写真」とは料理ではなく彼の写真なのだろう。
「そこいらのモデルとか霞みますよねー。 ものすごいセクシー&フェロモンですもん。
ああー。オネエでもいい。抱かれたい!」
「「「オネエ?」」」
「ですよ~。理由が『アタシの男の部分は、亡くなった彼女に捧げているから』なんだそうです。胸キュンですよ!」
再びピョンピョン跳ねた。
「あっ。横の『女王陛下の侍女』やってる子、アプリコットちゃんですね」
「アプリコットちゃん?」
「ハイ。うらら先生のアシスタントで、本名はすももちゃんなんですけど、うらら先生はアプリコットちゃんって呼んでるから、皆そう言ってます」
桃色の髪の女の子がニコニコして銀髪の男を見ている。
「彼女じゃないの?」
「可愛がっているって聞きますけど、違うそうです」
「オレ逢いたいな。壇上に呼んじゃってもいいかな?『そっくりレイヤーさん』とか言って」
「運営の人に確認したほうがいいですよ。事務所に入ってるならあちらが断るかもしれないですし」
「そうかー。あ、でもオレのコスプレしているってことは、オレのファンだよね? あとで楽屋に招待しようかな?」
身の危険を感じるから、同席してねと言ったが、多分コイツを襲うことはないと思う。
(50歳、既婚)
***
目の前に高坂臣が!
抱き付いていい?
首筋齧って舐めていい?
頭から丸飲みしちゃっていい?
アタシがプルプル震えていると「うらら先生、今日はクーデレですよ!」とアプリコットちゃんが囁いてくれたので、正気に戻った。
そ、そうよ! 今日のアタシはクーデレ!
それに高坂臣の性癖はノーマル! だから観賞用で味見用(?)じゃないのよ!
でも・・・・・・・。
金色に日焼けした肌。
少し痛んだ、カラーリングした髪はグレーがかった金髪。
目はカラコンかしら。今日は緑ね。
そして細いけれどもほどよい筋肉の乗ったボディ!
「に、においが・・・いい臭いがする」
嗅いじゃダメかしら?
***
具合が悪いのか、目の前の美形料理研究家は小刻みに震えている。
って本当に料理研究家なのか?
バッチリ決まったコスプレ衣装といい、モデルなんじゃないのか?
男の横に立っている、ちんまりとした少女が「先生! 今日はクーデレです!」とマントを掴んで揺さぶっている。
ピンク色もフワフワした髪に侍女の衣装は、白氷の騎士同様、まんま女王陛下の侍女だ。
「に、においが・・・」
男のセリフに「におい!」とピンク色の少女が鼻をヒクヒクさせる。
「これが先生を惑わす臭いの元ですねっ! いぇい!」
広がったドレスのスカートから、ピンク少女はアトマイザーを取り出すと俺に向けた。
「な!?」
「煩悩消滅!」
「きゃあっ、アプリコットちゃん!?」
控え室に甘ったるい臭いが充満した。
―――――その後。
「アシスタントが失礼しました! 改めて謝罪の場を設けさせてください!」
男が俺の両手をガッチリと掴み、ブンブンと上下に振り詫びをして。
ピンク少女が死んで詫びるというので「迷惑なんだけど・・・」と言うと、彼女はサイフからカードを取り出して俺に差し出した。
「1234です! 慰謝料です! 全財産の55万1287円入ってます! 足りない分は分割でお願いしますっ!」
とキャッシュカードを俺に差し出してきた。
それを見た男が、「じゃあ・・・」と自らのサイフを取り出した。
「20億7000万円くらい入ってます。暗証番号は1919です」
「なんでそんなに普通預金に!?」
「慰謝料は要りませんから・・・・・・」
香水吹きかけられただけで20億円とか、どれだけ暴利なんだ。
「今言った暗証番号、絶対変更してください」
妙な事件が起こって容疑者にさせられては困るので、俺は二人に念押しした。
麗の暗証番号がナニゲにヒワイである。