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 あっけないものだ。

 何年も、百年も千年もかけて、終わるのは一瞬。

 待ち望んでいた筈なのに呆気なさ過ぎて、続きを期待してしまう。

「最後に話せて良かったわ」

 やめてくれ。

「じゃあね、カイル」

 やめろ。

「アーサー、ありがとうね。わたくし、楽しかったわ。そりゃ辛い時もあったけど、終わってみれば良い思い出よ」

 光が差す。

 幾筋もの光が。

 アガスティア自身が光となり、光は淀みに重なる。

 淀み。

 異常なほどのマナ容量を持つ身体。マナを大量に宿すから、感情には敏感な筈だ。マナとは生命であり感情だから。しかし淀みは鈍感のようだった、この身体の記憶では。

 無意識か、アガスティアが生まれた直後に結界でも刻んだのだろう、世界と断絶する結界を。だから使命に逆らえた。

 光と淀みが重なり、混ざり合った時、更に強い光がうまれた――世界は下界へと落下している。神殿の地面は既に崩れ去っており、足下は空だ。 カイルが宿った少女から、数多の魔方陣が展開していき、淀みの身体からは強く太い光が鎖のように島々へと放たれた。

 落下が止まる。

 しかし、長くは続かない。人々が怯えている。死を覚悟しようとして、出来ないでいる。不安や恐れる心は、島の存在を脅かす。滅びへの想像は、島の存在を危うくする。脆くする。島の存在もまた、島への絶対的な信頼の感情そのものだから。

 箱庭の大地の大部分は、高純度のマナが物質化したものだ。大地を浮かし続ける事は、

「やぱり、世界は滅ぶのですか?」

 少女が現れた。

 薄い生地と面積の小さい、情熱的な衣服をまとった少女。

 いつの間にか、目の前に現れた。

「……滅びない」

「本当に?」

 少女は笑う。

「俺が、滅ぼさない」

 勇者だから。

「良いでしょう、その言葉、わたしが皆に届けます。わたしは、巫女だから」

 少女は恭しく頭を垂れた。

 そして、軽やかに踊り出した。

 誰が演奏しているのか、踊りに合わせて軽快な音楽も始まり、歌も聞こえだした。

 ――聞け 聞け我が民よ 我らが声を聞け

 ――古き女神はここに潰えた 

 ――新たな導き手は 大地からきた勇者

 ――古き理から 我らを解放し導く者

 ――おお 我らが勇者 導き給え 理を示し給え

 ――勇者の導きは 新たな理 

 ――我らは新たな大地も手に入れるだろう

 ――勇者よ 勇者 大地から喚ばれし勇者よ

 ――我らを導き給え 今 新たなる理を

打楽器が奏でる、テンポの速い音楽には似合わない、重苦しい歌詞。

 歌詞は繰り返し歌う、導き給えと。

 くるくる踊る少女から、目が離せない。

少女は宙に浮いたまま踊る。その横ではカインが宿った少女からずっと魔方陣が描き出され続け、それを観察している客人達。

「ちょっとどうするんですの、これから! アスティが踊り始めましたわよ!!」

「もう僕にはどうしようもないよ。それに、彼女の踊りは悪くない。皆の気持ちを纏めるのには有効だ。感情を高める相乗効果も高いし、最適解じゃないかな」

「ギルベルト! もう、ギルベルト!!」

「煩いよ、アスティ」

「それよりお前、お前の妹が、」

「ああ……あれはどうなっているのか、説明を求めても?」

 男の視線は、まっすぐこちらに向いた。

 男の視線は、無感情だ。

 怒りも悲しみもない。人として、出来損ないの人形のようだ。

「……彼女は、世界の礎になった」

「簡単に言うと?」

「見たままだ、この島を固定する為の礎になった。結界が消えた今、この庭は下界に落ちる。落ちた時に、ばらけない為に礎が必要だ」

「そんな説明じゃ分からないよ思うよ、アーサー」

「カイル、意識がまだあるのか」

「この身体に刻まれた術を逆に放出して、今は庭にかけ直してるだけだからね。作業としては簡単なんだ。さて、君が一番リーダーっぽいね、僕の知識をあげるから、おいで」

 カイルは手招きした。人形の男は、疑いもなくその手を取る。

「この箱庭の事も全部、伝えるから。それに礎の事も。妹なんだって? 僕には分からない感覚だけど、大事なものなんだよね、でもね、これは誰かがやらないと、この世界が成り立たなくなるんだ。これは必要な事なんだよ」

「必然、という事だね」

「そうだよ。君も魔術師なら、分かるだろう?」

「生憎と、僕は反乱軍のリーダーだから。必然なんて糞食らえだ」

「は、」

 ぽかんとした、カイルの顔。

 人形の男は、淡々と続ける。

「しかし理解した、確かにエレンはあの状態でいる必要がある」

「う、うん。そうだよ、驚いた。ちゃんと理解してくれて、嬉しいよ。君は優秀そうだ」

「私達の、自慢のリーダーですからね、きゃは☆」

「えーと、とにかく。僕はそろそろ消えるけど、後の事は頼んだよ」

「分かった」

 どんどん話が進む。

 駄目だ、折角会えたのに。

 このまま終わりだなんて

「それじゃね、子孫達」

 ふっと、カイルの身体から魔方陣が消える。同時にカイルの身体はふらっと倒れ込み、人形の男が受け止める。

「さて、まだ不安定だね。この世界は」

「うーん、私も頑張ってるんですけどね、やっぱり私達の歌はねー、誰だお前状態ですからねー、ここはやっぱり知名度抜群の人がビシッと言ってくれたら、完璧だと思うんです! あはっ☆」

「同感だ」

「それは、そうですけど」

「どうするつもりだ?」

「声を届けよう、勇者殿の声を」

「お任せ下さい! 私の得意分野です☆」

 やめろ、もうやめろ。

 カイルも、アガスティアも死んだ。俺を残して、消えた。

 もう、何もしたくない。

 もう、放っておいてくれ――……


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