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はじまり

あらすじにはさあ異世界行けるか!? みたいな事書いてますが、異世界行きます。超行きます。嫌いな方はバックぷりーず。

期待させて申し訳ありません。

「そこの貴方、異世界なんて興味ありませんよね?」


 学校帰り。


 人少ない閑散とした住宅街の一角にて。


 唐突な女の言葉にオレは眉をしかめた。 


 念の為に周りを見回してみるが、女の他にはオレしかいない。女もオレの方をしっかりと見ていて、間違いなく先程のセリフはオレに向かって言われたものだ。


 異世界だと? 行きたいに決まってんじゃねぇか! オレの好きなファンタジー小説のパターンを教えてやろう、それは異世界モノだ。

 

 異世界モノという分類はオレ独自のものだから、これだけ聞いても分からん奴もいるだろう。


 異世界モノとは即ち、この現実世界の地球から全く別の世界に行き、そこから話が始まるパターン。


 理由は色々だ。死んじまって気づいたら異世界にいたとか、生け贄か勇者かどっちかの理由で召喚される、たまたま次元の歪みに迷いこんじまった、神か悪魔かに気紛れで呼び出されたとか、後はゲームの世界に入っちまったとか。


 そういう風に入り方は様々だが、その後の展開には一様にパターンがある。

 

 飛び込んだ先の世界は剣と魔法のファンタジー世界! 主人公は元いた世界の知識だとか、あるいは不思議な力に目覚めるとか与えられるとか、ともかくその世界にとってチートな存在となる。

 

 もし女の言葉が本当なら、オレは即答してやろう。 


「イイエ、チョー興味アリマス」


 と。


 だがオレは女の言葉を無視して歩みを進める。


 一瞬でも異世界という言葉にときめき、足を止めてしまった自分が恨めしい。


 このテの勧誘を受けるのは果たして何度目か。教えて欲しい、もしかしてオレの顔には『異世界に超興味あります』とでも書いてあるのかと。


 初めて勧誘を受けたのはいつだったか。おぼろげだがまだランドセルを背負ってた頃だったと思う。


 知らないオッサンに「坊やの知らない世界に連れて行ってあげるよ」と誘われ、その頃から異世界への憧れが強かったオレはほいほいついて行ってしまった。どこかに連れ込まれる途中、たまたま早く仕事が終わり帰る途中だった親父と鉢合わせしなければ、果たしてあの後どうなっていたことか。


 とっくに背も体重も追い越した親父に今でも心配される。余計なお世話だっつーの。もうこんないかつい高校生を誘う変態はいねぇよ。


 その次はちったぁ現実のちっぽさが見えてきた頃。オタクの聖地にて。


「そこのお兄様ぁ、異界グレイソンに興味は御座いませんかぁ? 今なら特別セール実施中で格安御料金でご案内可能となっておりますぅ」

 

 やたらと甘ったるい、本当に異世界の住人みたいな珍妙な格好した美女に誘われ、ほいほいと案内されてみれば。案内された先はただのコスプレ喫茶だった。まあアレはあれで中々凝っていて面白かったのだが、所詮はコスプレ喫茶だ。


 その次はしばらく前。


 あん時もこんな風に家の近くでの勧誘だった。


 この女みたいにどこでもいそうなおばさんに声をかけられた。


 異界に興味はありませんかと。


 これまで似たようなフレーズに騙されてきたというのに、やはりオレという男は異世界という単語に弱く、立ち止まって話を聞いてみれば。


 なんの事はない。ただの怪しげな新興宗教の勧誘だった。おまけにキミにはカリスマ性があるからすぐにでも幹部になれる、とお墨付きまで頂いた。仏教徒なんで、と丁重にお断りをしたが。


 どれも苦い記憶だ。


 もう騙されるもんかと、家を真っ直ぐに目指す。


「興味ないなら興味ないで結構なんですよ、本当に」

 

 女は口ではそう言いながら、素早くオレの前に立ちふさがった。


「あ?」


 だったら黙って通せよ。


「ただですね、貴方のお言葉を貰わないと駄目なんです。面倒ですけど」

 

 女はやれやれといった調子で肩をすくめた。


 ドスを効かせたつもりだったが、女はオレにびびる様子は全くない。


 身長193センチ、体重97キロ。

 

 自分でいうのもなんだが、かなりの巨体である。顔立ちはそんなに厳めしくはないが、だがオレに睨まれれば大抵の奴はびびって道を開ける。

 

 女はどこにでも居そうな女だ。中肉中背、黒い髪に眼。可愛い顔をしているが、取り立てて美人って程じゃない。このレベルならクラスに何人も居る。着ている服もありふれたもので、黒のジャケットに白いシャツとジーンズ、足下はスニーカーだ。 


 勧誘の仕事中にしてはえらくラフな格好だが、それがかえって親しみやすいのかもしれない。現に女はいかにも真面目くさった真剣な顔じゃなく、むしろいたずらっ子のように笑いたくてもその笑みを我慢しているみたいな、そんな顔。


 まるでオレが仕掛けたいたずらにはまる寸前のような。


「興味がないならないではっきりおっしゃって下さい。そうすれば私も大人しく消えますから、さあどうぞ」


 女はオレに異世界に興味を持って欲しくないようだ。これは新パターンだが、アレだ。そうやって気のないフリをしてかえって相手を食い付かせるのがこの女のやり口なんだろう。


 上手い手じゃねぇか。


 ぶるぶるとオレの心が、魂が、身体が震える。


 どうせまたカルト宗教かあやしい店か、それとも新しいパターンでヤクの勧誘に決まっている!


 それなのに……!!!! 頭では痛い程分かっているが……!!!!!!!!!


「興味!? あるね! 行けるものなら行きたいくらいに興味あるね!!!」


「……ち」


 答えてやると女は舌打ちした。


 そして、まるでオレが小さな子供であるかのような調子でこう言った。


「あのですね君。いいですか、そんなちょっと一泊二日の旅行とかじゃないんですよ? 異世界ですよい・せ・か・い。ちゃんと分かってますか? 私が保証できるのも片道切符のみ。往復じゃありませんからね、そこのところは重大ですよ、お分かりですか?」


 かっちーん。


 何故オレはこうまで見知らずの女に忠告されなければならない? 女の言い方をみるとオレが馬鹿みたいだが、女のセリフはまともじゃない。異世界だとか言い出している時点でアウトだろう。現実を分かっていないのはお前の方だ、この世の中に異世界なんてある訳がない。そんな非科学的なもの、ただの空想に過ぎない。

 

 パソコンの中のバーチャル世界がまだ現実味を帯びている。科学と技術の進歩は加速度的で、ゲームの世界を肌で感じられるようになるのも時間の問題とさえ言われている現代日本。


 オレはその日本に住むただの高校生だ。異世界に憧れることはあっても、もう高校生。昔みたいにほいほいとは騙されねぇ!

 

 たぶん。


「ごちゃごちゃうるせーよ! 興味あるとかないとか、てめぇが言い出したことだろう! オレは正直に答えただけだ!」


「……そうですね、これは失礼しました。確かに私は貴方がおっしゃる通り、興味があるかないか尋ねただけですね。どーも失礼、申し訳ありません」


 とことん人を馬鹿にした女だ。


 自分の非を認めてはいるが、なんだこの誠意のこもっていない謝罪っぷり。ぜってーオレのことなめてやがる!


「じゃ、改めて尋ねます」


 女は実に面倒くさげに言った。


 そしてオレが頭の悪い奴みたいに一言一言やけにゆっくりとかんで聞かせるように、こう尋ねた。


「そこの君、異世界なんて行きたかないですよね?」 





初めましての方初めまして! ファラミーアと申します。ぢつはもう一個連載書いておりまして、これはその息抜きの小説です。更新頻度は期待しないでください……。少しでも楽しんで頂けたら幸いです! よかったらもう一個の方もよろしくです。



それでは~


誤字訂正しました(11/8)

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