〈番外編〉悩める財閥跡継ぎ
数カ月なろうから離れていたら、本編の続きをド忘れしてしまいました……。
でも、なんか唐突に書きたくなりました。だから、番外編です!!
「あなたに呼び出されるとは思いませんでした」
そう言って、テーブルにココアラテのカップを置く硝樺。
「呼び出しって……。お前、出かけるって言葉知らないのか?」
「それを言うなら、あなたはデートという言葉を知らないのですか?」
腕を組む硝樺に眉をひそめた。
ある日の休日。特に予定もなかったので、硝樺とカフェで話す約束をした。
少し久しぶりに顔を合わせたのに、硝樺の表情はあまり良くない。てか、なんか不満そうにしている。
「まあ、確かに男女二人でこうして会うのはデートかもしれない。でも、お互い恋人がいるのにそんな言葉使うのは良くないだろ」
「瑞穂さんも来ると思っていましたのに。裏切りですわ、裏切り」
鋭い目で睨みつけられた。
「たまには二人で話そうと思って──」
「本当、そういうところですわよ!!」
突如、テーブルに拳をぶつけた。
「瑞穂さんという恋人がいるのに、なぜ他の女性と会おうとするんですの? あなたには、瑞穂さんの結婚相手という自覚が足りません!」
「お、落ち着けよ……!」
顔を引き攣らせながら手を振ると、硝樺はため息をついて目を伏せた。
「瑞穂は学校で毎日会える。でも、お前は学校違うからなかなか会えないだろ? だから、少しくらい顔見せてくれてもいいじゃん……!」
声が震えて情けない答え方だったが、呆れつつも頷いてくれた。
「まるで親戚のような口ぶりで気持ち悪いですが。仕方のない人ですね」
「気持ち悪いって……」
「瑞穂さんのお顔では飽き足らず、私の顔面を見に来た変態でしょう?」
「顔見せてってそういう意味じゃないけどな!? 普通に話したかっただけなんだけど!」
蔑むような目を向けてくる硝樺に、勢いよく反発した。
てか、顔見たい=変態って理論も意味わからないけど。
「どうせあなたは面食いでしょう? 瑞穂さんや弥生さんといい、あなたの周りには随分お顔が整った方がいますわね?」
「偶然だろ! 別に面食いじゃない。飛鳥からそんな印象持ってるなら風評被害だ」
「あなたの容姿の整え方も、女性に持て囃されるためにそうしているんでしょう?」
「はぁ!?……いや、否定はできないかも」
顎に手を当てて目を逸らした。その瞬間、硝樺の眉根がぴくりと動く。
「飛鳥がこうしろああしろうるさくて言いなりになってるんだ。だから、俺が一見そんなふうに見えるのは仕方ない」
「センター分けにはモテたい人しかいないって聞きましたわ」
「誰に」
「國元さんに」
「あいつかよ!!」
今度は俺が拳を叩きつけた。
「おまけに、厭らしいことしか考えていないと」
「國元の言葉なんか信じるんじゃねぇ……。硝樺に変なこと吹き込みやがって……」
「あら、違いましたの?」
「違う!」
しかし、硝樺はにやりと笑う。
「瑞穂さんが泊まった日には、このココアラテくらい熱々な夜を過ごしているのではないのですか?」
「……お前、おかしくなったのか?」
硝樺は見せびらかすようにカップを軽く振ると、ふぅふぅ息を吹きかけてから飲み始めた。
「硝樺こそどうなんだ? 郁助とそんな夜を過ごしたことあるのか?」
すると、硝樺の手がぴたりと止まった。
「ああ、まだ家に泊まったことないか」
わざとらしい笑いをこぼすと、硝樺は俺を無視してココアラテを飲み続ける。
「……黙りなさい」
カコンという音を鳴らしてカップを置く。
「う、すみません……」
ふざけすぎたと思い、頭を下げた。しかし、硝樺は立ち上がる。
「でも、安心しましたわ。瑞穂さんが温厚な方で良かったですわね。あなたのようなクズは、誰からも好かれないでしょうから」
「しょ、硝樺……! 本当に、ごめん……」
俺の声は全く届かず、硝樺は店を出て行く。
(もう、硝樺と顔合わせられないかもしれない……)
今日、俺が学んだこと。
冗談が通用しない人間の前で、安易に失礼な話は絶対にしてはいけない。




