お母さんへ、あなたの子を幸福にできなくてごめんなさい
人が人を責め立てる声。
嘔吐物を啄む鴉を横目に薄い暖簾をくぐる。
「いらっしゃい」
大柄な店主に出迎えられ、カウンターの一番奥に腰掛ける。
客一人いない店内。
薄く息を吐き出した。
メニューを眺める。
ここは麺屋か。
「ええと、油麺を一つ」
「はいよっ」
大きな鍋で何やら炒め始める。
ポケットから革でできた分厚い財布を取り出し、中身を数えた。
公営放送がおやつ時を知らせる頃、目の前に大きなお椀が置かれる。
「おまち」
ふわりと、胸焼けしそうな悪い油の香りが漂ってくる。
野菜一つない、香辛料と麺だけのシンプルな料理だった。
軽く手を合わせ、勢いよく平らげた。
治安について語るニュースを聞き、何やらぼやいている店主に声をかける。
「お勘定」
代金を渡し、外に出た。
財布からカード類を取り出し、店の影に捨てる。
商業区の方へ足を進める。
屋台で一輪の花を買った。
活気のある屋台街を通り抜けると、一際大きな建物が並ぶエリアに着く。
各店舗の入口に立つ立派な人らは、すぐに自分への興味を無くすか、逆にじっと睨みつけてくる。
微かに笑い、迷いなく進んでいく。
年季の入った煉瓦の店。
目的地にたどり着くと、軽くノックをして足を踏み入れた。
あたたかな雑貨屋。
何十年も前から販売しているのだろう、よく見慣れた品物もある。
「どうも」
挨拶をするが、老婆は新聞から目を離さない。
ありがたく店内を物色する。
マグカップ、ラグ、湯たんぽにスリッパなんかもある。
彼女ならどれもきっと気に入るだろう。
ふと、天使の装飾がされた箱が目にはいる。
空けると、幼い頃に彼女がよく歌っていた曲が流れた。
手に取り、老婆に差し出す。
「今年はこれにするよ」
「仕方のない子だね」
「当日に届くように送って貰える?」
「はいはい。手元のそれも一緒に、だろう」
「ああ、そうだった」
赤いカーネーションを差し出した。
手続きを済ませ、退店する。
日は既に落ちていた。
手にはもう何もない。




