天才魔法使いミリーの苦悩
――四人で冒険者として活動してから、もう四年か……。
護衛任務が終わり、拠点の街へ戻る馬車の中、そんなことを考えた。
「――お~~い、ミリー」
「っわっとっ」
「……やっと聞こえた。何だかぼうっとしてたけど、何か考え事?」
何度か声を掛けていたのか、ジーナは苦笑交じりに問うた。
「うん。もう皆で冒険者になってから四年が経ったんだなって考えてた」
「えっ、もう四年も経つの?」
「そうか。もう四年になるのかー」
「今に集中し過ぎて、年数なんて数えてなかったぜ」
ジーナの反応に、馬車内の前後で見張りをしているリクとザックも呼応した。
あっ、そろそろ換わらないと。
「そろそろ魔力も回復してきたし、交代しよっか」
あれ……何だか皆、困惑してる?
「ミリー……もう少し休んだ方が良いと思うぞ」
「そうそう、リクの言う通りだよ。頭も魔法も使って、ミリーは一番精神力使ってるんだから」
言って、ジーナが肩を回してきた。
「遠慮すんなよミリー。お前はこのパーティーの柱なんだからよ」
「お~、ザックが珍しく良いこと言う!」
「おいおい、珍しくってどういう意味だよ!?」
「さぁ? どういう意味でしょう?」
ジーナの返しに、皆して笑った。
私たちは、拠点――ジストリアという街の冒険者ギルドへ戻ってきた。
拠点を移したばかりだから、帰った感じはしないけど。
「フォニアさん、護衛依頼を完了したので、こちらの書類をお願いします」
「はい、確認させていただきますね…………Cランク、片道五日間の護衛任務完了を確認致しました。報酬をご用意致しますので少々お待ちください」
私から書類を受け取った受付のフォニアさんは、そう言って奥の方へと向かった。
フォニアさんとは出会って間もないけど、対応が良くて気さくだから、何だか話しやすいんだよね。
「ミリー、これで、Bランク試験受けられるね!」
「うん。そうだね」
「遂に、一流冒険者の仲間入りか~」
「おいおい、気が早いぞザック」
話をしている内に、フォニアさんが貨幣の袋と書類を持って戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが報酬になります。それと、この任務完了を以ちまして、<明朝の翼>の皆さんはBランク試験を受けられるようになりました。おめでとうございます!」
「あはは……ありがとうございます」
笑顔で祝福するフォニアさんに、少し照れてしまう。
他のメンバーも満更でもない様子だ。
「それでは、またのご利用をお待ちしております」
フォニアさんと別れ、そのまま昼食を食べに併設された食堂へ向かった。
「――おい……あの4人、<明朝の翼>じゃないか?」
「――低めの背丈に緑のフードを着た魔法使いの少女……もしかして――」
……こっちに来たばかりだからか、いつも以上に注目されているように感じるけど……。
周囲に気付かれないよう念話魔法を使う。
(ねぇ、皆、気付いてる?)
私の問いに、ジーナは何ともない様子で私を見る。
(うん。3人組が後を付けてるね)
(……勘弁してくれ)
(全くだ)
リクに続き、ザックも呆れたように呟いた。
食堂に着くと、窓際の卓が空いていたので腰掛けたのだけど……早速、3人組がこっちに向かってきた。全員男性で、体格の良い2人と細身の弓使いが1人……。
「すまない、話があるんだが、良いか?」
「何でしょうか?」
リーダーと思われる体格の良い男に声を掛けられ、私は用事を問うた。
パーティー間で話がある際、リーダー同士で話を始めるのが冒険者のマナーだ。
「俺たちは、ここらを拠点にしてるBランクパーティー<勇猛なる大地>だ。俺はグロスで、こいつらは、アレクに、ロブだ」
「お~、Bランクパーティー……」
ジーナは関心するように呟いた。
「グロスさんは、私たちのことを知ってて声を掛けたんですか?」
「そうだ。お前たち、<明朝の翼>だろ? 4人とも有名だが、特にミリー、お前は天才魔法使いとして有名だ」
「存じてます」
私がそう答えると、グロスさんは神妙な面持ちで言う。
「最近、魔法使いがいなくなってしまってな。ミリー、お前をスカウトしに来た」
「申し訳ないのですが、私はこのパーティーが良いんです。他のパーティーに加入する気はありません」
――予想通りだ。私の名が知れ渡ってから、こう言ったことが何度もあった。
評価されるのは嬉しいけど、ジーナたちは学生時代から切磋琢磨し、思い出を築いてきた仲間だ。そう簡単にパーティーを抜けることなどできない。
グロスさんは、溜息を吐いた。
「やっぱ、そうだよな。それなら――パーティーごと俺たちの所属するクランに入るってのはどうだ?」
クラン――3組以上のパーティーで結成される集団だ。
「それも遠慮します」
私の返しに、グロスさんの左――アレスさんが仰々しく口を開く。
「おいおい、クランに所属すれば、パーティー間で協力関係を築けるし、厄介事に巻き込まれても後ろ盾になってくれるんだぞ? なぁ、そこの嬢ちゃんも悪くないと思わないか?」
私から説得するのは、難しいと判断したのだろう。
「それくらいのメリットを提示されても、私たちはあなた達のクランに入らないですよ」
素っ気なく答えたジーナ。
それに、と次はリクが続ける。
「クランに入ることでクランでのルールに縛られますし、パーティー間でトラブルが起こる……それか、トラブルに巻き込まれるリスクもあります」
「一回クランに入った時は、自由に依頼を選べなかったし、俺たちに対する嫌がらせもあったな……」
「ミリーの才能に執着したクランの大勢が、ミリーをスカウトしたり、協力を要請してきたんだよね」
ザックとジーナは呆れたように話した。
「――そうか……そりゃあ残念だ。邪魔してすまなかったな」
「いいえ、お気になさらず」
潔く引き下がる3人に、私たちは安堵したと同時に、少し違和感を覚えた。
――2日後
私たちは、討伐任務を終え、冒険者ギルドへ帰ってきていたのだけど――
「――ジーナ!! お前、護衛任務で商品の万引きをしただろう!!」
グロスさんは私たちを見つけるや否や、ジーナを指さし高々と言った。
「ちょっと!! どういうことですか!? 私は悪いとなんかしてないですよ!!」
「俺の仲間に、痕跡を辿るのに特化した奴がいてな……そいつが盗まれたと思われる商品があったところを調べたが――ジーナ、お前の指紋、魔力反応が出た。依頼人の商人から証言もある。観念するんだな」
「今し方の慌てた反応……グロスさん、こいつが犯人である可能性が高まりましたぜ」
「ああ、同感だ」
グロスさんの仲間2人が同調した。しかし、2人とも、何やら笑みを浮かべている。
――冤罪をかける気だ。
「――おい、どうやらクロっぽいぞ」「――ジーナって女、一部では悪い噂もあったからな……」
「――まさか……<明朝の翼>全員が関わってるんじゃ……」
ジーナは、周囲に動揺して私を見た。
私は大丈夫、とジーナに囁く。
…………大丈夫、落ち着こう。一見、悪い状況に見えるけど、所詮は冤罪――まずは……。
私は周囲に聞こえるよう、大きめの声で話す。
「ああ、そう言えば、私たちが護衛していた商人たち――ジールバル商会でしょうか? その方々は、あなたたちのクランに所属していましたね?」
「……そうだが、それがどうした?」
私の発言が意外だったのか、グロスさんは眉を顰めた。
「実は、その方々は出会ってもいない私たちを指名したのです」
「それが事件と何の関係がある? もう証拠は挙がっているんだ。無駄話に時間をか――」
「無駄話ではありません。それとも――何かやましいことでもあるのでしょうか?」
グロスさんの後ろから、舌打ちが聞こえた気がした。
「そんなことはねぇが……まぁ、良いだろう。続きを話せ」
微かに戸惑っているように見えたけど、落ち着いている……ここまでは、相手にとっても想定内か。
はい、と私は話を続ける。
「そして、護衛任務を終え、ここに返ってきた私たちに、あなたたちがスカウトを試みた。――これって偶然でしょうか?」
「――確かに偶然にしては出来過ぎてるような……」「――いや、だが、証拠も挙がってるだろ?」
「――証拠の偽装をしている可能性も否定できないわよ?」「――あの3人も怪しいな……」
完全なアウェイからは脱却できたみたい。
と、グロスさんが強く言い放つ。
「それは、お前の推測だろう!! それとも……お前――いや、お前らも共犯か? だから、そうやって誤魔化してんだろ!?」
言葉で訴えかけようとしているあたり、証拠の偽装は完璧ではないみたい。それか……ないとは思うけど、ただの出まかせか。
「それでしたら、裁定院に裁定願を申請しましょうか? それなら確実でしょう?」
「……何を言っている? 商品の万引き……それもギルド内のトラブルなら、ギルド内で解決するのが筋だろう!」
確かに、通常はギルド内で解決するのが一般的だ。そして、冒険者ギルドは裁定院ほどの高い調査能力、鑑定能力を持っていない。
――恐らく狙いは、ギルド内で冤罪をかけることで私たちの弱みを握ること。
このままでは、ギルド内で事が進んでしまう。
状況を打破するため思案していると、
「――ねぇ、そこの君たち」
少女のような高めの声音が聞こえた。
声のした方を見ると、鍔の大きな紺色の帽子を目深に被った小柄な少女がいた。少女の周りには仲間と思われる3人がいる。
「――あのパーティーは……!」「――どうして、こんなところに!?」
4人組の登場に、場が騒然となる。
私も心中で驚いた。
声を掛けてきた少女たちこそ――国内最強のSランクパーティー<紺色の灯>だったのだから。
そして、そのパーティーを率いる彼女は――先読みの魔法使い、コルナ・マイルズ。
「なっ、なぜ……こんな田舎にいらしたんですか?」
グロスさんも流石に予想外だったらしく、言葉に狼狽の色が窺えた。
コルナさんの傍にいた、男性剣士が答える。
「なぜって……ここは田舎とは言っても、一流冒険者も通うくらい依頼が揃っているだろう? 別に高ランク冒険者が1組や2組来ても不思議じゃあない」
「それより君たち、この事件を早く解決したくない?」
「はい! 是非お願いしたいです!」
楽し気に問うたコルナさんに、私は即答。
多分、あの魔法を使うのだろう。願ったり叶ったりだ。
「良い返事だね~」
「ちょっと待ってください! これは俺たちの問題です! あなた方には関係ないはず!」
「あれ? 私たちが関わって困ることはないと思うんだけどなぁー。そんなんだと、疑われても仕方ないよ?」
そう返されたグロスさんは周囲を見やる。
「――おいおい、こりゃあ<勇猛なる大地>が黒っぽいぞ?」
「――見るからに怪しく見えてきた」
「――先読みの魔法使いが出てくりゃあ、もう解決したようなもんだな」
「くっ……お前ら、行くぞ」
そう言って、グロスさんが仲間と共に立ち去ろうとするけど――
――ヒュンッ
「何!?」「クソッ、ほどけねぇ……!」
私が事前に仕掛けて置いた拘束魔法を発動させ、グロスさんたち3人を捕縛した。
「おぉ~、やるねー」
感心したようにコルナさんは呟くと、彼女の身長と同じくらい長い紺色の杖をグロスさんたちに向ける。
「さて――君たちの事件に対する思考を公開させてもらうよ」
そして、彼女は詠唱する。
――生きとし生ける者、その心中を今ここで響かせよ
――その心中こそ、真実への導
――精神放映――
今回の一件が、<勇猛なる大地>の所属クラン――<大地の牙>による冤罪工作であることが明らかとなった。ギルドは<大地の牙>へ、クランランクの引き下げと<勇猛なる大地>のクラン脱退を命じたそうだ。
――翌朝
「おはよう、君たち」
「おはようございます」
私たちは、昨日約束した通りコルナさんたち<紺色の灯>と会った。
「朝ごはん、まだだよね? 一緒に食べながら話そうよ」
「はい。喜んで」
Sランクパーティーと話す機会なんて滅多にないから、皆で色々話を聞こう。クランに入らずやって行くコツも聞いて置きたい。
食堂の席に着いてメニューを注文すると、私から話をする。
「あの……昨日は本当にありがとうございました」
「いいよ全然。君たちみたいな有能な冒険者を失うのは社会の損失だからね」
にこやかな表情で答えると、コルナさんはそのままの調子で続ける。
「それで、早速本題に入るけど、僕たちからお願いがあってね」
「お願い……ですか?」
――あれ? 何だかこの状況……既視感があるような――
「単刀直入に言うよ? ――僕たちの所属するクランに入って欲しい」
「…………」
私は、嬉しさと苦悩が入り混じった頭を抱えるのであった――。
お読みいただきありがとうございました!
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