22・誤解
蛍花が離れてしまわないように、強く抱きしめる。
お願いだから、俺に応えてほしい。
それなのに、蛍花は俺の背中を叩いた。
「待って、ちょっと、待って!!」
強い口調で言われる。……拒絶、されてる。
「やだ、いやだっ……」
情けない声が部屋に響く。……もう、この際かっこ悪くたっていい。
それで、蛍花が同情してくれるのなら、それでもいい。
離れないと言ってくれるのなら、傍にいてくれると言ってくれるのなら。
強く、強く抱きしめる。
みっともなくてもいい。今の俺には縋ることしかできない。
すると突然、蛍花が叫んだ。
「話を聞いて、"ゆうま君"!!」
蛍花が俺の名前を呼んだことに、身体が反応した。
ずっと、榊君だったそれが、名前に変わったのだ。
今の状況を忘れて、嬉しくなる。
しかし蛍花がもう一度叫んだことで現実に戻された。
「ゆうま君、とんでもない勘違いしてる!!」
……勘違いって、どういうことだ?
◆ ◆ ◆
「かんちがい?」
蛍花を抱きしめたまま、耳元で囁く。
こくり、と頷いたのか微かに首が動いた。
「まず、別れる話をしにきたわけではありません」
……違う、のか?
予想外の言葉に、思わず目を丸くする。
蛍花は続けた。
「次に、ゆうま君は、私の1番です。他の男なんていません」
……いない、のか?というか、俺が蛍花の1番!?
「最後に。……傍にいてほしいって台詞は、こっちの台詞です」
……頭の中がパニックだ。
「え。いや、だって……は?」
すると……どういうことだ?蛍花は、俺のことまだ好きでいてくれるのか?
俺のことがどうでもいいんじゃなくて、俺のことが好きだから我慢してくれたって解釈してもいいのか?
「それって、本当?」
聞くと、蛍花はコクリと頷いた。嘘をついているようには見えない。
……そうか、俺、別れなくてすむんだ。
嬉しくて、さっきよりも強く、強く抱きしめる。
「……よかった」
それじゃあ、ハッピーエンドでこのまま愛しあっても何も問題ないよな?
そう思って、行動を起こそうとしたとき、蛍花が呟く。
「……ゆうま君、私のこと好きなの?」
意外な質問だった。