20・悲痛
「もしもし」
声が震えないように、気をつける。
もしかしたら、またあの弟かもしれない。……そうであってほしい。
まだルールを取り消していない。
それなのに蛍花自身が電話を掛けてきたら?
……その理由は明白。別れ話だ。
お願いだから、蛍花の弟でありますように。
……だが、その祈りは神には届かなかった。
『……榊君、私、吉瀬だけど』
「……蛍花?」
『話、があるんだ』
その言葉を聞いて、俺は子どものように"イヤだ!"と喚きたかった。
◆ ◆ ◆
蛍花が待ち合わせ場所に選んだのは、あの噴水のある公園のベンチだった。
……つい最近、大田と蛍花が話していた場所。
どうして、この場所を選んだのだろう?
俺の家の近くだからか?それならいい。
でも、それ以外なら?
例えば、大田と付き合うことになったから、自然と思い出の場所であるココを選んだとか。
……考えて、イライラする。
こうなる前に何も行動できなかった自分に、イライラする。
どうすればいい?どうすれば、蛍花と別れなくてすむ?
答えが見つからないまま、約束の時間が近づき……俺は家を出た。
◆ ◆ ◆
薄暗い公園の中、ベンチに座る人影が見えた。
「……蛍花」
俺が声を掛けると、人影は立ちあがる。
「……来てくれてありがと、榊君」
暗くて、表情がわからない。
きっと、俺の表情も彼女には見えていないのだろう。
――俺を見て。
そう口に出すことができずに、俺は彼女に近づいた。
「……あのね」
話しはじめようとする蛍花。
俺は少しでも先延ばしにしたくて、彼女の腕を掴んだ。
「へ?」
どうして掴むの?と言わんばかりに変な声をあげる。
先延ばしにしたい俺とは違って、蛍花はすぐに終わらせたいと思っているようだ。
……蛍花にとって、俺はすぐに切り捨てられる存在なのか?
思わず、顔を顰める。……多分、蛍花は気づかない。
「……話、聞くのは俺の家でもいいだろ」
蛍花は頷く。
その躊躇いのない態度にどうしてだか腹が立って、思わず手に力を込めた。