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19・喪失




しばらくして、俺は"怖い"と思った。

さっきまでこの腕に包まれていた温もりが無くなることが、"怖い"と思った。

寂しいとか、悲しいとか、辛いとか、そんなものじゃない。

"怖い"。失うのが、"怖い"。

どうして、こんなに"怖い"のだろう。

それはきっと、心のどこかで、蛍花はこのままずっと傍にいてくれると思っていたからだ。


電話を掛ければいつも嬉しそうな声で。

会えばいつもニコニコと楽しそうに笑っていて。

喧嘩なんて一度もしたことなくて。


蛍花の口から実際に「好き」とか「愛してる」とか聞いたことなくても、彼女はそう思っていると思っていた。

そう思っていたのが、間違いだったのか?

それじゃあ、なんでいつも嬉しそうな声で、楽しそうに笑って、俺の傍にいたんだ?

……わからない。わかりたくない。


  『アンタにオンナがいても、その()は何も感じてないってことよ』


ただ、その事実が本当であることは間違いなかった。




 ◆ ◆ ◆




嫉妬とか、そんなものウザいと思っていた。

それなのに、蛍花が俺にオンナがいても何も感じていないことがショックだった。

……ああ、そうか。

俺が別れてきたオンナたちは、俺にこういう感情を求めていたのか。

だから、わざわざ他のオンナと付き合うなってしつこかったのか。

知らなかった。

でも、今ならわかる。

俺が今までしてきた行為を蛍花がしてたら、と想像するだけで、すぐにわかる。


俺だけを見てほしい。

俺だけを求めてほしい。

俺だけを愛してほしい。

誰とも共有したくない。

俺だけの蛍花でいてほしい。


ウザいと思っていた言葉が、スラスラと思い浮かぶ。

……蛍花は俺に対してそういう感情を持っていないのだろうか?


――それは、俺が1番じゃないから?他に、男がいるから?


蛍花はそんな子じゃない。

そう断言できるほど、俺は蛍花のことを知らなかった。




 ◆ ◆ ◆




4か月。

知ろうと思えば、もっと蛍花のことを知ることができたと思う。

……けど、それをしなかったのは、俺だ。

このままじゃいけない。このままじゃ、本当に失ってしまう。

作ったルールを取り消そう。

姉貴のことも、今までの行いもちゃんと話そう。

今は1番じゃなくても、今から頑張ればどうにかなるかもしれない。

少なくとも、俺は蛍花の彼氏だ。

これからの努力で、どうにかなるだろう。


そう決意した次の日。

携帯電話のディスプレイに現れた[吉瀬蛍花]の文字。

……嫌な予感しか、しなかった。




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