17・至福
R15です。そこまでじゃないけど性描写ありなので注意。
日曜の朝。
思いきって、吉瀬に電話をする。
手にはこのまえ吉瀬が見たいと言っていたDVD。
ホラーが好きとは意外だったが、ちょうど俺も興味があったので借りておいた。
……呼びだす口実があって、非常に助かる。
『も、もしもし!』
「ん」
いつも通りの吉瀬の声に自然と頬が緩む。
「吉瀬、今日暇か?」
『うん!』
堂々ということじゃないだろ、と思わず忍び笑い。
俺は手に持っているDVDの裏を見ながら、吉瀬に言った。
「吉瀬が見たいって言ってたDVD手に入ったんだ」
来いよ、と言おうと思って止める。
よくよく考えれば偉そうな言い方だ。
昨日の大田の言葉を聞いたからか、その言い方は吉瀬に失礼だと思った。
「来るか?」
『行く!』
「……じゃあ、待ってる」
俺は、電話を切った。
◆ ◆ ◆
吉瀬の様子がおかしい。
あんなに見たいと言っていたのに、視線がテレビの上に向けられている。
心なしか、顔が青ざめているように見える。
ドンっ、ガタっという音に反応して、ビクビクと震える吉瀬。
目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
……もしかして、ホラー苦手だったのか?
そう思っていると、視線がテレビに向けられる。
そして、安堵したのか表情が柔らかくなった。……途端に現れる黒いもの。
「ひゃああっ!!」
吉瀬が、叫び声を上げて俺に抱きつく。
ふわりと香った甘い匂いに、身体が熱くなった。
けれど、吉瀬はすぐに離れて立ち上がる。
「ご、ごごご、ごめんっ!!」
その顔は先ほどよりも青く、今にも泣きそうだ。
どうして謝るんだ?と思って……気づいた。
――俺の作ったルールが、吉瀬をこんな顔にさせてるのだ。
彼女の後ろからエンディング曲が流れると、吉瀬はますます泣きそうになる。
その顔に焦った俺は、思わず彼女の細い手首を掴み自分の方に引き寄せる。
そして、赤い、ふっくらとした唇に、自分の唇をそっと合わせた。
◆ ◆ ◆
泣き顔を見たくない一心でしたことなのに、そんなことすっかり消え去っていた。
触れるだけのキス。
……それだけじゃ、満足できない。ホシイ。
我慢できなくて、そっと彼女の後頭部に手を添えると、角度を変えながら啄ばむ。
温かくて、柔らかいソレ。
触れるだけでは物足りなくて、そっと自分の舌を彼女の唇に這わせた。
ビクっとして、微かに開かれた入口に侵入する。
「……っんん」
今までに聞いたことのない甘い声に、どうしようもなく興奮した。
何度も何度も繰り返していると、吉瀬は耐えられなくなったのか俺にもたれかかる。
微かに香る甘い匂い。
彼女の手首を掴んでいた手を、彼女の細い腰にまわす。
荒い呼吸をする彼女の耳元に、そっと囁いた。
「……シたい」
頭の中は、彼女をメチャクチャにすることしか考えられなかった。
◆ ◆ ◆
欲望に憑かれた俺が意識を取り戻したのは、彼女が怯えた表情をしてることに気づいたときだった。
性急すぎたと、そこになってやっと気づく。
気づいた時点で止めてあげるべきだった。
心の準備をさせてあげるべきだった。
なのに、その怯えた表情に興奮する自分がいる。――抑えきれない。
滑らかな肌に触れるたびに、ドクドクと熱いモノが流れるのを感じた。
痛みのせいか、彼女の目尻に涙が溜まっている。
親指でそっとそれを拭えば、綺麗な瞳が俺を見つめていた。
「けいか」
罪悪感はある。
――それでも俺は、どうしても彼女が欲しかった。
◆ ◆ ◆
抱きしめる。
柔らかくて、温かくて……愛おしい。
そっと彼女の頭にキスをひとつ落とした。
腕に力を入れて、強く抱きしめる。
――俺はお前と吊りあう男じゃないし、ふさわしくもない。
――そんな俺でも、お前が俺がいいというのなら。俺を拒まないでくれるのなら。
――俺は、もう逃げない。
過去にやらかした愚かな行為はもうどうにもならないけど。
その代わりに。
この先の未来。絶対にお前を裏切らないことをここで誓う。
だから、蛍花。
どうか、お前も俺を裏切らないでくれ。




