15・叱咤
どうやって家に帰ったのか思いだせない。
気づけば部屋のベットに横たわっていた。
……吉瀬と大田はどうなったのだろう。
付き合うことになったのだろうか。
やはり、俺はフラれるのだろうか。
いつものことのはずなのにどうしようもなく虚しくなる。
大田は誠実な奴だ。吉瀬にピッタリの男だ。
……それなのに、どうしてだか納得できない。
携帯の着信音が鳴る。
大田か、と思って画面を見ると、表示されているのは[吉瀬 蛍花]
――大田のところへ行くのか。
電話を切りたい衝動に駆られるが、それを抑えて電話を取った。
「もしもし」
『コンニチハ、蛍花の彼氏さん』
携帯から発せられた声は、聞いたことのない男の声だった。
◆ ◆ ◆
吉瀬は俺以外にも男がいたのか?
動揺する俺とは違い、電話を掛けてきた男の声は冷静だった。
『勘違いすんなよ。俺は蛍花の弟。吉瀬健一。……疑うんなら、今度蛍花に聞きな』
吉瀬の弟は喧嘩腰に話しかける。
俺は、何だ弟か、と安心した。
……待てよ。どうして弟が吉瀬の携帯から電話を掛けるんだ?
その疑問を吉瀬の弟はあっさりと答えてくれた。
『単刀直入に聞く。アンタ、蛍花のこと大事にしてやってんのか?……メール見させてもらった。なんでこんなにメール送る頻度が少ないんだよ』
……吉瀬家はプライバシーというものはないのか?
そう思ったが、敢えて言わないでおく。
吉瀬の弟は続けた。
『あのさ、俺、蛍花のこと好きなわけ。1人の男として』
「…………は?」
さっき弟と言っていなかったか?
『だからさ、蛍花を大事にしてやる男じゃないと譲れない』
「……お前、弟じゃなかったか?」
とりあえず気になったとこを聞く。
電話の向こうから吉瀬の弟のため息が聞こえた。
『今はそんなこと関係ないだろ。蛍花のこと、大事にしてやってんのかしてないのか。男ならはっきりしろよ』
「……大事に、してないんだろうな」
『はあ?!ふざけんなよ!!』
思わず漏れた本音に、吉瀬の弟は激怒しているようだった。
『……アンタ、蛍花のこと遊びだとか言わないよな?』
「……今は、思っていない」
『昔は思ってたのかよっ!!』
吉瀬の弟がどこかを殴ったのが、どんっと鈍い音が聞こえ、その後に何か割れる音が聞こえた。
……机を叩いて、その拍子に机の上の何かが落ちたのか。
『げっ』と言う弟の声は、しっかりと耳に届いていた。
『と、ともかくだな!遊びじゃないんだったらしっかり大事にしてやれよ!蛍花、本気でお前のこと好きなんだからなっ!』
そして、弟は『じゃあな!』と俺の返事を聞かずに電話を切った。
……きっと、今頃割れた何かの掃除でもしているのだろう。
『――蛍花、本気でお前のこと好きなんだからなっ!』
ふと、弟の言葉を思い出して、顔が熱くなる。
……なぜだか、吉瀬に、どうしても会いたくなった。