表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/29

11・追い詰められていたのは



「榊、君?」


どうして、彼が泣きそうなんだろう、と思った。

泣きたいのはこっちだ。負けそうなこっちだ。

それなのに、どうしてゆうま君が泣きそうになっているんだろう?


「……別れない、俺、絶対に別れないから」

「え?」


言葉の意味が、わからない。

ゆうま君の綺麗な瞳から、一粒の涙が零れ落ちた。


「この際、何番だっていい。蛍花に、別の男がいたっていいから」


……何番だっていい?別の男がいたっていいから?

え、え、え?

それって、私の台詞じゃないですか?!

パニックを起こす私に気づいていないのか、ポロポロと涙を零しながらゆうま君は続ける。


「……お願いだから、俺の傍にいてくれよ、蛍花」


そう言いながら、ぎゅうっと抱きしめられる。

え、ちょっと待って。

これって、まさか。まさかの展開?

私はゆうま君の背中を叩く。


「待って、ちょっと、待って!!」

「やだ、いやだっ……」


何を勘違いしているのか、ゆうま君はひしりと私を抱きしめたまま首を振る。

……神様、これ、夢じゃありませんよね?

今までに見たことのないゆうま君に戸惑いながら、私は叫んだ。


「話を聞いて、ゆうま君!!」


ぴくり、とゆうま君の肩が揺れる。

私は、もう一度叫んだ。


「ゆうま君、とんでもない勘違いしてる!!」




 ◆ ◆ ◆




「かんちがい?」


弱弱しい声が、耳元で聞こえる。

……一体、なにがどうなってそんな風に勘違いをしたんだろう。


「えっと、まず。……別れ話をしにきたわけではありません」


思わず敬語になる。

……そりゃあ、結果的にそうなるかな、とかは思いはしたけど。

こんなに好きなのに、自分から「別れてください」なんて言えるはずがない。


「で、次に。ゆうま君は、私の1番です。他の男なんていません」


いたらこんなに苦しんでないし、虚しくもなってないし。

なにより、好きでもない人とお付き合いできるほど私は器用な性格じゃない。


「最後に。……傍にいてほしいって台詞は、こっちの台詞です」


そのために"都合のいい女"になろうと頑張ったんだ。

それなのに、「傍にいてくれ」って……なんで、懇願されたんだろう?

ゆうま君はぽかんとした顔で、私を凝視していた。


「え。いや、だって……は?」


ゆうま君が混乱してる。

……でも、どうしてゆうま君が混乱するのか、私にはわからない。

ゆうま君の噂にも、ルールにも、"夜だけのオトモダチ"にも負けなかった私が、どうして他の男の所へ行くのか。いや、行くわけが無い。


「それって、本当?」


頷く。

その途端に、抱きしめる力がまた強くなった。


「……よかった」


耳元で囁かれて、吐息が耳に当たる。……くすぐったい。

なんだか、幸せだなぁと思って……あれ?と首を傾げた。


「……ゆうま君、私のこと好きなの?」


純粋な疑問だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ