11・追い詰められていたのは
「榊、君?」
どうして、彼が泣きそうなんだろう、と思った。
泣きたいのはこっちだ。負けそうなこっちだ。
それなのに、どうしてゆうま君が泣きそうになっているんだろう?
「……別れない、俺、絶対に別れないから」
「え?」
言葉の意味が、わからない。
ゆうま君の綺麗な瞳から、一粒の涙が零れ落ちた。
「この際、何番だっていい。蛍花に、別の男がいたっていいから」
……何番だっていい?別の男がいたっていいから?
え、え、え?
それって、私の台詞じゃないですか?!
パニックを起こす私に気づいていないのか、ポロポロと涙を零しながらゆうま君は続ける。
「……お願いだから、俺の傍にいてくれよ、蛍花」
そう言いながら、ぎゅうっと抱きしめられる。
え、ちょっと待って。
これって、まさか。まさかの展開?
私はゆうま君の背中を叩く。
「待って、ちょっと、待って!!」
「やだ、いやだっ……」
何を勘違いしているのか、ゆうま君はひしりと私を抱きしめたまま首を振る。
……神様、これ、夢じゃありませんよね?
今までに見たことのないゆうま君に戸惑いながら、私は叫んだ。
「話を聞いて、ゆうま君!!」
ぴくり、とゆうま君の肩が揺れる。
私は、もう一度叫んだ。
「ゆうま君、とんでもない勘違いしてる!!」
◆ ◆ ◆
「かんちがい?」
弱弱しい声が、耳元で聞こえる。
……一体、なにがどうなってそんな風に勘違いをしたんだろう。
「えっと、まず。……別れ話をしにきたわけではありません」
思わず敬語になる。
……そりゃあ、結果的にそうなるかな、とかは思いはしたけど。
こんなに好きなのに、自分から「別れてください」なんて言えるはずがない。
「で、次に。ゆうま君は、私の1番です。他の男なんていません」
いたらこんなに苦しんでないし、虚しくもなってないし。
なにより、好きでもない人とお付き合いできるほど私は器用な性格じゃない。
「最後に。……傍にいてほしいって台詞は、こっちの台詞です」
そのために"都合のいい女"になろうと頑張ったんだ。
それなのに、「傍にいてくれ」って……なんで、懇願されたんだろう?
ゆうま君はぽかんとした顔で、私を凝視していた。
「え。いや、だって……は?」
ゆうま君が混乱してる。
……でも、どうしてゆうま君が混乱するのか、私にはわからない。
ゆうま君の噂にも、ルールにも、"夜だけのオトモダチ"にも負けなかった私が、どうして他の男の所へ行くのか。いや、行くわけが無い。
「それって、本当?」
頷く。
その途端に、抱きしめる力がまた強くなった。
「……よかった」
耳元で囁かれて、吐息が耳に当たる。……くすぐったい。
なんだか、幸せだなぁと思って……あれ?と首を傾げた。
「……ゆうま君、私のこと好きなの?」
純粋な疑問だった。