9・起爆剤のスイッチを
朝。
ズキズキする頭を押さえる。
いつの間に寝てしまったんだろう?気づけばソファの上で寝ていた。
時計を見ると、10時過ぎ。うん、休もう。
こんな状態じゃ、講義も聞いてられないし。
運よく明日と明後日は祝日。……決戦を申し込むのには相応しい日だ。
「……怖い、なぁ」
まさか、この"合戦"を自分で終わらせることになるとは。
でも決めた。もう覆さない。
私が、終わらせよう。……全てを。
◆ ◆ ◆
何度目かのルール違反をする。
携帯電話を手にして、彼の電話番号を1つずつ押していった。
ぴっぴっぴ、と押す音が耳に届く。
本当はちゃんとアドレス帳に入ってる彼の電話番号。
それでも、わざわざ押す。……押すことに、意味がある。
『逃げんなよ、蛍花』
……うん、もう逃げないよ。健一。
ありがとう。……それと、ごめんね。――お姉ちゃん、頑張るよ。
最後の番号を打ち終わると、私は深呼吸をして、起爆剤のスイッチを押した。
『もしもし』
「……榊君、私、吉瀬だけど」
『……蛍花?』
名前で呼ばれたことが嬉しくて、泣きそうになる。
――やっぱり、やめようか?今なら、まだ間に合う。
それでも、止めない。止められない。
「話、があるんだ」
……私の声、震えてないといいな。
◆ ◆ ◆
自分でも、よく頑張った4カ月だと思う。
"合戦"を続けるために、終わらせないために、頑張った。
待ち合わせに選んだ噴水のある公園のベンチに腰かける。
来ないかもしれない。……それでも待つ。
逃げない。逃げるもんか。
祈るように、携帯電話を握りしめる。
時計の針は、約束の時間の7時を指した。
「……蛍花」
……その声を聞いて、私は深く安堵した。
「……来てくれてありがと、榊君」
私は、ベンチから立ち上がった。
「……あのね」
話を切り出そうと、口を開く。
顔が見れなくて俯くと、足音がこちらに近づいてくる。
聞こえないのかな?でも、どうしても小声になってしまう。
――頑張れ、吉瀬蛍花!
自分にエールを送ると、思い切って顔を上げようとして、驚いた。
……突然現れた手が、私の腕を掴んだのだ。
「へ?」
ゆうま君の行動が不可解で、変な声をあげる。
彼の表情を見ようとしても、暗くてわからない。
この状態で話すべきなのだろうか、と思っているとゆうま君が言った。
「……話、聞くの俺の家でもいいだろ」
その声が、イライラしているように聞こえるのはどうしてだろう?
わたしは、黙って頷いた。