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泣いた悪役令嬢冬景色

作者: 山田 勝

「ウフ、私、可哀想・・・だけど、美人だけど天然で可愛らしい面もあって、実はとっても優秀なの。お父様の代わりに領地経営をしていたの」



 悪役令嬢、クリスチネが僕の家にいる。

 鏡に向かって、何か自己暗示をしている。


 クリスチネ、天然勘違い系悪役令嬢だ。


 そして、今は僕の母さんだ。



 説明する。ある日、突然、母さんとクリスチネが入れ替わった。

 どうやら、母さんは転生をしたらしい。


「ウフフフフ、オホホホホ、宅ちゃん。お紅茶を入れますね」

「はい・・母さん」



 悪役令嬢に転生をした者は、何の違和感もなく、役目を引き継ぐ。

 では、現代日本に入れ替わりで転生した異世界人は役職を引き継ぎ。僕以外周りの人達に違和感が生じないらしい。


 役所の人も普通に対応していた。どういう理屈か分からない。




「やりますわ。起業しますわ!宅ちゃんを大学に行かせますわ!」

「母さん。何をするのさ」

「起業よ!」



 いい、宅ちゃん。私は小説家ナリキリサイト、略して、ナリーによって、時空をゆがめられてここに来たのよ。多分。


 だから、小説で稼ごうとする人、相手に商売するのよ。


「どうするのさ」


「私の世界に行った緑子は、ナリキリのIDを持っているから、宅チャン。IDを登録して」


「はい」


「最初は、上級読専になるのよ」


「え、はい・・」



「まずね。名前は、思わせぶりな名前『悪役令嬢出版』よ」



 何だ。天然小悪魔系なのか?



「有名ナリー作家さんをお気に入りに登録よ。それからレビューを書くのよ」


 レビューを書くのは、沢山レビューが書かれている人気作よ。

 間違っても埋もれた名作を見つけようとは思ってはいけないわ。


 書く内容は・・・



「宅ちゃん。薬箱から適当な箱を持って来て」

「はい」


「これよ。レビューは薬の効能書きにそっくりと思ったわ。良い所と注意点を適当に・・書きかえて、薬箱を参考にしたのに、毒にも薬にもならないレビューの出来上がり。・・クス、これで、上級読専になれたわ」



 本当かよ。


 それからクリスチネ母さんは、メールを適当にナリー作家さん達に送る。

 曰く


『出版しませんか♡』


 だ。


 頭が痛くなる。


 反応が良い相手には年齢を聞く。


「17歳・・・これは未成年、無理だわ・・・親の承諾が必要ですわ。あ、22歳、大学生・・だわ。小金あるかしら」


 嫌な予感がする。



 ・・・・・・



 喫茶店で待ち合わせる。僕は外で待機だ。

 相手が来た。悪役令嬢出版の代表を見て驚く。


 クリスチネ母さんは橙色の髪を肩まで下ろしていて、アイスブルーの瞳、白いドレスでニコッと微笑む。


「え、外国人?悪役令嬢?」


「はい、私、悪役令嬢出版代表のクリスチネ、本田でございます」


「どうも、東西南北大学経済学部の君津義男です・・・」


「義男さんの『漆黒の第七層のパティ』面白かったですわ。是非、うちで共同出版させて下さい」


「はい!是非!お願いします」


「はい、これは契約書でございます。50万円の出版費用になりますわ」


「ええ、もしかして、自費出版?」


「違いますわ。共同出版ですわ。アマゾーンで電子書籍として売りますわ。私は箱を提供し、宣伝を担当しますわ」





 ・・・・・



 五分経過した。僕は言われた通りに店の外から電話をする。



 ピロピロ~~~


「はい・・え、是非、うちから出版させてもらいたい?・・でも、今、作家様とお話をしておりますの。終わったら折り返し連絡をしますわ」



「失礼しましたわ。義男様」


「あの・・人気なのですか?」

「はい、うちから出版すると、ナリー作家として肩書きが履歴書に書けますわ」


「そうか、作家か。履歴書にも書けるかも」


「ええ、そうですわ。・・・実は、私、義男様の作品のファンですの。異界断層七層から這い上がるパティの物語。肩書きはアセットになり。ナリー作家は立派なオーソライズですわ。確かに売れるのは難しいタスクですが、自分の作品を信じなくてどうします?」


「だけど、50万円は・・・」

「30万円でいいですわ」

「やります!」


 何か、電話越しに聞こえて来た。ろくでもない会話だ。ビジネス用語を適当に使っている。どこで覚えたんだよ!


 こうして、クリスチネ母さんは、初日で30万円の収益をゲット出来た。


 ・・・・・・




 ☆☆☆東西南北大学



 俺は君津義男、今、思えばとんでもない契約をしてしまった。

 バイトで貯めた30万円がパーだ。


 公告はクリスチネさんが、ツイッタラーで宣伝するぐらい。


 女友達の山本さんに相談した。国文科で同じ文芸サークルだ。


「はあ、やられたよ。山本さん・・・」

「一言相談してくれたら、即決即断はダメよ。でもね・・」


 小説なんて、例えば、全く文学の素養のない人が書いたものでも、売れるか売れないかなんて分からないのよ。


「これも、勉強代だと思って、売れれば良いわね」



 しかし、売れた。


 まず。職業的ナリーソムリエに見つかって、酷評された。


 動画だ。


『漆黒の第七層のパティはクソ!中二病全開の黒歴史!!おもんない!』

 と喧伝してくれたらしい。



 怖い物みたさに。ナリーのPVが増える。100話、25万PV,総合も1000超えた。

 俺の新記録だ。


 感想もつく。


『設定が滅茶苦茶』

『わかんなーい』

『主人公クズ!』



 中には・・・


『俺の中学生の頃に書いた小説とそっくり』

『いいですな。もう、ナリーの俺tueeeeeee

 は飽き飽きしていました』


 と書いてくれる方もいた。


 数ヶ月後、100万円近く振り込まれた。

 あの女、約束だけは守ってくれる。


 電話も来た。


『もしもし、あの君津先生次回作をお願いしますわ!印税も10パーセントにしますわ!!』


『申し訳ありません』


 だが、断った。これは偶然だ。1万以上ダウンロードされたらしい。


「山本部長、俺、趣味で書くよ」

「フフフ、それが良いわね」




 ・・・・・・・



 ☆☆☆



「宅ちゃん!今日のお夕飯はソーセージたっぷりのポトフ的なものよ!」

「はい、母さん」


「いい。これから役所に行って、生活保護を打ち切ってもらうわ。次、上手くいったら引っ越しますわ!タワマンですわ!」


「でも、君津さん。断ったでしょう・・」

「私が作家になりますわ!宅ちゃんを大学まで行かせますわ!」



 フフフフ、ナリーなんて、簡単ですわ!


 ナリーの本質はおもてなしですわ。

 うだつの上がらないサラリーマン、ニートを目標にしますわ。


 ニートが事故にあって、転生しますわ。

 貴族の家ですわ。

 婚約破棄~の。追放~の。ここで中ざまぁを入れて、田舎に行ってスローライフーの。孤児院兼剣術道場で育った弟子は皆美少女で、おっさんになった主人公を放っておきませんの。



「宅ちゃん。面白いですか?」

「いや、僕、ナリー小説は分からないよ」



 クリスチネ母さんは一生懸命にプロットを作成し、作品を投稿する。1日朝6時と夕方7時だ。

 しかし・・・・



「何ですの~!話数36で、ブクマが5に、評価無しですわ!!」



 やっぱり、読者を馬鹿にしてはいけないようだ。

 母さんは、最後まで一生懸命にナリーに書いた。

 400話完結で総合100ぐらいだ。


 現実は甘くない。



 結局、引っ越しをしないで、母さんは最初のあぶく銭を貯金して、保険の外交員になった。

 口達者で、ドレスを着て、会社や役所に行っている。


 僕は大学に進学しないで、高卒で警察官の採用試験に合格した。



「・・・公務員バンザイですわ!」

「母さん有難う。楽をさせてあげるよ」

「フフフフ、母さんも稼いでいるのよ」



 それから、数年後、彼女が出来て、結婚式をあげた。


 もちろん。母さんも呼ぶ。母であり悪役令嬢として呼んだ。この日は、クリスチネ母さんと出会った最初の日だ。冬だった。



「ええ、新郎のお母様、クリスチネ様です。ご職業は保険会社勤務、生き様は悪役令嬢・・・です」


「お母さんへの手紙、お母さんは悪役令嬢ですが、僕にとってはヒーローでした!僕をここまで育ててくれました」


 お母さんへの手紙には書けないけど。

 僕はあの時、冬の日に死にかけた。

 スロットで負けた元母さんは、僕を折檻して、水を掛けてお風呂場に閉じ込めた。




☆回想


「はあ、はあ、はあ、もう、3日も食べていない・・」


 ガランとドアが勢いよく開いて、西洋人顔のクリスチネ母さんが入って来た。


「まあ、ヒールですわ!・・・貴方、私の子供ね!私は16歳ですわ!貴方は?」


「小六・・・12歳、誰・・・」


「金貨がありますわ!今、お食事を買ってきますわ」



 ・・・・・




「グスン、グスン、母さん!私が警官になったとき。悪役令嬢だから身を引こうとしました・・・

 だけど、悪役令嬢は犯罪者ではありません!クリスチネ母さんは私を助けてくれましたぁ!ヒーローです。

 どうしても、身を引くなら、私が監視する!その時は、私が逮捕すると・・・言って引き留めました!」


「ウワーーーン!宅ちゃん、宅ちゃんが!」



 パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!



「宅朗さん・・良いお義母様ですね。今日から義娘になります。道子です。宜しくお願いします」



「グスン、グスン、道子さん・・・・このドレス、花嫁より目立ってごめんなさい。グスン」


「良いですわ。だって、お義母様は悪役令嬢ですもの」


 そうだ。私がお願いしたのだ。だって、クリスチネ母さんは悪役令嬢だもの。

 皆も、了解してくれた。


 パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!


「ええ、話だ」

「何か悪役令嬢って分からないけど、いい話に違いない。グスン」



 道子はクリスチネ母さんを気に入ったようだ。



 ・・・・・



 その後、悪役令嬢緑子が転生した小説では


 作者の都合で・・・


「あれ、何で日本人の名前になっているのだろう。年齢も48歳・・・コントロール出来なくなってきた。まるで本物の悪役令嬢みたいだから・・・ざまぁの対象にしようか。編集さんも打ち切りとあったから・・プロット作り直すか・・・残念だったな」


「先生、本当にキャラが動き出す事ってあるのですね。次回作はナリキリでもう一つの方をしましょうか?」


「お願いします」


 悪役令嬢は処刑された。








最後までお読み頂き有難うございました。

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