異世界転移して白魔法士のお姉さんになってしまった青年はショタっ子勇者にプロポーズされてしまいました。
「かいふくのおくすりちょーだいっ!」
目の前には3匹のゴブリンがいた。
あれ。
俺、さっきまでマッチングアプリで彼女探してたはずなんだけど……何故かボンキュッボンのナイスバディな体になっている。
あれ。
俺ってこんなに髪長かったっけ。
「しろまほうしのおねーちゃん、おくすりちょーだいってばっ! ゴブリンにやられちゃうよぉ……しく……しく……」
あ、察し。
俺は転移したっぽい、白魔法士のお姉さんに。
なんでや……俺はただ彼女が欲しくてマッチングアプリで可愛くて優しそうな女の子を探しt……。
「しろまほうしのおねーちゃんっ!!!」
とりあえず緊急事態っぽいので、手に持っていた液体の入った瓶を勇者っぽいショタっ子に渡した。
「はい、これ。……でいいのかな?」
「うん! あけてっ!」
自分の声が女性の可愛らしい声になっている事に一瞬びっくりしたが、それよりもこのショタっ子は瓶のフタすら開けられないのかよ……。
(キュッキュッ……ポンッ)
「開けたよ。一人で飲める?」
「けんもってるからのめないー。のませてほしっ!」
やっぱりか。
何が悲しくてショタっ子に回復薬を飲ませなきゃならんのだ。
でも、この状況では飲ませざるを得ない。
「それではお口を開けてくださいね。はい、あーん」
「あーん。ゴキュ! ゴキュ! ぷはぁー!」
か……可愛い。
さすがの俺でも、ちっちゃなショタっ子がジュースみたいにゴクゴクと回復薬を飲む姿には心がほんわかしてしまう。
ってか、俺も「あーん」じゃねぇよ!
お姉さんキャラ満喫してんじゃねぇよ!
「ちゃ、ちゃんと飲めたかなー?」
「うん! のめたっ! すごい!?」
「すごいすごーい」
ショタっ子は「ふんっふんっ」とほっぺを赤くして照れていた。
あぁ……可愛い。
彼女を作って結婚して、こんな可愛い子どもができたら最高の人生だろうなぁ……。
「ゴブリンめーっ!」
ショタっ子はちっちゃい剣を振り回し、3体のゴブリンをやっつけた。
「わーい! やっつけたぞーっ!」
「うん、かっこよかったよ……あ。お名前はなんていうのかな?」
「しろまほうしのおねーちゃん、どしたのっ! ボクのおなまえわすれちゃったの? しょーたろーだよっ」
まんまじゃねえか。
ショタっ子全開の名前じゃねえか。
……ん、そういえばここにいるのは俺としょーたろーだけなのか?
周りを見渡してみる。
「スー……スー……」
「スー……スー……」
「スー……スー……」
まじか。
黒魔法士っぽい男の子と盗賊っぽい男の子とモンクっぽい男の子が綺麗にお布団を並べて気持ちよさそうに寝ている。
ここ、草原だぞ。
「あ、あらー。みんな寝ちゃってるね。疲れちゃってるのかなー?」
「しろまほうしのおねーちゃんさっきからおかしー。きのうのよる、いっぱいまくらなげしたじゃんっ! みんなつかれてるのっ! いいのっ!」
よくねーだろ。
ゴブリンが3体も襲いにかかってきているのに危険すぎるだろ。
「んー……むにゃ。。。ボクもなんだかねむくなってきたぁ……」
しょーたろーくんが俺の膝に倒れ込んできて、そのまま寝てしまった。
「むにゃむにゃ……おやついっぱい……」
おいおいおいおい、何だよこの状況。
どうしよ。
んー……とりあえず皆が起きたら宿探すか。
***
「おらー! すーぱーさいきょうみらくるパーンチっ!」
「うごぉっ!!?」
モンクくんが俺のみぞおちを全力で殴ってきた。
普通に痛い。
この子も鼻の上に絆創膏を貼っててショタっ子全開だな……。
可愛い。
「もー! 痛いでしょ!? やめてちょーだい!」
「へっへーんっ」
全然反省していない。
ってあれ、俺がさっき商店で買ったパンがどこかに消えてしまった。
「もぐもぐ……イチゴジャムのパン……もぐもぐ……おいしい……」
あー。
盗賊くんが俺のパンを盗んだのか。
いつのまにぃぃいいぃ。
(ゴポゴポ……ゴポゴポ……)
ん? ゴポゴポ?
「いま、ボクがとくせいカレーをつくっていますので、ちょっとだけまっててくださいましっ」
黒魔法士くんが何やらカレーを作ってくれているようだ。
何だかすごく独特な香りがする。
「カレー作ってくれているんだー? ちょっと見ていーい?」
「はいっ! ぜひっ!」
(ちら……)
はい、黒い。
何がどうなってこんな黒くなったんだよ。
真っ黒すぎてもうなんだか具が全く見えない。
「黒魔法士くんー? このカレーには何が入ってるのかなー?」
「なんかくろいのをいっぱいいれましたっ!」
「そうなんだね!!!!!!」
く、食えねぇ……。
絶対に食えねぇ……。
黒いのをいっぱいって何だよぉぉお。
「しろまほうしのおねーーちゃんっ!」
後ろを振り向くと、しょーたろーくんがモジモジしながらほっぺを赤くしている。
ど、どうした?
しょーたろーくんどうした?
「お……おはなしあるっ!」
***
俺はしょーたろーくんと二人で寝室に入る。
一体何なんだ?
「どうしたの、しょーたろーくん?」
「お、おふとんっ! ふわふわしててきもちーねっ!」
いや……うん。
気持ちいいお布団に間違いはないけれど、だから何だ?
「えっと……えっと……しろまほうしのおねーちゃんは……いまどんなきもちっ?」
いや、どうもこうもねーよ。
マッチングアプリで彼女をひたすら探してたのに気付けば周りがショタっ子だらけで脳がバグってるよ。
「うーん。なんだかこのお布団のように頭がふわふわしてる感じかな?」
「ふわふわ? どゆことっ!」
「えっと、あのね。あたし……ずっと恋人を探してて。でも、なかなか見つからなくて困っちゃってる〜……? って感じかな」
「こ、こ、こ、こ、こいびとっ!!!」
しょーたろーくん、顔を真っ赤にしてどうした?
え。しょーたろーくん……まさか。
え。え。まさかだよな……?
「ボ……ボク、しろまほうしのおねーちゃんのことだいすきっ!」
うーわー。
まーじーかー。
そーれーはーやーばーいー。
「だいだいだいすきっ!!! けっこんしてほしっ!!!」
……。
そっか。
しょーたろーくんは俺が転移しちまう前からずっと白魔法士のお姉さんに恋をしてたんだな。
そんで、今やっと愛の告白が出来たってわけか。
俺より……全然すげーじゃねぇか。
俺なんか好きな人ができても告白する勇気なんて持ってなかったからな。
しょーたろーくんはすげぇよ。
プロポーズまでしちゃうんだからな。
「だ、だめっ!?」
「しょーたろーくん、ありがと。あたしもしょーたろーくん可愛くて大好きだよ」
「えっ! えっ! えっ!」
「でもね。しょーたろーくんはまだちっちゃいから、あたしと付き合って結婚しちゃうと疲れちゃうと思うの。だから……」
「だからっ!?」
「しょーたろーくんが強くなって、大人になって、魔王をやっつけることが出来たら……考えてあげる♡」
「わっ! わわわっ! やったあーーっ!!!」
「だから、一緒にがんばろっ」
これが、俺がいま言える限界の言葉だな。
無責任な事を言ってしまったかもしれねぇけど、こんな幼い男の子を振るなんて絶対にできない。
俺にそんな資格はない。
先のことなんか知らねぇ。
このままこの世界に居続ける事になるのか、現実世界に戻る事になるのかは分からない。
けどよ、しょーたろーくんの愛の勇気には完敗だよ。
***
「みんなー! 起きなさーい! 次の旅に出るよー!」
とりあえず今は先陣を切って、このショタっ子パーティーと共に前に進もう。
それが俺の役目だと思った。
「ふぁあい……」
「むにゃあ……」
「うりぁう……」
ん?
しょーたろーくんがいねぇぞ?
布団もない。
庭かぁ〜?
「おーい、しょーたろーくー……」
「ふぇぇん! ふぇぇん! ふぇぇーーんっ!」
しょーたろーくんが庭にある物干し竿の前で崩れ落ち、泣きじゃくっている。
物干し竿には湿ったお布団が干されていた。
なるほどな。
ふふ。
よーし、じゃあ……。
「おねしょをしちゃう子とは結婚しないよーっ!」
「ふえぇぇええぇぇえええぇぇぇええええんっ!」
★おしまい★