邪気眼ぱいせんと冬の大三角
干支がウサギに変わって少しした、とある休日。
僕らは久しぶりに地元の公園で夜空を見上げていた。
「こうして星空をゆっくり見上げるのも久しぶりだな」
「そうかな?……確かに、そうかもね。社会人になったらそういう余裕?みたいなの全然ないわ」
互いに地元を出て、社会人になってからはしばらく顔を合わせていなかった。
今日は高校の同窓会で集まって、さっきまで二次会のカラオケで騒ぎ倒していたけれど、あんな風に遊ぶのも久しぶりだ。
こうしてゆっくり夜空を眺める暇なんてなかった。
都会に比べれば田舎も田舎な地元。
外灯も疎らで、星を見るには最高の環境だ。
夜中は静かだし、知らない他人ばかりがせかせか動き回ってない。
地元を出て初めて、自分たちが育った場所の良さが分かった気がする。
「星座のことはさっぱりだけど、改めて見るといいもんだよな。……なぁ、あれ、あの目立つ三角形のって夏の大三角だっけ?」
「いや、今は冬だし、あれは冬の大三角でしょ」
「まじか。大三角って冬にもあったんだ」
「はは、そんなの小学生でも知ってるって!」
学生の頃みたいにバカみたいなことではしゃぐ。
それがとても楽しかった。
「ふ、闇の帳に覆われた静けさを破る者たちがいると思えば、貴様らか。随分と久しい邂逅だ…」
しかしそんな懐かしい空気をガラリと変える存在が現れた。
「そ、その声は…!」
「そしてその台詞は…!」
「「じゃ……先輩!」」
「…………」
無言で人差し指をピンと弾くように伸ばす独特な挨拶。
間違えようもない。
地元の小中高とずっと同じだった、一つ上の先輩。
通称邪気眼ぱいせんだ。
中学どころか高校を卒業してもまだ厨二病を卒業していなかったが、まさかこの歳になってもまだ続いていたなんて…!
僕らの間に衝撃が走る。
さすがに本人を目の前に邪気眼ぱいせんなんて呼べやしない、というか社会人として呼べるわけがない。
「ふ、久方ぶりの同胞との再会だ…」
「先輩、お久しぶりです」
「お変わり……ないようですね……」
とりあえず私服が全てダークカラーなのは変わりないようだった。
当時は学ランに腕を通さず羽織るスタイルで、両腕には包帯、手には指貫グローブを嵌め、左目には赤いカラコン、右眼には眼帯を付けていた。
さすがに今は冬だし、大人になって学ランは着れないからか足元まで届く漆黒のロングコートに黒い革手袋。
右半分を覆い隠すほどに長い前髪は健在だが、眼帯はしていないようだった。
腕の包帯は確認しょうがない。
冬だからあまり目立たないけれど、風になびくくらい長い漆黒のマフラーは、おそらく本来なら恋人とかと一緒に巻く2人用のものではなかろうか…
見た目はまるでアニメや漫画に出てくるマフィアや暗殺者のよう。
((い、痛すぎる…!))
学生時代はその自由な生き様に憧れていたりした。
年代的にもまぁお年頃だったわけだし。
けれど社会人になってから改めて見ると、あまりにもその見た目も言動も痛過ぎる…!
「冬の大三角、それは南東の空にある恒星たちが描くトライアングル…」
((は、始まった…!))
「おおいぬ座α星シリウス、こいぬ座α星プロキオン、オリオン座α星ペテルギウス。この3つの一等星で構成される三角形のアステリズムこそが……(以下妙に詳しい冬の大三角の解説)」
そう、邪気眼ぱいせんはとても博識で、頭も良く、仲間想いのいい人なのだ。
こうして長々とした解説が始まるのが玉に瑕だけれど、結構面白い話をしてくれたりするので好きだった。
今もこうして久しぶりに会う後輩に変わらず接してくれる。
厨二病でさえなければ、先輩はとてもいい人なのだ。
けれど…
いい歳して厨二病を患った先輩なんて、よっぱらいよりもタチが悪い!
何よりいたたまれない!
「ちなみにこの三角形の中をよくよく観察してみれば、天の川が縦断してるのだが…」
一々説明の要所要所でポーズを取るのは何なんだろうか。
ちなみに袖口から見えたのだが、邪気眼ぱいせんは未だに両腕に包帯を巻いているようだった。
そして風に吹かれて前髪が浮いた時に見えたが、アニメで隻眼の敵キャラがよく付けているような黒い仮面のような眼帯もつけていた。
先輩は、いくつになっても邪気眼ぱいせんだった。
邪気眼ぱいせんと冬の大三角、それが今年最初の思い出深い記憶となったのだった。




