第57話 倫理観崩壊ゲームで優勝した女のセリフは違うな
「どう? 美味しいかな?」
「……美味い」
俺は今、星と晩御飯を食べている。……俺が食べ進める度、星が嬉しそうに微笑んでいる。
やばい。これ。新婚生活ってこんななのかなとか考えてしまっている。
「ふふ。良かった」
「……それにしても。近くないか? というか星は食べないのか?」
星は俺のすぐ隣に来ている。……服装は相変わらず裸エプロンで。
その状態で体を押し付けてくるのでもう臨戦態勢だ。多分百人斬りとかいける。
(私を百人斬り!?)
当たり前のように増えるのやめような。お前は一人しか居ないだろ
(そんな……みーちゃん。確かに正妻は一人私しかいないけど)
言っとらん言っとらん。
「……わ。すごい。もうかっちかちだ」
「星さんも撫でるのやめてくれませんか! 割と暴発寸前なので!」
「……一回見てみたいな」
「ダメです! そんな水族館に行きたい彼女が彼氏に言いたいけど言いにくいから独り言っぽく呟いてみようみたいなテンションで言ってもダメです!」
(ツッコミが長い。十五点)
辛口だな!?
そうしてどうにか……どうにか。食事を終えた。後半は星にご飯をあーんし続けていた。鳥の雛のように食べる姿はとても愛嬌があった。
「ご馳走様でした。……めちゃくちゃ美味かったです」
「はい、私もご馳走様。……あーんしてくれてありがとね」
星はそう言って笑い、お皿を取ろうとした。
「いや、俺がやるよ。星は料理を作って疲れただろ?」
「……じゃあお言葉に甘えようかな」
俺は星へと頷き、お皿をまとめてから台所へと持っていく。
そうしてお皿を洗っていると……星が近づいてくる足音が聞こえた。
「ね、未来君」
「……なんだ?」
「未来君っていいお父さんになりそうだよね」
俺は思わずお皿を落としそうになった。
「い、いきなり何を言い出すんだ?」
「ただ思っただけだよ。……美味しいってご飯を食べてくれて。お皿まで洗ってくれる。子供にとってもいい見本になるんじゃないかな?」
「……分からんぞ。もしかしたら最初だけかもしれない」
「んー……それは無いと思うな。未来君だし」
星が俺を見てニコリと笑った。
「いつか。答え合わせしてね」
「……はぁ」
俺はその言葉に返せないまま、お皿を洗い続けた。……ずっと、それを星はニコニコと見続けていた。
◆◆◆
一方その頃未来の家。
「倫理観崩壊ゲーム!」
「いええええい!」
「何その頭悪そうなゲーム。人としての価値を落としそう」
「失敬な! これはみーちゃんをどうやって犯すか競うゲームだよ! よりみーちゃんの心に爪痕を残せた方が勝ちね」
「いえええええええい! ちなみに私と零ちゃんとの戦績は3883戦0勝3883敗ね。今日こそ勝つんだ!」
「あんたらほんとに人間? 地獄の灰汁を濾して作った悪魔が考えそうなゲームなんだけど」
「私、未来君とえっちしながら爪を剥ぎ取って……はぁ♡その表情をずっと見ていたいな」
「初手から優勝候補来たわ」
「みーちゃんが痛いのはちょっと……」
「さすがに引くよ、静ちゃん」
「提案者が引くってなんなん? そういうゲームじゃないの? ……ちなみにあんたら二人は何を考えてたの?」
「みーちゃんの――を――して――しながら――――――――」
「凄いね。半分以上理解出来なかったんだけど、そこのヤンデレよりやばい事言ってるのは分かった」
「―――――――――――」
「もう妹は全部理解出来ないんだけど。なに? じ、人格、なに? スライム? 何それ、聞いたことないんだけど」
「さ、咲ちゃん。あんまり聞かない方がいいと思います」
……。
◆◆◆
なんか地獄の八丁目を垣間見たような気がするが。気の所為という事にしておこう。
(あ、試しにやってみたけどやっぱり視界共有出来るんだ)
気の所為という事にしておこう!
「そ、それで。本気で入るつもりなのか?」
「当たり前でしょ?」
俺は皿洗いを終え……星に風呂に入ろうと言われた。
もちろん、水着着用などではない。全裸だ。人類最古の姿だ。
「零ちゃんとは入ったんでしょ?」
「そ、それはそうなんだが……」
「なら私と入っても大丈夫だね!」
半ば無理やり俺は脱衣所へと連れてこさせられる。
「もう、覚悟決める! ……それとも私が脱がせてあげよっか?」
「……分かった、分かったから! さすさすなでなでくりくりしないで!」
怪しく俺の体を這いずり回る星の手から逃れ……俺はヤケになりながら服を脱いだ。
「……すっごぉ。これが27.3cm……」
「だから具体的な数字出さないで!」
隠そうにも手で覆い隠しきれない。腕全体を使わなければ……。
いや、もう諦めよう。どうせ風呂には入るのだ。
「……それじゃあ、私も脱ぐね」
「お、おう……」
星がエプロンの紐を解いていく……。ど、どうにかおっ……視線を外さなければぱい。
「もっと……見ていいんだよ?」
「やっぱり今日火力高くありませんか!? ソシャゲの周年キャラみたいになってますよ!」
「その例えはよく分かんないかな……」
「もっと全人類がおっぱい分かるようなツッコミをしなければ」
やべ。サブリミナルおっぱいをしてしまった。サブリミナルおっぱいってなんだよ。ふざけてんのか? ふざけてないとまじでえっちな漫画みたいな事になるんだよ! ふざけんな!
ああもう、頭バグる。いや、もうとっくにバグってたな。はは。
逸らせ……意識を。集中だ。大丈夫だ。俺ならやれる。お乳。じゃない。落ち着け。そのネタはこの前使っただろう。
「……どう、かな? 未来君。……私の体、変な所とか……ない?」
「そんな事言われたら俺の内なる男子高校生が騒いじゃうんですよ! ダンシコウコウセイ……ダンシコウコウセイ! って!」
「それもよく分かんないかな……」
俺もよく分かんないです!
ああもう……結局見てしまった。
星の……童顔とは不釣り合いな程に大きい胸。しかし、形が崩れていることも無く……その体にはシミ一つ無い。
そして……その引き締まったお腹の下は……。アッ。
「……ッ。未来君の。ビキビキッて。またおっきく……」
「表現がエロ漫画のそれなんよ」
だがまあ。言いたい事も分からんでもない。他に表現方法ないよな。
……それはそれとして。
「と、とりあえず。欲情……じゃない。浴場入ろう」
隠しきれない男子高校生の男心……。それを隠すように、俺は風呂場へと向かう。いや、全然隠しきれていないのだが。物理的にも。
風呂場はシンプルな作りだ。シャワーを浴びるスペースと、浴槽。浴槽にはお湯が張られており、煙がもうもうと立ち込めている。
……よくあるアニメのやけに多い煙さんと謎の光さん仕事してくれませんかね。
(現実世界にそんなものないんだよ、みーちゃん。現実見て)
生霊にだけは言われたくねえなぁ!
「そ、それじゃ……体。洗おっか。どっちから洗う?」
「先に星から……洗っていいぞ」
俺は後ろで精神統一をしておこう。心頭滅却すればおっぱいもただの肌だ。
「……ね、未来君。洗いっこしよ」
「洗いっこ!?」
「うん、洗いっこしよ。シャンプーとリンスこれね。はい、お願い」
「勢いで押せば俺がやると思ってないか?」
「ふふ。未来君、優しいもんね」
「ぐっ…………はぁ。分かったよ、洗えばいいんだろ」
「やった♪」
まあ、頭を洗うだけなら……と俺は場所を変える。そして、頭を下げる星の頭にシャワーを当てて軽く濡らし、シャンプーを泡立てた。
「……それにしても。桃色なんて思い切ったよな」
「ふふ。お母さんにも、美容院の人にも驚かれたけどね。……でも、自分を変えたかったから。次に未来君に会った時に、もっと魅力的な女の子になれるように」
「そ、そうか……かゆい所とかないか?」
「ううん、大丈夫。気持ちいいよ」
そうして雑談を挟みながらどうにか……シャンプーとリンスで頭を洗い終える。
「……それじゃあ未来君、次は背中をお願いね」
「…………これが叙述トリックか」
「や、普通に洗いっこしよ? でおっけー貰えたから言ってるんだけど」
洗いっこ=頭という固定観念が結びついてしまっていた。
「……ちなみに洗う用のタオルとかは?」
「ないよ。だから手で洗ってね」
「………………分かった」
手だと背中は洗いにくいもんな。仕方がない。
俺は星の背中側に移動してエッッッッ。
エッッッッ? エッッッッすぎない? 女の子の背中ってこんなにエッッッッだったっけ?
やばい。何がやばいって、背中からおしりにかけてのラインがやばい。やばい(語彙力の喪失)
落ち着け。心頭滅却すれば背中もただの肌。……いや、それはそうだろう。
とりあえず俺はボディソープを手に出し、泡立てる。
……そして。
「さ、触るぞ?」
「う、うん」
少し緊張しながらもその肌に触れる。……。
なんで女の子の肌って全部すべすべでやわっこいん?
落ち着け……蒼音未来。お前は背中どころかおっぱいがいっぱいになっていた時もあっただろう。これぐらいで慌てるな。
でもでも。シチュエーションとかってあると思います。
……ぐ、ぐぬぅ?
というか背中越しからでも星の心臓の音が聞こえてくるのが一番えっちです。というかそのせいです。
し、しかしだな。心頭滅却すれば……
そんな事が出来たらとっくの昔に俺のモノは鎮まってるんだよ!
という脳内会議を行いながら、俺は星の背中を洗っていく。……待て。理性君論破されてなかった?
「……ね、未来君」
「な、なんだ?」
星が……俺の手首を掴んだ。
「えいっ」
「ふんにゅぽぎょぁ!?」
その手がめちゃくちゃに柔らかいものに触れた。……星のおっぱいだ。星ぱいだ。ぱい星だ。
「なななななななな何を?」
「……好きでしょ? 男の子ってこういうの」
「大好きです! ……じゃなくて!」
「ほらほら、にゅるにゅるおっぱいだよ?」
「やめて……男の子に一番効くセリフ&行動を取らないで……」
星が俺の手を動かし、その豊満なおっぱいにボディソープを塗りたくる。めちゃくちゃ目に毒だ。フグ毒の8000倍くらいの毒性だ。俺じゃなきゃ死んでるね。
てかやばい。まじで。おっぱい+白い粘性の液体の組み合わせに勝てるの居なくない?
しかも……やわらかぁ……。
「……えい!」
「星さん!?」
急に星が抱きついてきた。……そうなると当然、そのおっぱいも押し付けられる訳で……。
「ふふ。次は私が洗ってあげるよ、未来君」
「耐える! 俺は耐えるぞ! 負けないからな! おっぱいになんて絶対負けないからな!」
三十秒後
「やっぱりおっぱいには勝てなかったよ……」
俺の反骨精神も虚しく、勝てなかった……この時点で俺のヒエラルキーが乳よりも下である事が発覚してしまう。
「……へえ。負け、認めちゃうんだ」
「そんな獲物を追い詰めた虎みたいな顔しないで!めちゃくちゃ怖いんだけど!?」
「ね、未来君。……未来君の体でまだ洗ってない所、あったよね」
「……!」
そうして星が見てきたのは……俺の肥大化したとある部分。
「そこ、丁寧に洗ってあげるよ?」
「全力で遠慮します!」
「大丈夫だよ。一回はしてるんだし。二回も三回も変わんないよ」
「俺が酔っぱらっちゃった時本当に何があったの!? とにかく俺は最後まで戦うからな!」
……そうして。苦闘五分。俺はかろうじて、星との対決に勝利した。その後頭を洗い、二人仲良く湯船に浸かったのだった。
◆◆◆
「……ね、未来君。しよ?」
なあ。ピンチを切り抜けたらどうなるのか知ってるか?
知らないのか?
ピンチが始まるんだよ。
俺の目の前には、全裸の星が居た。……ここは風呂場ではない。星の部屋である。
そこから導き出される答えは……。
まあ、そういう事だ。
「いやしないが? 流されないぞ? 俺は」
「チッ……やっぱり無理か」
「星って結構強かだよ……な……?」
俺は流れるように(略)
「なんかすっごいデジャブなんですが」
「んー? なにが?」
「分かってやってますよね! ぅ……あ、やめて! 撫でないで!」
「とか言いながら準備おっけーじゃん」
「男子高校生ってね? 女の子のパンチラでもおっきくなるんです。おっぱいを押し当てられたりさわさわされておっきくなるのは生理現象なんですよ」
「……でも、準備が出来てるって事は覚悟が出来てるって事だよね?」
「そんな零みたいな事を言わないでくれ!」
「あはは。いまなら気持ちもわかるかも……ね」
「やめて! ツッコミ枠がボケ枠に移動したら負担増えちゃうから!」
「や、そういう意味じゃなくてね? ……素直になるのって楽しいなって」
星はがそう言って……俺に体を預けてくる。色々なものが当たってやべえことになっていた。
「……ね、未来君」
「それより体を離してほし「そんな事よりさ、言いたい事があるんだ」」
星が俺の目をじっと見てそう言った。……俺は色々なものを飲み込み……一つ。ため息を吐いた。
「なんだ?」
「私さ。何があっても未来君から離れるつもりはないよ。……どんな形になっても、未来君の傍にいる。別に許可とか求めてるわけじゃないからね。宣言みたいな? そんな感じ」
その言葉の意味が分からないほど……俺は愚鈍ではないはずだ。
だが……本当にその解釈を肯定する事は。まだ、出来なかった。
「未来君はすっごい真面目で、一人一人とちゃんと向き合おうとするから。まだ認められてないんでしょ? ハーレム」
「……俺は」
口にしようとした瞬間、星が俺を抱きしめた。その力は驚くほど強い。
「悩む必要なんかない、って言えたらいいんだけど。その言葉が一番未来君を傷つけるからね。……未来君がちゃんと考えてくれてるって事だから。嬉しいよ。でもさ。一つ、覚えておいて欲しいんだよね」
星のねっとりと、甘い吐息が耳に絡みついた。
「未来君。今、みんなに童貞狙われてるんだよ?」
「……は?」
「あれ? 気づかなかった? この前、彩夏ちゃん達が寝起きの未来君にアタックしたじゃん。あれは彩夏ちゃんなりの私とか零ちゃんに対する宣戦布告だったんだよ。『一番は渡さない』っていう」
まさか、と声が出そうになったが。俺の口からは掠れた空気の抜ける音しか出なかった。
「この前、零ちゃんに話されたんだよね。……私と彩夏ちゃんが元々、未来君の自己肯定感を上げる『道具』としてしか見ていなかったって」
俺はその言葉に目を見開いた。
「……待て。零はそんな事を考える子じゃない」
「大丈夫大丈夫。そんなに長い付き合いじゃないけど、それは私達も知ってる。……でも。もしかしたら『利用する』って気持ちはあったのかもしれない。だから、零ちゃんはわざと誇張した言い方をして、私達から罰を受けようとした……って考えてるよ」
……それは。ないとは言えないな。
「それでさ。零ちゃん。何度も謝ってきたんだ。……あ、色々あったけど零ちゃんとはまた仲良くなってるからね? それと一緒に、零ちゃんに言われたんだ。……本当に『ハーレム』にするのはどうかって」
「……その時話したのか」
「そーいう事。……私と彩夏ちゃんはね。すぐおっけーしたんだ」
「……どうして?」
俺は思わず疑問を吐露した。そんなすぐ受け入れられる事ではないだろう。
「いつか。未来君がさ。私達の中から誰かを選んで……それで。傷つかないはずがないんだよ。未来君、優しいから。私も彩夏ちゃんも、もちろん零ちゃんも未来君には傷ついて欲しくない。……それに。最近さ、結構楽しいんだ。零ちゃんと、彩夏ちゃんと一緒に居るのも。将来は皆で一緒になるのも楽しいだろうなって。思っちゃったんだ」
「……そうか」
「うん! それに……今日、また未来君と過ごして。……私。本当に未来君が大好きなんだって強く思ったよ」
また……ストレートな愛の言葉。抱きしめられていて逃げられない。
「大好きだよ。未来君。でも、だからこそ未来君の負担にはなりたくないんだ。……彩夏ちゃんも言ってた通り、未来君とはもう絶対に離れたくないってのもあるけど」
「……」
「ちょっと話が逸れちゃったね。……でも、これだけ聞きたいな。未来君はハーレムについてどう思う?」
俺は……一度。目を瞑った。
「……俺は元々、卑屈だ。零とは釣り合わないからと気持ちを受け取らず、星と彩夏の気持ちも蔑ろにした。…………だが。最近は楽しいんだ」
零達にエロいことをされるからではない。……いや。それを楽しんでいないと言えば嘘になるが。
「星にも会えた。彩夏にも会えた。……二人と、零と新と毎日を過ごして。ハーレム対決とかいう馬鹿げた事にも参加して。……静に監禁され、咲と出会って。……めちゃくちゃな日常だ。…………だが。手放したくないと。そう思い始めてしまったんだ。自分の優柔不断さに嫌気が刺すが」
なんて都合のいい事を考えているんだ。……物語の主人公ならば、誰か一人を選ぶ気概を見せるだろうに。それか……全員を背負っても歩ける甲斐性を持っているはずなのに。
俺はとてもではないが……あんな、キラキラした存在にはなれない。ただの、欲深くて卑屈な一般人だ。
「本当に……こんな考えを持っているようじゃ、自分の価値を下げるだけでしかないのにな」
「……未来君ってすっごい常識人だよね。ちゃんと欲を持っていても、理性で制御出来てる。その理性が未来君のいい所でも悪い所でもあるんだけど」
俺は全身の力を抜いた。
「……ま、そこはゆっくりだね。未来君の理性をじっくりねっとり溶かしていくしかないし」
「言い方」
「なんなら今すぐどろどろに溶かしちゃう?」
「……非常に魅力的な提案だがやめておこう」
「とか言いながらずっと準備万端だったり?」
「真面目な話をしていてもずっとおっぱいが当たってるんです! 仕方ないと思います!」
しかもちょっと汗ばんで凄いことになっているのだ。真面目な話なので全力で気を逸らしていたが。
「ま、零ちゃんからもシリアスな話は一話で終わらせるように言ってたし」
「一日じゃなくて一話なのかよ」
「その辺は私もよく分かんないんだけどね」
「んー、一話にしてはちょっと長いかな」
「なんで当たり前のように部屋に入ってきたの?」
気がつけば部屋の中に零が居た。全裸の美少女と抱き合っているなど、傍から見れば修羅場そのものだろう。
「そろそろギャグ枠としての務めを果たさなきゃって……倫理観崩壊ゲームの結果聞く?」
「俺のSAN値がピンチになりそうだからやめとく」
「残念……ちなみに優勝したのは私ね」
「静に勝ってて欲しかったな……なんでカニバリズム系サイコパスに勝っちゃうのかな」
「それより3Pしない?」
「倫理観崩壊ゲームで優勝した女のセリフは違うな。倫理観再生ゲームをしろ」
「……それより零ちゃん。今日は私と未来君二人きりにしてくれるって聞いてたんだけど」
「あ、すぐ居なくなるから安心して」
そして、零は部屋から出ていった。
「なんだったんだ……」
「さあ……? というかどうやって入ってきたんだろ……」
「零ならありえなくもないが……あとそろそろ離れてくれませんか星さん」
「もー、しょーがないなー」
そうしてやっと……星が離れてくれた。
「……でも未来君。それじゃ眠れないでしょ。出しとく?」
「出しません。ほっといても寝れます」
「ちぇー」
とにかく、やっとこれで眠る事が出来そうだ。俺は安堵の息を吐くと……手に、暖かいものが触れた。
「普通こういう時って手を握るとかじゃないんですか?」
「こっちの方が未来君喜ぶかなって」
「喜んでしまうのが男の子の性……」
おっぱいやわっこぉ……じゃない。正気を保たねば。
すると、俺の胸に暖かいものが触れる。……星の手だ。
「……未来君、どきどきしてる」
「お互い様だ」
「ふふ、結構勇気出してるんだよ? 今日」
……そうだろう。元々は内気な子だった。こんな事をするとは夢にも思わなかった程には。
「……悪かったな。ヘタレで優柔不断で」
「こーら。卑屈にならない。……私はそんな未来君が好きなんだから」
そうして、星が近づいてくる。先程もそうだったが……甘く、少し爽やかな匂いが鼻腔をくすぐってくる。額がこつんと当てられた。
「……お前も厄介な男を好きになったんだな」
「ふふ、そうだね。……でも、幸せだよ、私」
「……そうか」
そう言って、星が柔らかく微笑んだ。……星が幸せならいいか。
……せめて、この顔を曇らせる事のないようにしないと。
俺はそう考え……目を瞑った。
「おやすみ、星」
「うん、おやすみ。未来君。明日ね」
長い一日がやっと終わる。……明日からはまた、日常が繰り返されるのだろう。
……しかし。その日常は、また直ぐに終わりを迎えるのだった。




