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第54話 常人は狂人の真似はできないけど、その逆は出来るんだよ

 さて。狂った日常が戻ってきた訳だが。


「みーちゃんみーちゃん。みーちゃんって開発されるならおしりと乳首どっちからがいい?」

「それ学校でする質問か? 本当に」

「私は未来君のおしりからがいいと思うな……一緒に女の子の気持ちよさ、知っちゃお?」

「カロリーが高い。この会話」

「ね、未来君。上手くハンバーグ作れたんだ。食べてみて」

「……未来! 私の唐揚げも食べてみてよ!」

「カロリーが高い。この弁当。あ、ありがたくいただきます」


 身も心も太りそうだ。筋トレをせねば。


「……あの、未来さん。大丈夫ですか? 色々増えちゃいましたけど。心労とか、余計な負担はかかっていないでしょうか?」

「凄い。泣きそう。ガチで。この作品唯一の良心だわ」


 このカオス空間の癒し枠である彩夏が柔らかく微笑んできてくれた。……いや、星と咲は割とまとも枠だとは思うのだが。


 ちなみに、あの後上手く彩夏と咲は仲直り出来たらしい。本当に良かった。


「でも本当に大丈夫でしょうか? ……その。気づいていなかったら申し訳ありませんが。視線が……」

「ん? ああ。分かる。やばいよな。ゲロ吐きそう」


 賑やかになった分、視線も強くなっている。当たり前なんだよな……静も咲も男子から人気だったし。


 その時、疑問が一つ湧き上がった。


「……なあ、静。ふと思ったんだが聞いてもいいか?」

「なんでもいいよ! 週に未来君の事を考えておな「昼間から下ネタはやめておこうな」35回だよ!「話聞いてた? てか多くない?」」

 その狂気的……否。猟奇的な瞳を見ながら俺はその疑問を吐露した。


「……自分で言うのもなんだが。お前、どのタイミングで俺の事好きになったんだ?」


 ……そう。静とは委員が同じだった。それだけだ。中学も違うし、それ以外ではほとんど関わりがなかった。


「え? 委員が決まった時だけど」

「へえ。そうだったのか。……は? 決まった時?」

「うん」


 当たり前かのように静が言う。……念の為、俺はその時の事を思い出した。


 ――――――


 あの時も俺は当然ぼっち。いや、豪とは喋っていたか。……とにかく、まだ友人がほとんどいない時に委員会決めがあった。あれから男友達が増えていないのはさておき。


 高校からはもっと積極的に動いていこう。どこかの委員はやろうと考えていた。


 ……そんな時だ。


「ええと、他に遠足委員。やってくれる方は居ませんか?」


 先生のその言葉に俺は訝しんだ。


 今、遠足委員に立候補しているのは浜中静という一人の少女。The・文学少女みたいな感じの子なのだが。今どき珍しくて逆に目立ちそうだ。


 その顔立ちも整っており、人気のありそうな子だ。彼氏が居てもおかしくない。


 ……そんな子と同じ委員ならみんな進んでやりそうなものだが……と、俺は周りを見た。しかし、俺はそれを見て思わず困惑してしまう事となる。


「……えぇ?」


 男子共の顔は……一律してこう告げるようだった。


『ま、まあ? 誰もやらないなら俺がやってあげようかな?(意訳)』

 と。

 いや、ある程度悪意的な受け取り方をしていそうだと俺も思う。しかし、後で豪から聞いた所本当にそんな感じだったらしい。


 そんな連中に……俺は腹が立って立候補した形となる。



 ……俺は、いつも二人組を作ってと言われたら余る側だったから。零が居る時は半ば無理やり組まれるが。


 とにかく、この一人で居る時間は結構きつい事は分かっている。


 俺は躊躇う事なく手を挙げたのだった。


 ――――――


「うん、その時のことだよ」

「惚れる要素なくない? チョロイン? チョロインなの?」

「まあ……それはあんまり否定しないけど」

「否定しないんだ……」

「お母さんに言われてたんだよ。恋は一度道を決めたら突っ走れって」


 静は……そう言って微笑んだ。


「直感みたいなものだよ。でも、その直感は間違いじゃなかった。同じ委員をやっていく上で、それは確信に変わったんだよ」


 ……その瞳は確かに狂気を孕んでいる。しかし、それ以上に……。



 覚悟を持った目であった。


「明らかにやりすぎだけどね。みーちゃんの拉致監禁処女をよくも……」

「恐ろしい処女を作ってんじゃないよお前は」

「ついでに言っとくと、本当は自分が同じ委員になりたかったから星ちゃんが嫉妬してたりする」

「零ちゃん!?」

 零の言葉に……星が驚いた声を上げた。


「……そうだったのか?」

「そーじゃなくて。いや、そーなんだけど」

「本当は同じ委員になってから少しずつ正体を明かす予定だったんだよね。最初の友達になろうとしたら相葉君に邪魔されて出来なかったから敵視してるし……」

「なんで分かるの!? え!? 私の心も読めるの!?」

「自分ならそうしたかったかなって……」

「……」

「常人は狂人の真似はできないけど、その逆は出来るんだよ」

「だから心読まないで!? てかさすがになんかやだなとか思ってないから! ちょっと怖かっただけだから!」


 ……やけに豪と仲が悪いなとか思っていたが。それが原因だったのか。


「あ、そういえばみーちゃん。結果的には違ったけど、相葉君が静ちゃんの家特定したからね」

「……え? あれ静の家じゃなかったの?」

「去年亡くなった祖父の家だよ」

「その家でナニしようとしてくれてんの???」

「ちなみに祖母は祖父をあの部屋で逆レイプしてお母さんを作ったんだよ。それとお母さんもあの部屋でお父さんをヤッたの」

「そっかぁ……血筋かぁ……とはならないよ!? 孫とか娘になに聞かせてんの!?」

「……あとちょっとだったのに」

「まじでありがとな? 零。いやもうまじで」

「ふふ。お礼はみーちゃんの人生全部ね」

「悪魔みたいなぼったくりかたしてんな」

「え? そんなに子供作りたいの?」

「どう足掻いても結婚ルートに入るね」

「結婚はゴールじゃなくてスタートなんだよ、みーちゃん」

「いい言葉だな。お前が使わなければ」

「したくない? お互いの快楽だけを目的とした欲望ダダ漏れえっち」

「したらこの世界が消えてしまうな」

「世界が無いなら作ればいいんだよ」

「そこに無いなら無いですで良いんだよ!」

「ちょっとちょっと、会話の方向性が違ってきてるから」

「そうだよ。てか方向性の違いってバンドの解散理由かよ」


 俺はその言葉を聞き……咲の手を掴んだ。


「ひゃっ……な、何? いきなり」

「……ありがとう、咲。この「ハーレム」メンバーに入ってくれて……おいまて。なんかノイズ入ったぞ」

「ほ、本当にいきなり何さ」

「この「ハーレム」メンバーは深刻なツッコミ不足だったんだよ……時々星もボケにまわるし……お前が来てくれて良かった! これでツッコミ不足も解消だ!」

「べ、別に……未来のためにツッコんでる訳じゃないし」

「うん、それはそうなんだろうけど。初日から未来君の好感度稼ぎのためだけにツッコミしてたらそれはもう天才だよ。あと未来君? 君も時々ボケるんだよ?」

「時々発散しないとツッコむ気力がなくなるんだよ」

「時々二人だけでボケ合う時とか、ツッコミ不在で気がついたら一時間とかなるもんね」

「なにその人工地獄……」

「星! それはツッコミパクリだぞ! 夫婦漫才RTAの時に使った奴だぞ!」

「や、あれ人工地獄×2とかだったでしょ」

「……それならギリセーフか」

「ね、そろそろ収集つかなくなってんだけど。お昼の時間なくなるよ?」

「うおっ、まじだ。……でもその前にちょっと時間貰うな」


 俺は一度弁当を置き、立ち上がった。そして、友人達と話している豪の所へ向かう。



「豪、この前はありがとな」

「ん? ああ、気にすんな。困った時はお互い様って奴だ。それに遠巻きにお前を見てるだけでも面白いしな。……それと、浜中の家知ってたのは俺の彼女だし」

「そうだったのか…………待て。お前彼女居たのか?」

「ん? 居るぞ? 言ってなかったっけ」

「初耳タコなんだが」

「いやそれどっちだよ……ま、どっかのタイミングで紹介するわ」

 そうして会話をしていると……横を通りがかった男子生徒が豪へと口を開いた。


「ははっ。良いのか? 豪。取られちまうぞ?」

「このままだと学園の美女十選全員こいつに取られちまうんじゃないか?」

「なにその日本の秘境みたいなまとめかた……」


 ああもう、またフラグ建ったし。でもそうそうフラグなんて回収しないもんな! ……しないもんな。今のところ全部回収してるけど。


 ……フラグの折り方を後で調べておこう。


「……お前らこいつを舐めてんの? こいつは誰かから寝取るとか取ったりしてねえぞ。ただ、イケメンだったから女が寄り付いてるだけだ」

「へっ。こいつ別にイケメンでもないだろ」

「そんなんだからモテねえんだぞお前……でも、こいつ見てたら思うんだよな。人間、本当に心の方が重要視されてるんだって」

「豪……キュン」

「やめろ。俺は攻略対象じゃないぞ。……とにかく。こいつに理性で勝てるようにでもならんとモテんぞ。……血迷った挙句に男を襲おうとした奴らにそれは無理か」

「ぐっ……覚えてろよ!」

「おう、一昨日来やがれ三下」

「お前……いらん喧嘩売るよな……」

「その方が面白いだろ。俺はノリと勢いだけで生きてるんだよ」

「実はこいつも割と理性失ってんだよな。……まあ、ありがとな」

「おう。また暇な時にでも遊ぼうや」


 ……そうして、俺は元の位置へと戻る。


「ぐっ……正妻の座は譲らないからね! 相葉君!」

「気持ち悪いこと言ってんじゃねえよ!? 彼女いるって言ったよな今!?」

「ごめんな……豪。俺、男には興味無いんだ」

「なんで俺振られてんの!? 殴っていいか!?」


 そうして俺は席へと戻る。


「ふふ。みーちゃん、嫉妬した?」

「これで嫉妬していたら独占欲が拉致監禁するレベルだな。そんな奴いるわけ――」

「私は未来君が他の女の子と喋ってたら喉笛を噛みちぎりたくなるよ」

「拉致監禁するレベルの独占欲持ってる子いたわ。近くに。あと仕留めようとしないで」

「冗談だよ。する時は少しずつ……ね?」

「くっ殺警察だ! 混ぜろ!」

「混ざるな公安。仕事しろ」

「……未来。本当にお昼終わっちゃうから。ふざけてないで食べて。……ううん。食べさせる」


 すぐ横に咲が来た。そのまま俺の隣を陣取り……弁当を持った。


「……あ、あの? 咲さん?」

「うっさい。……ほら、口開けな」

「つ、ツンデレママ……」

「ツンデレでもママでもないから! ……じ、時間が無いのにいつまで経っても食べないからだし。ほら!」


 弁当箱の中の卵焼きが口に入れられる。……言葉はぶっきらぼうだが、その手の動きは酷く優しい。ギャップが凄い。


「ギャップ……私の場合だとどうすれば良いかな? やっぱり子供が出来たら性格もいい感じに変わると思うんだ」

「んぐ……それを口実にしたいだけだろ」

「当たり前でしょ」

「ギャップって言葉を調べてこい」

「……未来?」

「はい! 食べます!」


 俺はその勢いのまま、咲に食べさせてもらう。


「……ツンデレおかん?」

「だから! ツンデレでもおかんでもないから! ……もう」


 そう言って、続々と弁当の中身を口へと運んでくる咲であったが。



 その顔はどこか楽しそうにも見えた。

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