第49話 えっちなのはいけないと思います! えっちなのはいけないと思います!(大切な事なので二回言いました)
唐突になるが、俺は寝る事が好きだ。理由は特にない。強いて言うなら気持ちいいからだ。
(みーちゃんが睡魔に寝盗られる!)
いやそっちの気持ちいいじゃねえよ。あと睡魔に寝盗られるってなんだよ。三大欲求のうち二つが喧嘩してんじゃねえか。
(じゃあみーちゃんが屈強なスイマー六人衆に寝盗られるって事!?)
どっから出てきたよ屈強なスイマー。しかも六人も。
……とにかく。俺は寝る事が好きだ。休日など特にやる事がなければ昼寝をする。今日のように。
そうして眠っていたのだが。……まあ、普通に眠れるはずが無かったか。
「……ふふ。よく眠ってますね」
「ま、あんな事もあれば疲れるよね」
そんな声に意識を掬い起こされた。思わず寝返りを打ちそうになり……暖かい手に包まれた。
「……ん?」
「あ、ごめんなさい、未来さん。起こしてしまいましたね」
その声と共に、頭が暖かいものに包まれた。目を開いてやっと、俺は頭を撫でられているのだと気づく。
いや、それだけではない。後頭部に柔らかい感触が……そして、目の前に乳が。膝枕をされているのだ。
「……ここは天国か?」
「ふふ。現実ですよ、未来さん、おはようございます」
「おはよ、未来君」
「あ、ああ。おはよう」
すぐ側に星も居た。俺は起き上がって伸びをする。
「……というか俺、部屋に鍵かけてたはずなんだが」
「え? そうなんですか? お母様は自由にはいっていいと仰られていましたが……」
「そういえば零ちゃんと新ちゃん居ないよね」
……どこかで見ているのだろうか。『どこに隠れている! 分かっているんだぞ!』とか叫びたいがあの厨二病の時期を思い出してう゛っ゛……(絶命)
「それで、部屋に入ったら未来さんが床で寝ていたので……痛くないかなと思って膝枕をしていました」
「ああ……それでか。ありがとう」
ベッドで寝ると寝すぎてしまう。なので床で寝ていたのだが、彩夏が気を使ってくれたらしい。……それにしては刺激が強かったが。
推しに膝枕して貰えた上に頭なでなでとか。俺は前世で何人の人を救ったんだ? 英雄だったのか? それにしては今世が平凡すぎる出で立ちなんだが?
「いいえ、良いんですよ。最近はお疲れのようですし」
「いきなり拉致監禁から強姦されかけてたんだもんね」
「字面に起こすとやばいな。俺なんで平然としてるんだ」
犯罪も犯罪。大犯罪じゃないか。それに加えて睡眠薬で眠らされていたから……暴行もか?
「まあ、解決したから別に良いんだがな」
「それで済ませられる未来君も大物だけど」
「大体は零のせいだ」
俺が普通の男子ならばトラウマになっていただろう。それか今頃成人向け漫画みたいな事になっているはずだ。高校生でパパとか絶対に嫌だ。
「まあ、それは良いとして。二人してどうして来たんだ?」
寝起きで鈍った頭を覚醒させるために二人へそう聞く。……すると、二人は顔を見合わせて笑った。
「未来君に会いたかったから(ですよ)」
そんな――真っ直ぐな好意を向けられ、思わずたじろいでしまった。
「そ、そうか……」
「ふふ、それか一番の目的です。……ですが、あと一つ目的もあります」
「……あまりからかうな。それでその目的は?」
「そっちが本当に一番の目的なんですが……まあ今はいいです。話というのは咲ちゃんの事ですよ」
その言葉に俺は納得した。
「確かに視線は攻撃的ではあったが。実害は無いぞ?」
最近やけに視線を感じていた。まあ、よくある事なので無視していたが。その犯人は春山であったのだ。
「いえ、その……来週からボク達と朝から学校へ行ったり、お昼を食べたいらしくて」
「……また難しいな。別に俺は別の場所で食べてもいいんだが」
俺が嫌われる分には別にいい。ぼっち飯も慣れている。
……だが、それを零が許してくれるかどうかはまた別だ。
「あ、違います! そういう事ではなくて。……この前、未来さんが攫われてた時に零ちゃんと咲ちゃんと話したんです。……色々と」
俺が攫われてた時。……あ。という事は。
「……例の果たし状の送り主だったのか」
「そういう事です。咲ちゃんはすっごいいい子なんですが、ちょっと行き過ぎた所もありまして」
なるほど。しかし……。
「行き過ぎた訳では無いと思うぞ。普通、美少女を侍らせている男が居れば印象も良くないだろうしな」
実際は侍らせてなどいないのだが。……まあ、そう見えてもおかしくない。
男子からは当然ヘイトが溜まるだろうし、女子からも敵視されるだろう。
「だから、視点だけで見れば春山の方が合ってると言える」
「でも、ボクはそれだけで未来さんの事を全てだと判断して欲しくありません。……そういう事で、三人で話し合って決めたんです」
彩夏がじっと俺を見た。
「もっと未来さんの事を知ってから判断してもらいます、と」
「……そういうことか」
俺を見極める、という事だろう。
「分かった。その事は念頭に入れておこう」
「はい! 未来さんは普段通りにして貰えれば大丈夫ですからね!」
「分かった。……ちなみに星は他に用事があったりしたのか?」
「え? ないよ? 未来君に会いたかったんだもん」
星はそう言って近づいてくる。……そして、いきなり俺の手を掴み誘導してきた。
乳へと。
「ほら、あんな貧乳よりさ。こっちの方がいいっしょ?」
「えっちなのはいけないと思います! えっちなのはいけないと思います!(大切な事なので二回言いました)」
ああもう、今日は零が居ないから大丈夫だと思ったおっぱいが。
「ほれほれ、おっきくてやわっこいよ?」
「はぅっ、そんなので俺がおっぱいに負けるとでもおっぱい?」
「生で触っても良いんだよ? ……こうやってさ」
「やめて! 俺の中の男の子を刺激しないで!」
どうにか逃げ場を探そうとしていると……背中にやわっこい感触おっぱいが。
「ぼ、ボクもちょっとだけ嫉妬してるんですよ……? 未来さんと、その。は、裸であれだけ密着しているのを見たら」
「アッ」
「……おっきくなってる」
「やめて! 撫でないで! なんか二人とも今日は攻撃力高くないですか!?」
おっぱいフィーバーの中、どうにか理性をたもおっぱい。
……すると。星があっと声を上げた。
「いいこと思いついた」
「嫌な予感がします」
星がニヤリと笑い……そして、顔を首筋に埋めてきた。
「ッ!」
次に生じたのは……鋭くも、甘美な刺激。最初はただ痛いだけだったはずなのに。
数秒程して。星が顔を離した。
「未来君の、すっごいびくびくしてたよ?」
「嫌だ! 認めたくない! 俺はMじゃないんだ!」
「ふふ。すぐに認める事になるよ。さ、彩夏ちゃんもやっちゃって」
「ふぇ?」
唐突にそう振られて、彩夏は間の抜けた声を上げた。可愛い。
「ほんとに可愛い反応するよね……じゃなくて。ほら、未来君に自分のだって印付けたくない? 凄いよ、征服感」
「……」
俺は一瞬、やめろと言うべきか迷ってしまった。言えば彩夏はやらないだろう。別にそれが惜しいとかではなく……。
嫌なのだ。気を使った方が損をするのは。
「えっと……でも。嫌じゃ……」
「好きにしろ。やるなら早くやってくれ」
俺は腹を括り、そう言った。
……ああもう、だから優柔不断だって言われるんだぞ。おまえは。
(ふふ。でもそれがみーちゃんの良いところだよ)
当然のように乱入してくるんじゃない。リビング零。
(今、不幸になってる子は居ると思う? 居ないでしょ?)
……それは。だが、これから先不幸にするんだぞ。
(ならないよ。だって、私が居るもん。なんとかするよ)
全肯定すぎて本当は俺が生み出した架空の存在なんじゃないかと思い始めてきた。
(ふふ。それでも良いよ。本体の方も同じ事言うから。絶対)
……。
「そ、それじゃあ未来さん。行きますよ?」
気がつけば、彩夏が目の前に来ていた。星は俺の後ろに回っている。……当たっているのは置いておこう。
「あ、ああ」
そして……彩夏が俺の胸へと飛び込んできた。やけに甘ったるいような。しかし、決して不快ではない匂いが鼻腔をくすぐった。
思わず、俺は視線を下げてしまった。そこでは、彩夏が顔を真っ赤にしながら唇を押し当てる所だった。……その下では、豊満な胸が俺の体で押しつぶされていた。
あ、やばい。これ。
「……!」
「ね? すっごい跳ねるっしょ。こら、未来君。体引かないの」
「ああああの。割とマジで暴発しそうなんですが。許してください」
「だーめ。ほら、未来君。ちゃんと見てあげなきと? あれだけ必死にちゅうちゅう吸ってるんだよ? ……ふふ。私もさっきまではこんなだったのかな?」
彩夏が潤んだ瞳で、更に上目遣いで俺の顔を見ている。
「ぅ……あ」
やばいって。これまじで。
そうして……何秒もの時間が過ぎただろうか。やっと、彩夏が唇を離してくれた。唇と、俺の胸元との間に銀色の橋が架かった。
彩夏は少し恥ずかしそうに袖でそれを拭い……微笑んだ。
「初めてですが……う、上手く付けられました」
「曇り一つない眼で言われるの色々とクルんですが」
ちなみに、俺の方もどうにか暴発は抑えられた。いやもう本当によく頑張ったな。俺。
「やー……それにしてもさ。人がやってるのってエロいよね。未来君の顔も気持ちよさそうだったし」
「は、はい……すっごい可愛かったですよ」
「トドメ刺すのやめてくれない!? 割ともう限界なんだ、俺。まじで」
穴があったら入りたい。
(私はみーちゃんに入れられたいから……私は穴ってこと!? そ、そんな。みーちゃん。私を穴扱いするなんて…………興奮しちゃう!)
一人で盛り上がるな悪霊。塩まくぞ。
……と、その時だ。扉が開いた。
「ただいまー、みーちゃん。ゴム百個買ってきたから百個使い切るTAしよー」
「何買ってきてんの? 俺を殺す気なの? カラッカラになって死んじゃうよ? というか店員さんびっくりしなかった?」
「うん、買う時の店員さんの顔凄かったよ。同じくらいの歳の女の子だったんだけど。顔真っ赤にしてた」
「そりゃそうだろうな」
そして、零の後ろから二つの影が現れた。新と……静だ。
「お兄ちゃん起きてたんだ。寝てたら保健体育の勉強しようと思ってたのに」
「こんにちは、未来君。来ちゃった」
「向かうところ敵無しみたいなトリオだな」
この三人に勝てる人など居なさそうだ。いや、零一人でも敵無しなんだろうが。
「あー! 二人ともずるい! みーちゃんにキスマーク付けたでしょ! 私も歯型付ける!」
「ガチで痛いやつはやめような」
「じゃあ私はお兄ちゃんに歯型付けられたい!」
「付けないからな。妹に歯型付けるとか性癖終わってんだろ」
「……ギリッ……じゃあ私達はお互いに腕を食べ合おうね」
「最悪の等価交換やめろ」
「等価交換? ……私の体半分やるから未来君の体の半分をくれ! ってやつ?」
「最悪の錬金術師やめろ。というかまじでそろそろ怒られるぞ。名言を汚すな!」
……やはり静はそっち枠だったのか。圧倒的ツッコミ不足なんだが。え? これ俺が全部捌かないといけないの?
「なんで居るの? 浜中静」
「それはもちろん未来君に会いたかったからだよ? ……星ちゃん」
「……未来君は渡さないから」
二人はバチバチと睨み合っている。……これからどうするべきなんだろうか。この二人は。
「えへへ……未来さんにボクの跡が」
そして彩夏は……自分の付けたキスマークを見て微笑んでいる。可愛い。
それにしても……新しく人が加わった事でまた荒れそうだ。零と相談しながら喧嘩が起きたりしないようにしないとな。
だが、まあ。大丈夫だろう。多少賑やかになるだろうが。
不思議と俺の心には不安の気持ちは無かった。
――この時の俺は気づいていなかった。
これから先、どんどんと俺の中の『日常』が変化していく事に。平穏な日々が来るのはまだまだ先の事なのだと。
気づけなかった。
変なナレーション入れるのやめてくれない?
(てへっ、バレちゃった)
そりゃバレるだろうが。俺の心だぞ。そこは。
まあ、これから先。本当に日常が変わっていき、平穏な日々が来なくても。
零達と一緒なら大丈夫だ。必ず乗り越えられる。
(それと同時にハーレムメンバーが増えたりもする)
怖い事言うのやめてくれない? あとハーレムじゃないから。
俺は一つ。ため息を吐くのだった。




