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第39話 結果発表ぉぉぉぉ! ゴホッ……ヴ……ゲホッゴホッ……オエ

「という事でな? やっぱ俺の百花達が世界一可愛いんだよ」


 俺は永遠に向こうの自慢話を聞かされていた。いや、まだ二度目なのだが。


 それでも俺は口を挟みたくなった。


「ふん。……零達の方が可愛いけどな」

「は? 確かに彩夏ちゃんは可愛いが。俺の百花達の方が可愛いだろ」

「はぁ? 確かにそっちの奴らは可愛いとは思うが。零達の方が可愛いだろ」

「なんだと?」

「やんのか?」



 互いに睨み合う。その時、飛輝が鼻で笑った。


「ま、所詮お前がなんと言おうと無駄だよ。本当に可愛いと思ってるんなら『俺の』とか言うはずだだもんな。そんなのも言えないようじゃ他人に奪われてもいいぐらいの感情しか無いって事だよ」

「あ? なんだと? そんぐらいいくらでも言ってやるよ」



「俺の零達が世界で一番可愛いにきまってるだろうが!」




 ◆◆◆


「という事だ。分かったか?」

「うん、みーちゃんの熱烈なプロポーズは受け取ったよ」

「このやり取り五回目だよ? もしかして俺が知らないだけでタイムリープしてる?」

「その言葉聞くのもう三回目だよ、みーちゃん。もしかして認知症になっちゃった?」

「覚えてんじゃねえか。さっきは『え? 初めてだよ? この会話』とか言ってただろうが」

「戸惑うみーちゃんが可愛くてつい……」

「殴るぞ? いや、まじで」


 本気でこんなやり取りを五回もしている。頭おかしいのか? 俺も。


 それと……彩夏と星がずっと顔を赤くして俯いている。正直に言えばそれが一番クルからやめて欲しい。


「あと、新はずっとニヤニヤしてなにしてるんだ!」

「え? 今私とお兄ちゃんの子供達が喧嘩してて、サッカー対決でどっちがプリンを食べるのか決める所だよ? お兄ちゃんはどっちの応援するの?」

「色々と話が飛びすぎだな。二十二人も子供がいるのかよ」

「ベンチ含めて三十二人だよ?」

「子供一人にかかる養育費がどれくらいなのか勉強しような」

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。なるようになる」

「ならねえよ! 人生舐めてんのか!」

「私が舐めたいのはお兄ちゃんだけだよ! きゃっ、言っちゃった!」

「お前の羞恥心変なところに付いてない? 大丈夫?」

「お兄ちゃんが私の心配を……! これって『お前の事が大切だから心配してるんだよ(イケヴォ)』って事だよね……私もお兄ちゃんが大好きだよ! ――――(自主規制)しよ!」

「よしよし。おかしいのは頭だけみたいだな」


 試しに新の頭を撫でてみれば嬉しそうにしていた。


「えへへ……ちょっと濡れちゃった」

「報告せんでいい」

「あいたっ……もう、お兄ちゃん! チョップしないで! 嬉ションしちゃう所だったでしょ!」

「今世界最低レベルの会話してるの知ってる?」

 などと会話をしていると。両手に温もりが。


「……星? 彩夏?」

「や、なんか嬉しくなっちゃってさ」

「……はい。その、嬉しかったのでつい」


「やめて! 別の意味で心にくるから! 恋しちゃうから! ってみーちゃんが心の中で思ってる」

「零。ただでさえ地の文が少ないのにそれを会話に組み込むのやめてくれる? あとプライバシーって言葉知ってる?」

「あ、みーちゃん。私達勝負に勝ったからご褒美ちょうだい。みーちゃんの遺伝子で良いよ」

「お前らにはご褒美として『常識』を教えてあげような」

「そんなの生きていく上で使わないもん!」

「もしかしてお前世紀末に生きてるの?」


 ……などといつもの騒ぎをしていると。舞台の上に飛輝がやって来た。



「結果発表ぉぉぉぉ! ゴホッ……ヴ……ゲホッゴホッ……オエ」

「やってみたい気持ちは分からんでもないがまずは喉を鍛えような……ハッ。俺は何を……」


 聞こえないはずなのに思わずツッコんでしまった。


「みーちゃん……『悔しい……でも体が勝手にツッコんじゃう!!』って事だよね」

「……解釈不一致! お兄ちゃんは挿入れられる側だよ!」

「実の兄に解釈不一致とか言うのやめような。傷つくから」

「ちなみに最近私の中で熱いのはお兄ちゃんの生霊×お兄ちゃんだよ。……私の中が熱いって言葉えっちじゃない!? お兄ちゃん!」

「情報量の暴力。捌ききれんわ。一つの会話でボケるのは一つまでにしような」

「ボケてないもん!」

「ボケであってくれと心の奥から願ってたんだがな」

「私はいつでも真面目だよ!」

「今世紀最大のショックを受けてるぞ。今俺は」

「……! という事は今、お兄ちゃんの心は私で埋め尽くされてる……? あ、また濡れ「お前もう黙っててくれ!」」


 一向に話が進まない。丁度新を黙らせると……飛輝も咳が止まっていた。


「それでは! 結果発表の時間です!」


 改めて飛輝が言った。


「もう分かってる、とかそんな事は言わないでくださいね!」

「あとあいつのキャラ変凄いな」

「みーちゃんもキャラ変える? 泣いて叫ぶ女の子を無理やり犯すキャラとかどう? 私達なら訴える事も無いよ?」

「なんで最悪の方向に舵切るの? 思考まで方向音痴なの? あとキャラ変えないから。これ以上キャラ濃いのが出てきたら胃もたれするよ?」

「……未来君も十分キャラ濃いと思うけど」

「ごふっ……」

「みーちゃん! みーちゃんが倒れた! 今がチャンス!」

「やめろ。隙あらば脱がそうとするな。顔を近づけてくるな。血も涙もねえのかお前は」

「そんな物よりみーちゃんの遺伝子と私の遺伝子を混ぜ合わせたものが欲しい」

「欲望に忠実だなおい。時代が時代なら捕まって……いや現代なら捕まえられるな。おまわりさんこっちです!」

「おさわりうーまんならここに居るよ」

「やめろ! 触るな! 擦り付けるな!」

「はいそこ二人。そろそろやめようね。目立ってるから」


 俺を押し倒していた零を星が止めた。そして……


「大丈夫ですか……? 未来さん」

「ああ、ありがとう」


 彩夏が手を差し伸べてくれた。遠慮なくその手を掴む。


 自分から助けを求めるのはともかく、助けてくれるのなら別だ。というか助けてくれる、と言ってくれたのに断るなど失礼だろう。


「……それじゃあ、早速今までの試合を振り返っていきます!」

(ことわざ)

 飛輝の言葉と共にスクリーンに映し出されたのは……東城と彩夏であった。


「……一試合目は『じゅりりん』こと樹里VS彩夏ちゃん。どっちもめちゃくちゃ素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました!」


 スクリーンでは東城のナイフジャグリングと彩夏のファンサービスのウインクや投げキッスなどが映し出されている。ヴッ……


「可愛いは正義でもあり、同時に罪でもある……か」

「何言ってんの? 未来君」


 ああ、久しぶりのツッコミが骨身に染みる……


「……ってこれ俺もかなり毒されてんな」

「類は嫁を呼ぶって言うでしょ? みーちゃん」

「おかしいな。俺の知ってるじゃない」


 そうしている間にも映像は進んでいく。


「悔しい事にこの勝負、未来ハーレムの彩夏ちゃんの勝利だ。本当に惜しかった」


 最後に……点数が表示された。


 99.372点と、100点。

 当然、100点が彩夏だ。


「……彩夏もよく頑張ったな。凄かったぞ」


 顔に昇ってくる熱さを無視しながら彩夏の頭に手を置く。


「……はい! 未来さんのためにボク、頑張りました!」


 体が柔らかいものに包まれおっぱ…………耐えろ。耐えるんだ。空気が台無しだぞ。


「あ……」

「……みーちゃんのみーちゃんが」

「鎮まれ! 俺の中の男の子! やめろ!」

「…………ボクで反応してくれたんですね」

「やめて! その顔! 一番効くから!」


 落ち着くまで割愛。


「ふぅ……」

「お兄ちゃんが賢者になってる!?」

「男の子ってため息吐くのもダメなの!? ただ落ち着いただけだわ!」


 待て待て……折角落ち着いたのに興奮するんじゃない。


「え、えいっ」

「彩夏さん? なんで抱きついてきたの?」

「い、いや……なんとなく、そうしろって雰囲気が……」

「悪い意味で空気読まないで! また男の子の男の子が――



 割愛




「と、という事でお次は二回戦のハイライトだ!」

 画面に映し出されたのは星と姫内。二人の料理シーンだ。


「……!」

「星もよく頑張ってた。だからそんな真似するな」

 唇を噛み締めようとした星の頬を片手で掴む。


「誰が何と言おうと。俺は星の料理が一番美味いと思う」

「……みふるふん(未来君)」

「それと……もしご褒美の事を気にしてるなら忘れろ。お前の分も考えてあるから」

「……ふぇも(でも)」

「俺を助けると思って貰ってくれ。これでも一晩考えたんだぞ」


 嘘でもなんでもない。こちとら女の子へのプレゼントなんざ考えた事無いんだ。……零と新以外のは。



 そうしてやっと……星の表情が戻った。俺は手を離す。


「……未来君。ずるいよ、それは。彩夏ちゃんと零ちゃんと新ちゃんもあんなに頑張ってたのに。私を同じ扱いするなんて」

「だからと言って、努力した人の評価を下げるのは嫌なんだよ、俺は」


 努力を続けるのがどれだけ難しいのか。


 そして、実らせる事がそれよりももっと難しい事も。


「だが、まあ。星の言い分も分からん訳ではない。だからな」


 改めて。俺は星の頭に手を置いた。


「次、勝てばいい。その前払いだと思え」


 飛輝がわざわざ『第一回』などと言ったのだ。どうせそう遠くないうちに第二回もあるだろう。


「……!」


「……結果が未だに出てない俺だからこそ分かる」


 ……才能の塊を間近で見てきたからな。だからこそ、言える。


「星なら次は勝てる」


「……はぁ。もう、本当に未来君は……」


 星はため息を吐き、俺の手を掴み……



「うぉっ……」

 引っ張られた。そしてそのまま――




 頬に柔らかい感触が走った。


「大好きだよ、未来君」


「ッ……」


 そうして。星は笑った。




 あの頃と同じように。優しい笑みだった。

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