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第36話 ごふっ

「く、黒歴史って。かなりエグいのぶっ込んできたね」

「……後でこの質問OKしたの吊るそ」


 隣から何やら物騒な声が聞こえる。まいっか。


「黒歴史……ねぇ。あんまり人に話す事では無いけど」

 さっきのアレを見てしまったからか、間違えるのでは、などという思いは無い。


「まあ、零ちゃん達ならいい具合にボカシながら正解しそうだけど……」

「こっちも……まぁ。ずっと一緒に居たらしいし、大丈夫だと思う」



 既に四人とも書き進めている。……長くない? 零ちゃんと新ちゃん。え?


「また嫌な予感がしてきた」


 ……大丈夫かな。未来君耐えられるかな。


 そんな事を考えていると、二人も書き終えた。


「時間が無いのでどんどん進めて行きます! まずは百花ちゃんチームの回答です!」


 じゃん、という音と共に向こうのチームの回答が出る。


『中学生の頃、家で次の日の授業の予習をして肝心の授業では学校に攻め込んできたテロリストを対処する妄想をしていた』

『中学生の頃、授業を聞かずにテロリストを対処する妄想をしていた。その代わりに家で予習をしていたからテストはトップだった』



「おぉ……あれ、男子の中では定番なんだっけ」

「そういえば。SNSでそんな感じの事を皆が言ってたの見た気がする」


 テロリストと戦う妄想と……黒歴史ノートだっけ。そちらに関しては覚えはある。



 ……未来君とどこに出かけたいとか。どんな食べ物が好きなのかとか。


 ……どんな初体験をしたいとか。


 ああ、あのノートちゃんと処分してたかな。ちょっと家帰ったら確認しないと。


 あんなの未来君に見られたら死ねる自信がある。


「お、男の子らしい妄想ですね。わ、私は良いと思いますよ、飛輝君」

「で、では次行きますね! 零ちゃんチーム!」


 スクリーンに映し出される。


 ヒュッと息が抜ける音がした。



『中学二年生の頃。キャラ付けをする為に尖った性格をしていた。美術の授業にて「尖った絵を描くね」と言われ、褒め言葉として受け取ってしまう。それからも尖ってたから周りに「よお、ジャックナイフ(笑)」と言われる。でもみーちゃんは皮肉だと気づかないまま一ヶ月を過ごした。皮肉だと気づいた瞬間家に引きこもった。慰めるために「でも、ジャックナイフって名前かっこいいよ。みーちゃんも言ってたじゃない」って私がトドメさしちゃった』


『中学生二年生の頃。お兄ちゃんが零ちゃんぐらいキャラが強ければ釣り合うんじゃ……って迷走してて尖った事ばっかり言うようになった。陰謀論とか。真っ黒な服を着て絵とかも真っ黒なぐじゃぐじゃの絵を描いて満足そうにしてた。時々お兄ちゃんの部屋から「これがお前の選択なのか……」とか聞こえてきた。多分学校でも同じ感じで「ジャックナイフ(笑)」とか言われて喜んでた。それで全部気づいて恥ずか死してた時に「大丈夫、私だけはお兄ちゃんがジャックナイフとか呼ばれてるのかっこいいと思ってるよ!」って私がトドメ刺しちゃった』



「想像してた三倍くらいやばいの出てきたんだけど」


 ギャラリーが阿鼻叫喚の渦だ。「痛い痛い痛い痛い」とか「共感性羞恥いぃぃぃい」とか「うあああああああ」とか聞こえる。


 ガチだ。ガチの黒歴史だ。お遊びでは無い。本物の。


『み、未来さん……ぼ、ボクは。その。今の未来さんであるために必要だった事のはずなので! 良いと…………良いと思い……ますよ?』

「未来君の事なら全肯定しそうな彩夏ちゃんでもフォロー出来てない……や、確かにえっぐいのぶち込んできたけど」


 でもちょっと見てみたい気はする。厨二病未来君。


「……でも。ボクもちょっと見てみたい気持ちはありますね」


 彩夏ちゃんも同じような事を言っていた。思わず苦笑する。


「と、とりあえず正解発表……いっておきましょうか」


 そうして、スクリーンに未来君達が映し出される。


「それじゃあ飛輝君。貴方の一番の黒歴史を教えてください」


 プ、プロだ……これがアイドル……もう動揺していない。


「く、黒歴史……?」

「はい、黒歴史です。思い切って言っちゃってください」


 あ、これ早く終わらせるのが二人のためだって分かってるんだ。


「そ、そうだな……中学生の頃。授業を無視して色々と妄想をしていたな。その。テロリストが攻めてくる妄想とか」


「……! 正解です! 百花ちゃんチーム、2ポイント獲得です!」


 机の前に書かれていたポイントが2から4へと増える。


「よく分かったな……これ人に話した事無いんだが」

「授業中はきーちゃんの事ずっと見てたもん。視線とかで分かるよ」

「中々怖い事言ってるなお前」


「……? 何を驚いてるんだ? 飛輝。一挙手一投足から心音から瞬きの回数まで見られてるだろ。普通」

「えっ……大丈夫? お前。てか心音って脈測るか直接耳あてるかしないと分からんだろ?」

「……そうなのか? 零はいつも俺の脈拍知ってるんだが。なあ、零」

「ん? みーちゃんの脈は今一分間で80回だよ」

「いつもは65〜75だからちょっと早いよね。お兄ちゃん、緊張してるの?」

「な?」

「えっ……怖」


 何してるんだあの三人は。本当に医者が要らないんじゃないか。未来君には。


「ちなみに呼吸も正常だし血流もおかしくないよ。顔色も悪くないし、健康体」

「え? 医者? 医者志望なの? お前の幼馴染」

「いや……そういえば零の将来の夢ってなんなんだ?」

「え? みーちゃんのお嫁さんだけど。もちろん正妻ね」

「うん。普通に聞いた俺が馬鹿だったな」


「そ、それより! 未来さん、貴方の一番の黒歴史を教えてください!」

 これでは話が進まないと思ったのだろう。彩夏が強引にそう言った。



「…………『一番の』黒歴史だよな」

「え、はい。一番のです」


 未来君はそう聞き返し……ため息を吐いた。


「……中学生の頃、厨二病を患っていた。一時期は本当に狂っていたな。……見栄えの悪い絵を描いたり、ずっと真っ黒な服を着ていたり。…………悪いがそれぐらいにさせてくれ。死ぬ。恥ずかしくて」

「え、えーっと。とりあえず零ちゃんチーム正解です! 二ポイント入ります!」


 零ちゃん達のモニターの所の数字が4になる。


 ……そして。


「一応零ちゃん達の答え、見せておきますね」

「あれ? 彩夏ちゃんってもしかしてS?」


 向こうにスクリーンが映し出されたのはすぐに分かった。


 ……未来君が立ち上がったから。



「なっ……お、おま、お前ら……」

「「てへっ」」

「『てへっ』じゃねえよ! 人の心とか無いのかよ! なんで二人して別の視点から詳しく説明してるんだよ!」

「私達からしたらそんなみーちゃんも愛おしかったから……」

「お前は客観視という言葉を覚えろ。想像しろ。こんな事を俺以外の誰かがしていたら?」

「えっ……きもちわる」

「ごふっ」

「未来!?」


 未来君が倒れて飛輝君が介抱した。……なんだこの状況は。


「でも! みーちゃんだから気持ち悪くないもん! ジャックナイフってかっこいいもん!」

「お前は死体の上でタップダンスをするのか!? しかもヒールで!」

「そんなもったいな…………事しないよ! ちゃんと丁重に扱うよ!」

「今本性表したな」

「てへっ」

「『てへっ』じゃねえ。お前まじで帰ったら説教だからな」

「ずるい! 零ちゃんばっかり!」

「よしよし。お前もちゃんと説教するからな。変な方向に行かないよう星も連れてな!」

「巻き込まれた!」


 まさかいきなり名前を呼ばれるとは思わなかった。……まあ、良いんだけど。


「え、えっと……それじゃあ時間も無くなってきたので。次行きますね、未来さん」

「……………………ああ。分かった」


 かなりの沈黙の後に未来君はそう言ったのだった。


 それから先の質問もなかなか凄いものだった。



「こ、子供は何人欲しいですか? 妻一人に対して、のクイズです」


『みーちゃんは一人と答える。経済的な理由から。でも絶対に八人は産ませる』

『お兄ちゃんは一人って言うけど私とお兄ちゃん含めて十一人は産む』

「おかしいよね!? 百歩譲って産むだけなら分かるけど! 俺も産む事になってるのなんで!?」


 とか。


「ど、どうやって朝起こされたいですか?」


『みーちゃんは恥ずかしがり屋なので普通に声をかけて起こされるとかモーニングコールで起こされたいって言う。でもしっかり男の子なので裸でベッドに忍び込むとみーちゃんとみーちゃんのみーちゃんも喜ぶ』

『平凡な起こされ方をしたいってお兄ちゃんは言うけど。実は零ちゃん達が裸で忍び込んだ日の方が肌の艶は良い。口角も0.2mm上がってる』


「お前らは普通に回答出来ないの!? というか新! 分析するのやめろ!」



 ……そうして。次は折り返しの五問目だ。ちなみに向こうも全問正解している。



 ついでに言えば未来君のメンタルもやられている。二問目以降は割と普通の質問だったのに。


「続いて五問目です! 五問目は……」



 紙を見て。彩夏ちゃんの顔が真っ赤になった。


「彩夏ちゃん? ……こ、これって……」




 それを樹理ちゃんが不審に思って紙を見て……ボッと顔を赤くした。


「う、嘘ですよね……これ、本当に聞くんですか?」


「……なんだろう。何かあったのかな」

「まーた変な質問でも来てたんじゃない?」


 彩夏ちゃんが顔を真っ赤にしながら言おうとしたが……


「それは彩夏ちゃんには読ませられません。私が読みます」


 樹里ちゃんがその紙をひったくった。


「えーと。それでは。第五問」


 てーれん、と音が鳴る。



「飛輝君と未来さんのナニの大きさをお答えください」






 その言葉に……会場がシンと静まりかえった。




 そして、途端にざわつき始める。


「いやー……それ来ちゃうんだ。がっつりセクハラでしょ」

「……後で見つけ出して潰しとくから。社会的にも、男としても」


 湧いてきた怒りも隣で冷たい目をしている冬華ちゃんを見れば落ち着いてくる。



 ……多分本気だ。


「そ、それでは! お書きください!」


 そう彩夏は言った。また零ちゃんと新ちゃんの答えが長引くはず――



「え?」


 しかし。すぐに四人は書き終わった。


「えっ……と。書き終わりましたでしょうか」

「ん」

「終わったよ、彩夏ちゃん」


 彩夏ちゃんの言葉に二人がそう言って、残りの二人も頷いた。


「そ、それでは回答です! まずは百花ちゃんチーム!」


 その回答が出ると……主に男性陣がザワついた。



『23cm』



「ふふん。どーよ。飛輝君のは」

「……ふん。未来君のだって大きいし」


 正直、男の人の大きさなんて知らないけど。でも、未来君のアレが普通じゃない事は分かる。


 そうだ、零ちゃん達なら分かるはずだ。


「それでは次に。零ちゃん達の答えです!」







 しかし。



「……え?」





 私はスクリーンに映る答えを見て。驚いた。





『分からない』『分からない』




 ……と。書かれてあったのだから。

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