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第30話 つまり……みーちゃんは私の中で生き続けるって事!?

「さあ一回戦はカラオケ対決! 俺の樹里はどんな歌声を聴かせてくれるのか!? それと彩夏ちゃんの生歌聴きたすぎる!」

「凄いな……あのMC。めちゃくちゃあっちに肩入れするのかと思ったら割とこっちまで応援……いや、あれただオタクしてるだけだな。同じ匂いする。多分次からは偏向実況になるぞ。多分」

「みーちゃん。あのイケメンの推しがこっち陣営にいる感想をどうぞ」

「んな事言われても実感ねえよ」


 ため息混じりにそう返していると……彩夏が俺の目の前へとやって来た。


「未来さん」

 少し緊張した様子で俺の名前を呼んだ。


「……? 緊張してるのか?」

「えっと、その……はい」


 その答えに思わず笑ってしまった。


「彩夏の仕事に比べれば、こんなんどうって事無いだろ。ミスしても良いんだよ。気楽にやってくれ」

「……いえ。それは出来ません」

 俺の言葉に……しかし。彩夏は首を振った。



「ボク……この半月で。改めて思ったんですよ。未来さんの事が大好きなんだって」

「お、おう……」


 真正面から好意を伝えられ、俺はそんな言葉しか出せなかった。


「だからこそ、嫌なんです。未来さんが他の人に舐められるのは」

「……!」

「ボクがあの人に勝って、それで未来さんが周りから見られる目が変わるのなら……ボク、頑張ります」


 俺の手を取って。彩夏はそう言った。


「だ、だから。ボクが勝てたらご褒美とか欲しいなーとか思ったり?」

「……まあ。そうだな。ご褒美とかも考えてはいる。……あんまり高いものは買えないが」

「……! 嬉しいです! ボク、頑張ります!」

「ああ。――」


 俺は頑張れ、とは言わない。……彼女の一ファンとして。こう言うべきだろう。


「楽しみにしてる」

「はい!」


 そして、彩夏は舞台裏へと向かったのだった。


「みーちゃん。私のご褒美は子供で良いからね?」

「今は無料で出来るんだろうが。後々かかるお金の量が凄いな。却下」

「じゃあみーちゃんの童貞頂戴」

「そういうのは無しだ。絶対言うと思ったからな」

「むう……じゃあみーちゃんの処女で良いよ」

「話聞いてた? ねえ」

「未来君、私にもあるの? その、ご褒美って」

 と、やっていると背後から星が抱きついてきた。


「あるぞ。あるから乳を押し付けてくるな」

「えー? でも減るものじゃ無いよ?」

「その減らないからいいじゃんみたいな考えやめよ? 目に見えないものが減るんだよ? 精神力的な。RPGでいうとMP的な何かが。俺が戦士キャラなら問題ないんだけどさ。こう、火炎斬りとか「長い、みーちゃん」クソ、相変わらずツッコミにシビアだなおい」


 小さい頃ゲームをしまくっていたせいでつい長いツッコミになってしまった。


 ちなみに、こうした長くて一部にしか伝わらないしそもそも面白くないものは零にバッサリぶった斬られる。鬼だよ。


「……鬼って人の肉食べるんだよね」

「やめてくださいごめんなさい俺が悪かったです」

「ふふ。大丈夫だよ。みーちゃんが生きてる限りは食べないから」

「死んでも食べないで貰える? なんかカニバリズムってやばいって言うじゃん? 衛生的に」

「大丈夫」

「まーたとんでも理論でも「胃液って何でも溶かせるはずだから」随分と力技だなおい。胃液の事信じすぎだろうが。アニサキスは胃液の中でも活動出来るんだぞ」

「つまり……みーちゃんは私の中で生き続けるって事!?」

「バッドエンドルート入ったなこれ」

「お兄ちゃん! 私はお兄ちゃんの中で生き続けたい!」


(だから私は! こっちでも生きる!)

「やめて? イマジナリー零に加えてイマジナリー新まで侵入してきたら対処出来なくなるから。というかそれどうやってんの?」

「なんかこう、お腹の奥の方にぐって力込めたら出来た」

「そんな簡単に出来ていい技じゃ無いだろ……」


 という事で悪霊退散をし終える頃には、会場の準備も整っていた。


「それでは会場の準備が整いました。……まず最初は! 俺のハーレムの中でも一段ヤン味が強い東城樹里だ!」

「凄いな。自分でハーレムって言い切るのか。というかヤン味が強いって……」


 舞台にスポットライトが当たる。……そこにいた東城は。


 かなり変わっていた。


 文学少女だったはずなのに。その髪型は健康的なポニーテールに。……そして、少し目立たない服装だったものは元気で可愛らしい黄色のフリルの付いたワンピースを着けていた。



「……凄いな。ここまで変わるか」

「ほんとだね……でもあれって――」

「まあ……星もこれだけ変わってるし。出来るものなのか」

「や、凄いよ。……人間、変わろうって思っても難しいから。私も見た目だけ変えても中身が押しでちゃって。陰気な雰囲気が滲み出ていた時期もあったし」

「……そうか。あと新。暗闇に紛れてズボンを下ろしてこようとするな」


 こっそり近づいてきた新の頭をぐりぐりとしていると、曲が始まった。


「さあ! 樹里の歌う曲は! 【ヤンデレーズ】の『必ず殺してみせるよ』だ!」

「物騒な曲名だな!? というかなんだ!? そのグループ全員がナイフを持ってそうなグループは!? それかどっかの動画サイトでネタにされてそうだな! ヤンデレの妹に死ぬまで「呼んだ? お兄ちゃん」呼んでねえ! とにかくあれみたいに!」

「あれ? みーちゃん知らないの? 去年ぐらいに流行ったアイドルグループ。全員がナイフを持ってて、ジャグリングしたり曲芸したりするの」

「すげえな……俺【nectar】しか知らなかったから」

「あれ……? でも待って。どこかで見た事ある。あの顔。……服装はかなり違うけど――」




「そう! 東城樹里の正体は【ヤンデレーズ】のセンター!『じゅりりん』だったのだ!」


 ――うおおおおおおおおおお!



 と。歓声が上がった。


「あ、そっか。じゅりりんってあんな顔だ。……いつも少し暗い服を着てたから気づかなかった」

「ほんとだ。いつもはツインテールだったけど今日はポニーテールにしてるから気づかなかった」


 零と星がそんな会話をしている横で俺は驚き……そして、首を傾げた。


「……さすがに驚いたが。それにしても凄い人気だな」

「当たり前だよ。【nectar】の前は【ヤンデレーズ】がアイドル界の新星だったんだから。……最近でも結構テレビに出てるよ?」


 新の言葉に驚きながらも納得する。……確かに、個性も容姿もずば抜けている。nectarには負けるがな!


 とは言え……


「上手いな。あれ、あっちからは音程のバー見えてないんだろ?」

「見えてないね。後ろを向いたらみえるだろうけど……アイドルらしい。顔はギャラリーから背けてない」


 歌が上手いのはもちろん、ファンサも欠かさない、ウインクや投げキッスなどをする度に歓声が上がる。


「……それにしても上手い。なんかこう、心にずっしり重しがかかってくるような感じだ」


 歌詞が物騒なのもあるのだろうが。『他の人を見る悪い目は要らないよね? 私だけを見て。私を感じるなら心だけで十分だよ。他の女を触ろうとする体なんて要らないよね?』とか。恐ろしいんだが。


 ……しかし、それをかき消すような楽しげな歌声で歌っている。


 そして……間奏に入ると、俺は思わず目を見開いた。


 東城はスカートの中……太腿から二本のナイフを取り出した。その処女雪のような眩しい肌に皆が目を奪われた。


「みーちゃんの目も奪おっか?」

「怖い事言わないで一人ヤンデレーズ」


 そして、東城は……ナイフで様々なパフォーマンスをした。


 二本のナイフを用いた演舞にジャグリング。……どこからかもう一本のナイフを取り出し、三本のナイフで曲芸を行った。


 そして、東城が飛輝へ視線を送ると……飛輝が何かを投げた。



 それは一つのザクロであった。



 そして、東城がそのザクロを……握りつぶした。


「いやそこナイフ使わないのかよ」

「未来君、ツッコミ癖ついてるよ。ちゃんと聞いてて」


 ――こんなザクロみたいに。君も潰せたら良いのにね


 ――でも、私にはそんな力は無い。だから――


「このナイフで君を貫くの♪」


 ぐしゃりと。その潰れたザクロにナイフを突き刺した。


「大丈夫? これテレビで流してたの? え? 子供泣いちゃうよ?」

「それが案外受けたんだよね……子供達の間でヤンデレーズごっこが流行ったぐらいには」

「この世界は狂ってやがる」


 そうして、ラストのサビへ入る。


 それは……思わず聞き惚れてしまうほど。綺麗な歌声であった。



 ……歌詞の中で人は死んでるんだが。


 そうして歌が終わると……皆が盛大な拍手や指笛を送った。


「……しかし、凄かったな。歌も踊りも。流行る理由も何となくわかった気がする。子供には聴かせたくないが」

「最近の子って結構グロ表現もいけるみたいだからね。個人差はあるんだろうけど。……あと、私も生で聴けるとは思ってなかった。アイドルって凄いね」

「……! そうだ! こんど彩夏ちゃんのライブあったら連れて行って! お兄ちゃん!」

「ああ、もちろんだ」

 新にもnectarの良さを再確認してもらおう。というか零や星も連れていこう。そうすれば彩夏が拗ねそうだから、その時は皆でヤンデレーズのライブでも行ってみよう。


「でも、未来君。あんまり慌ててないみたいだよね。……あれだけ上手くて音程も外さなかったのに。どうして?」

「そんなの彩夏を信じてるからに決まってるだろ」


 相手がアイドルだろうが歌手だろうが。彩夏は負けない。


「それでは皆様。点数が出ましたのでスクリーンに映そうと思います」

「あいつのキャラ七変化凄いな」


 どこぞの執事のように仰々しくお辞儀をする飛輝を見ながらそう思った。


「それでは気になる点数は……」


 ドラムロールが鳴った。どこまで豪華にやってんだよとは思うが。



 思わずごくりと生唾を飲み込んでしまった。




 ダン、と。音が終わりを告げる。そしてスクリーンに映し出された点数は……









「99.372点……か」

ここまで読んでくれてありがとうございます!

面白いと感じていただけましたら、↓の方から★を入れてくださると嬉しいです!ブックマークも嬉しいです!


また、明日は二章の終わりまで投稿する予定です!

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