第23話 むぅ……みーちゃんの怪獣腹パンボイス処女が奪われた
「お兄ちゃーん! 前戯あそぼー!」
「うん。おかしいね、漢字。それと新。前回でお前のターン終わったんじゃないの?」
「ずっと私のターンだよ! お兄ちゃん!」
「お兄ちゃんね? 忙しいんだよ。ゴールデンウィーク明けにはテストもあるし」
「ふっふっふ。そう言うと思って! 分からない英単語があったからお兄ちゃんに教えて貰いに来たんだよ!」
そう言って新はノートを見せてくる。
「これ! これの発音の仕方と日本語訳教えて!」
「ん? ……これはヴァ……なに言わせようとしてんだ!?」
「チッ……ばれた」
「もうやだこの子どうにかして……」
「呼んだ? みーちゃん」
「呼んでない。というかお前本当にどうやって出てきた? それにもう夜だぞ」
上からコウモリのように零が宙吊りになって登場してきた。そう返すと、零は得意げに鼻を鳴らした。
「ふふん。お母さんにみーちゃん家に泊まる! って言ったら良いよって言われたから。避妊はしなさいねって言われたけど反抗期だからしないよって言ってきた。以上」
「反抗期を理由にするんじゃねえよ」
「んっっ……分かった。次はみーちゃんが好きだからってちゃんと言うね」
「違う。そうじゃない。あと次もないし変な声を上げるな」
「そ、それって……今日で孕ませるって事!? それとね……変な声上げちゃったのはみーちゃんに結婚しようって言われて嬉しくて。きゅんってしたの。子宮が」
「情緒大丈夫? 耳鼻科行く? 確実に幻聴聞こえてるね。それとその描写は確実に成人向け漫画の言葉なんだよ」
「……? そういう世界だよ? ここは」
「違うよ? この世界はね。……俺は……俺は一体何を言おうとしてたんだ?」
「お兄ちゃーん! これはなんて読むの?」
「ああ。それはニプ……危ねえ。引っかかるところだった」
新の男子中学生みたいなイタズラに耐えながら、俺は零をジトっとした目で睨む。
「本気で泊まる気なのか?」
「……? 今更だよ? 時々みーちゃんが寝てる時に添い寝しに来た事あったし」
「ははっ。鍵変えよっかな」
「じゃあ私は頑張って開けるね!」
「頑張らんでよろしい。その努力を別の所に向けない?」
「勉強も運動も大丈夫だよ。勉強はもう中学生分のは全部理解したし」
「くそ……天才なのが仇となってる。兄として誇らしいはずなのに褒められない」
それより、と新が俺へと抱きついてきた。
「零ちゃんが寝るなら私もお兄ちゃんと同じ部屋で寝る!」
「羊がいる檻にライオンとトラを放り込むのかお前は」
「どっちかというとライオンのメス二匹だよ。ライオンとトラだと喧嘩しちゃうでしょ?」
「ははっ。しかも群れで狩りをするしな。絶望的じゃねえか。てかお前はさっさと降りてこい。頭に血上るぞ」
そう言えば、零はすたっと降りてきた。
……。
「お前って本当に人間か?」
「またそんな。人間以外の何に見えるの?」
「人間以外の何かに見えるんだよ……」
「まあまあ。それは置いといて寝よ? 脱いで?」
「脱がねえよ」
「むぅ……仕方ない」
「アナタニホンゴワカル? ナンデヌガセニキテルノ?」
「天井の染みを数えてたらすぐ終わるよ、お兄ちゃん」
「毎回思うけど新。どこからそういう言葉知るの?」
「零ちゃんからだよ」
「やっぱ元凶はお前か!」
そう言いながら零を見ると……なぜか全裸になっていた。
「???」
「あ、私寝てる時に服脱ぐ癖あるんだ」
「うん。もし本当にそうだったとしてもおかしいよね。起きてるよね」
「まあまあ。寝てる時と起きてる時の違いって意識の有無ぐらいしか無いし」
「十分大きい違いだよね。服着な?」
「えいっ」
流れるように俺は(略)
「零ちゃんずるい! 私も脱ぐ!」
「脱がんでよろしむぐっ」
「さ、みーちゃん。やろ?」
「んぐ?(ひょっとして今日n回目のピンチ?)」
「大丈夫。人間の一生って短いから。百年や二百年ぐらい私達にちょーだい!」
「ががぐぐ(本性出したな! 人間は二百年も生きられねえよ!)」
「え? 私がいれば生きられるよ?」
「ぐ……(やっぱお前ラブコメの世界に居るべき存在じゃないだろ! 異世界に帰れ!)」
「あ、そっか。あっち行ったら一夫多妻出来るもんね。星ちゃん達連れて行こっか」
「!?」
「ふふ。久しぶりにみーちゃんの驚く顔見れて満足。冗談だよ」
「ぐむむ……ぷはっ。心臓に悪いわ。お前ならちょっとありそうで怖いんだよ」
「ふふ……」
「否定して!? 微笑まないで!?」
俺が言ったのと同時に。スマホから通知音が鳴った。
見ると、星からだった。
『明日は零ちゃん達と私の家で料理の練習するんだけど、未来君と新ちゃんも来ないかな?』
という内容だった。明日は学校が休みだ。俺は了承の返事を返した。
ということで。星の家のあるマンションへとやってきた。
「星の家に来るのは初めてだな……ふぁぁ」
「そこそこ仲良かったけど……家に行くのはハードルが高かったもんね、中学生には。もちろんあの頃とは住んでる場所も違うけど……それと、眠そうだけど大丈夫?」
「……十五回だ。これが何の数字か分かるか?」
と。彩夏と星へと聞けば。二人の顔は真っ赤になった。
「れ、零ちゃんと新ちゃんと――した回数?」
「おい。むっつりアイドル&地雷ギャル。俺をどんな化け物だと思ってるんだよ」
二人をジトッとした目で見た後、やけに元気な残り二名を見る。
「この淫魔×2が襲いかかってきた回数だよ。気がついたら服やズボンが脱がされていたり新しい性感帯が開発されそうになっていた俺の気持ちが分かるか?」
「てへっ」
「ぶん殴るぞ。本気で」
「イタズラした上にご褒美までくれるの!?」
「アレ○サ! 零と新に反省させる方法!」
『こっちが知りたいです』
「ぐっ……最先端の技術でも分からないっていうのかよ!」
「なんで家にアレ○サあるって分かったの!? というかなんでアレ○サも反応してるの!?」
「まあそれは置いといて」
「……未来君って零ちゃん達に負けないくらいとんでも人間だよね」
「ははっ。まだ人間ならいいじゃねえか」
「何その含みのある言い方。めっちゃ怖いんだけど」
玄関前でそんなことをしていると。彩夏がおずおずと俺の服を掴んできた。
「あ、あの……ボクが言うのもあれなんですけど。早く入りませんか?」
「あ、ごめんごめん。ちなみにお母さんは今日友達とデートに行ってて夜まで帰ってこないからね」
「5Pのチャンス」
「ねえよ。そんなチャンス」
などとやっていると、星が扉を開いてくれた。
「そんじゃ入っちゃって。狭い部屋だけど」
と言う星に続いて扉に入る。
「……綺麗にしてるな。そういえば星は几帳面な性格してたんだったか」
「あはは……ちょっと掃除はしたけどね」
玄関や廊下には塵一つ無い。フローリングもピカピカと輝いている。
「それじゃあ早速キッチンに案内するね」
そうして俺達は星について行ってキッチンへと入る。
「そういえば星は料理って何作るんだ?」
料理のお題は得意料理。つまりは自由課題だ。和風料理だろうが西洋料理だろうが、なんでも良い。
「……ハンバーグ。作るつもりだよ」
おお、と思わず言ってしまった。
「あの時未来君が美味しいって言ってくれたから。頑張ったんだ」
その言葉に喉が詰まって変な声が出そうになった。
「んぐぶふぇっげ」
というか出た。
「だ、大丈夫? 未来君。怪獣が腹パンされたみたいな声出してたけど」
「わ、悪い。ついな」
「未来さんってつい、で怪獣が腹パンされたみたいな声出すんですね……」
やめて。恥ずかしい。
「むぅ……みーちゃんの怪獣腹パンボイス処女が奪われた」
「その一文だけ見たら本当に意味がわからないね」
とかやりつつ、次に俺達はリビングへと案内された。
「それじゃ、ここで未来君は待ってて。今からクイズするから」
「……クイズ?」
オウム返しで聞き返すと、星が笑顔で頷いた。
「私と彩夏ちゃんと零ちゃんと新ちゃんで小さめのハンバーグ作るから。どれが一番美味しいか言ってね。私が一番じゃなかったらガチ凹みするよ」
「急に重いな!?」
「ま、そういう事だから作ってくるね」
「ボクも美味しくなるよう作ってきますからね!」
「私は愛情だけ込めて作るね」
「私も! 愛情とかその他諸々入れる!」
「頼むから零と新が作る時は誰か見張っててくれよ?」
しかし、俺の声も虚しく。零達はキッチンへと向かったのだった。