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第16話 九条零魔王説が濃厚になってきたな……

「という事なので、お昼は浜中さんと蒼音さん、お二人で会議室までお願いしますね?」

「……はい」

 先生の言葉に俺はため息を吐きながら答える。


 浜中と俺が呼ばれた理由。それは当然、遠足の委員の集まりがあるから。恐らく最後の。


「……未来さんとお昼食べれないです」

「まあ……仕方ないだろ」


 彩夏の言葉にそう答えながらも、俺は強く視線を送ってくる方を向いた。


(う・わ・き!)

 どこをどうすればその答えに辿り着くんだよ。てか集まりだって言ってたじゃねえか。


 口パクで何度もそう訴えかけてくる零はもう放っておくしかない。うん。


 そうして、俺は昼まで零に浮気だなんだと騒ぎ立てられていた。


 ◆◆◆


「という事で、遠足でのスマートフォンの使用は禁止とします」




 その言葉に、集まりに来た生徒達はざわざわとし始める。当たり前だろう。


 いや、それにしても。スマホの使用禁止と来たか。この高校は。髪型は許すのにか。ひゃっはーは良いのか。ひゃっはーは。それとピンク髪も。


「先生! 詳しい説明を求めます!」


 三年生の……生徒会長だったか。名前は覚えていないが、彼女がそう言った。


「ええ。最近生徒の素行が悪すぎます。未遂とはいえ、強姦のような事までありました。……被害者の生徒の強い要望が無ければ警察を呼ぶところでしたからね」


 うわ、しかも俺絡みかよ。……まあ、悪ノリの延長線にしてはやり過ぎてたもんなぁ……


「それに、元々学校側でカメラを用意して各クラスを回るつもりでしたから。思い出としてはそれで十分でしょう」


 いや、これ理由付けに使われただけだな。あの事件があったにせよなかったにせよ、禁止になっていそうだ。


「納得がいきません。どうして一部の……本当に一部の生徒のためだけに私達が我慢を強いられないといけないんですか?」

「それは連帯責任だからですよ」

 うわ、出た。俺の一番嫌いな言葉。連帯責任。


 真面目な生徒の足を引っ張らせる制度。正直者は馬鹿を見るってあれだ。先生側は生徒に「お互いに注意をしろ」などと言うが。先生が言っても言う事を聞かない奴なんて、同じ立場である生徒の言う事なんざ聞かんだろ(個人の意見です)というか、真面目にやっていた生徒が問題事に巻き込まれる可能性だってあるんだぞ(個人の見解です)


 まあ、今はそれは良いとして。俺にめちゃくちゃ視線が集まってきている。俺に何とかしろと? 俺めちゃくちゃ被害者なんですが?


 ……と言ってもなぁ。生徒会長の意見も聞かないんだぞ。その問題のクラスの言う事なんて聞く……?


 あ。そうか。


「先生。俺からも良いですか」

「ふん。なんだね?」

「問題のクラスである俺達のクラスで、その中で被害者でもある俺ですが。俺から見ても、クラスの男子達は反省してます。この話し合いで大切なのは、俺達のクラスが反省しているかどうか。という事実なのでは無いでしょうか。反省している生徒達に更に反省を促す、という事は意味の無いように思えます」

「そんなの君の主観でしか無いだろう。そもそも本当に反省しているのか?」

「それなら俺達のクラスに視察にでも来てください。勝手に決めつけるのは良くないと思いますが」


 ……と。そう言えば、先生は押し黙った。


「ダメだ。それでもスマートフォンの使用は認めん」

「どうしてでしょうか?」

「ええい! 問題を起こす方が悪いだろう!」


 うわ、古典的な教師かよ。頼むからダメな理由ぐらいは説明してくれよ。


「そうは言いますが。先生。それだと俺達のクラスが見せしめのようになります。もしそれが原因で『いじめ』などが発生した場合、先生は責任が取れるんですか?」


 だが舐めんな。こっちは零へのツッコミで相手の弱い部分は分かってんだぞ。


「ぐぬ……だ、だが。そもそも学校側がカメラを用意すると言っているだろう」

「それは卒業アルバムに載るものですよね?」

「ああ、そうだとも」

「それなら余計にスマホの許可をして貰いたいです。記憶が色褪せないうちに写真を残し、仲間内で共有して楽しむ。それこそが学生らしい振る舞いなのでは無いでしょうか?」


 ……と。最後の『学生らしい振る舞い』という言葉は、入学式で校長先生が言っていた言葉だ。よく覚えてたな俺。零の発言に下手な返事を返せなかったから身についた技術だ。


「う、ぐぬ……」

「もう一度、先生方でも話し合ってほしいです。俺からは以上となります」


 これ以上やれば逆に怒らせかねない。零の襲いかかる一歩手前で引く技術で慣れ……って俺、零から学びすぎてないか?


(ふふ。私との経験が活きてくるって言葉なんかえっちだよね)

 やめろ! イマジナリー零! 鎮まれ! 悪霊退散!


「……せ、生徒達から強い反発も起きそうだと。もう一度職員会議で話し合ってみよう」


 おお。上手くいったっぽいぞ。

(ふふ。お礼は体で良いからね?)

 嫌だわ。自称守護霊の生霊よ、欲が強すぎないか。

(私は零の性欲が霊っぽいものになった存在だからね)

 おい待て。弱体化してアレなのかよ。強すぎて封印された魔王が現代で無双するラノベかよ。


「と、とりあえず今日の集まりはここまでだ。各々、気をつけて戻るように。……スマホの件の是非は、後々先生方に伝える」


 ……と。そして、俺達は教室へと帰されたのだった。


 正直、自分でもなかなか上手くやれたと思う。緊張して高鳴っていた心臓を押さえながら教室へと戻っていた時だ。


「ふふ。かっこよかったよ、未来君」


 ……と。浜中に至近距離で言われ、更に心臓がうるさくなるのだった。


(浮気!)


 ……と。囁いてくるイマジナリー零を無視しながら、俺は教室へと戻った。


 ◆◆◆


「以下省略! みーちゃんは無期懲役です! 私の隣に。来世まで」

「飛ばしすぎだろ。映画のネタバレを公開日に呟くインフルエンサーかよ。炎上するぞ」

「でも私の分霊が言ってたもん! みーちゃんが浮気してるって!」

「え? あれ意識繋がってんの? てか零は一体何者なの? なんで当たり前のように自分の分身を俺の心に住まわせてるの?」

「まあまあ。それは置いといて」

「置いとけねえよ? 死活問題だぞ?」

 こいつ本当に魔王なんじゃねえか? どっかの異世界の。


 そんな現実逃避をしながらもため息を吐く。


「それより集まりって何の話だったの?」

「ん? ……ああ。なんか遠足でスマホが使えなくなるかもってなっててな「大丈夫だった?」」


 俺の言葉へ割り込むように、零は言った。


「周りに何かされなかった? 先生に意地悪されなかった? 潰す? 潰した方が良い?」

「九条零魔王説が濃厚になってきたな……。物騒な事を言うな。俺は大丈夫だったから」


 ……と。俺がそう言えば、零は近づいてきて。


 俺の上に座った。


「何がどうなってそうなったんだ?」

「あれがこうなったからそうなったんだよ」

「なんも分からねえ!」

「私も!」

「この会話無益かよ。時間を返せ」

「そ、それって……お前の時間を全部寄越せっていう新しいプロポーズ!?」

「ダメだこいつ。早く医者に診せないと」

「えへへ……男の子かな。女の子かな」

「そっちの医者じゃねえ! つか出来てねえだろ!」

「ふふ。どうかな?」

「その冗談やめて! 心臓に悪いから!」

「でもやっぱり最初は女の子だよね。未零ちゃんを迎えに行かないと」

「まだ言ってるのか!? やめろ、イマジナリー娘が俺の所まで侵食して……く……る」


(おとーさん!)

「やめろ! 悪霊退散!」


 そう唱えれば……やっと消えた。本当に魔王かよ。いや、これ魔王よりもタチ悪いだろ。精神侵食型って。


「ふふ。諦めないよ。私」

「諦めて!? お願いだから!」

「ねー! イチャイチャ! し過ぎ!」

「や、やめ。乳どんは……ん? 何を……」

 乳ドンではなかった。しかし、俺は零ごと向きを変えられた。机に向いていた所から、彩夏を前に。星を背にする方で。

「せーのっ」

「物凄い嫌な予感がするんだ……がっ!?」


 しかし、俺はそれ以上言えなかった。思い切り肩を掴まれ、仰向けになるよう引き倒される。


 後頭部にやわっこい感触が。太腿だ。星の。


「わあ。柔らかい」

「!? みーちゃんが壊れた!?」

「おお。未来君は脚フェチだったんだ」

「み、未来さん。絵面が凄い事になってますけど」

「はっ!? 不純異性交遊反対!」


 彩夏の言葉に意識が戻る。やばい。絵面が。言葉に起こしてみよう。


 まず最初に。零が俺に座っていた。その状態で俺が仰向けに寝ればどうなる?



 挿入はいってるやん。


 その状態で星に膝枕をしてもらう?



 そういうプレイやん。



 しかもそれを彩夏に見てもらう?



 そういう(以下略)



「俺の上がった株が大暴落だわ。零と新の事を言えなくなったぞ」

「ふふ。お揃いだね、みーちゃん」

「悪い意味でお揃いになって喜ぶのやめよ? どうせならさ。なんか良い事でお揃いにしないか?」

「……? みーちゃんとお揃いなら全部いい事だよ?」

「そうだった。こんなやつだった。零は」

「ぼ、ボクも参加したいです」

「やめろ、彩夏。痴女に染まるな。清楚で居てくれ。唯一の良心が消える」

「え? 痴女扱いして良いの? それならちゃんと痴女っぽい事するよ?」

「うん。封印されし乳ドンやろっか?」

「ごめんなさい許してください」

「許すから挿入()れよ、ほら。スカートあるからバレないよ?」

「それは許すって言わねえ。それとバレるに決まってるだろうが。俺は学校でヤッて退学になったとかいう伝説を残したくねえ」

「ふふ。死ぬ時は一緒だね」

「共倒れって言うんだわ、それ。さっさと降りろ」

「やだもん。みーちゃんからもう離れないもん」

「子供か。いいから早く――」

 もうこうなったら実力行使だと脇に手を挟む。だが、俺は一つ大事な事を忘れていた。


 でかいのだ。零は。俺の指は零の横乳に埋もれた。柔らかすぎる。なんだこの暴力的なまでの柔らかさは。


「やんっ。……もう、みーちゃん。こんな白昼堂々とするなんて。溜まってるの? トイレ行こっか?」

「クソっ! 餌を与えてしまった! だが言っておかないと男として終わる気がする。すまなかった」

「ふふ。良いんだよ? そのまま揉みしだいても。ほらほら」

「やめろ! 手に乳を押し付けるな! 男として大切な何かを失ってしまう気がする!」

「こんなにかた「言わないで! 地位が! カーストがマイナスまで行っちゃうから!」え? イッちゃう? もう、いいんだよ。イッちゃえ♡イッちゃえ♡」

「消される!!! 俺達の物語が終わっちゃう!」

「な、なるほど。やっぱり未来さんはおっぱいと太腿に弱いんですね」

「やめて! 良心彩夏! マトモ枠ゼロは物語として成立しなくなっちゃうから!」

「ふふ。みーちゃんが全部突っ込んでくれるから大丈夫だよ。……私のにも突っ込んで良いんだよ?」

「ド下ネタじゃねえか。お前もう黙っててくれよ」


 ……と。そんなやり取りをしながらも俺は考えた。




 俺、遠足で生き延びられるのだろうか、と。

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